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騎士の嫁入り  作者: 純太
序章
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閑話 最高位神子のみぞ知る

 聖地アルジナの神殿最奥は神域と言われ、神子達の住まいがそこにあった。

 白金の美しい髪を風に遊ばせながら、ノエルは自室の前庭で椅子に腰かけ、じっと遠くを見つめていた。


「何を、ご覧になられているのですか?」

「トゥルース」


 トゥルースは片手にお茶を持ち、それをノエルに手渡した。ノエルはカップを受け取ると、花香るお茶の匂いを堪能した。


「ありがとう。良い香りね。」


 そしてノエルはゆっくりとお茶を飲む。

 ノエルが一息ついたところを見計らいトゥルースは、それで、と切り出しもう一度同じ質問をした。


「何をご覧になられていたのですか?」


 ノエルはカップをテーブルに置くと瞼を下ろし、輝く金の瞳を隠した。


「特に何も?ただ遠くを何となく見ていただけ」


 それだけ言うとノエルは再びカップに口を付けた。トゥルースはノエルが見ていた方を見て考えた。この方角は、陽が昇る場所であり、彼の大国がある方角だ。


「ああ、そう言うことですか」


 なるほど、とトゥルースが一つ頷く。ノエルは一気にお茶を飲み干すと息を吐いた。カップを側のテーブルに置くとそこに肘をつき、顎を置いた。


「黒髪に蒼い瞳の少女、でしたっけ?帝国が求めていた皇帝の結婚相手は」


 トゥルースは蒼い瞳を細めると、呆れた顔をしたノエルに新しいお茶をそっと注いで渡した。ノエルは受け取ると、すぐさま一気に飲み干し、空になったカップをトゥルースにそのまま渡した。


「『蒼い瞳の少女』、今代は一人も居ませんでしたよね」

「そうね」


 蒼い瞳はマータの証し。

 人々には潜在的に母なる大地の力であるフェルを持って生れてくる。人々はフェルを使い、火を起こし、水を流し、風を起こし、自然を操り、フェルを使い共存して日々を生きてきた。中でも強いフェルを持ち、力を使うことに長けた者は術者と呼ばれた。そして、最も強いフェルの力を持っているのが、神に愛された存在である神子であった。

 しかし、人々の中には稀に父なる空の力であるマータを持って生れてくる子どもがいた。マータを持つ者はその証しとして皆、瞳が蒼い色をしていた。マータの力が強い者ほど、その色は深く濃い。

マータはフェルと正反対の性質を持っており、フェルが祈り願うことで力を発動するのに対し、マータは否定し拒絶することで力を発動する。

 また、マータの特徴として、フェルを拒絶し反射もしくは相殺する力を持っていた。マータ使いは稀少であり、そのほとんどが教会に引き取られ、その特徴から神子騎士と育てられる。そして、マータの力を使い、たとえフェルで命を狙われようとも神子を守るというお役目を定められた。

 現に、トゥルースも最高位神子騎士としての任に就いている。

 さらに、マータ使いは9割を男性が占めており、女性のマータ使いは更に少ない数しか存在しない。なので、女性のマータ使いはその希少性から教会で丁重に保護されていた。

 そして、今代では蒼い瞳を持った少女はいない。


「一体誰のことを言っているのでしょうね。皇帝の初恋の相手って」

「・・・・・・そうね」


 ノエルは再び遠く、彼の大国ジャミースタ帝国を見つめた。

 文を送って来た帝国宰相の話によると、皇帝とその初恋の相手が出会ったのは今から13年前のこと。

 当時皇子であった現皇帝は神殿主催の月夜に咲く花を愛でる宴、『月華の会』に出席していた。その場には初恋の少女もいた。少女の年の頃は皇帝よりもいくつか下。

 大人達の輪から抜け出し二人は夜の中庭で、月明かりに照らされて仲を深めたのだそうだ。

 その時、月に照らされた少女の容貌は年月も経っていることから曖昧であるが、色だけは皇帝も鮮明に覚えており、確かに『黒髪に蒼い瞳』をしていたのだそうだ。


「それにしても、ユエル殿は本当に適役だったのかもしれませんね」

「どうして?」


 トゥルースの発言にノエルは遠くに向けていた金の瞳を首を傾げながら、傍に控える蒼い瞳の騎士へと向けた。


「ユエル殿の瞳は翠。見ようによっては青ととれなくもないと思えるんです」

「・・・・・。」


 ノエルは静かにトゥルースの蒼い瞳を見たまま。


「皇帝が例の少女と逢われたのは夜で、しかも明かりは月の光のみという薄暗い中。ユエル殿の翠の瞳も、そのような場所では見ようによっては青く見えたかもしれないと思いませんか?」

「・・・・・・そうね」


 ノエルは静かに瞼を一度閉じた。

 ノエルには皇帝の初恋の相手に心当たりがあった。トゥルースは後天的にマータの力を手にして最高位神子騎士の座に就いたため、神子騎士としての教育を受ける前の神子騎士達のことや神子達の神域事情には少々疎かった。 そのため知らないのだろう。

 皇帝が出席した宴に『黒髪に蒼い瞳の少女』は確かに存在していたことを。

 心当たりは一人。しかも限りなく黒。

 その少女の事を想い、ノエルは心の中で祈る。

 彼女のこの先の人生に幸あらんことを。


なんだか、真面目な話になってしまった(・・;)


長女の名前が初登場!

ということでマクスウェル家の愉快な兄弟をご紹介します!!


マクスウェル家4兄弟

長女 ノエル(最高位神子)

長男 シリス(司教)

次男 クラウ(神殿騎士団3番隊隊長)

次女 ユエル(神殿騎士団1番隊副隊長)


こんな順番になっています。

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