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騎士の嫁入り  作者: 純太
第3章

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仄かな気づき

大変お待たせいたしました。

「全く貴女は何を考えているんですか!!」


ユエルが目覚めたという知らせを受けたリベラは息を切らせて現れたかと思うと、開口一番、力の限り怒鳴りつけていた。

リベラの怒鳴り声にユエルは反射的に耳を塞いだ。


「まあ、落ち着いてリベラ殿」

「いいえ、陛下。黙っていられません!分かってる?ユエル。マータを使うことがどんなに危険なことか」


レオの制止の声も虚しく、リベラはユエルに向き直ると腰に手を当て、眉を吊り上げてユエルに詰め寄った。


「今までだって、少しは使っていたよ?」

「少しでしょ!それに、使ったあとは熱出して毎回寝込んでいたじゃない!そんなことも忘れたの?」

「う」

「しかも、今回は少しではなく、随分と多くのマータを使ったようだし、大きなマータの術も使ったみたいだし。マータとフェルの調整に一体どれだけ体力使ったと思うの!」

「うう」

「しかも刺されるし」

「ううう」

「死ぬつもり?」


まさに撃沈。

もうリベラの言葉にユエルは言葉も出なかった。

項垂れるユエルの姿を見て、リベラはひとつ息をつくと、ユエルのベッドに近づき、腰を下ろした。

そして抱き寄せ、細い腕で優しく包み込んだ。


「ユエルが無事で、生きていて良かったわ」

「リベラ・・・・・・ごめん」


友人の言葉にユエルはリベラの背に腕を回した。

それから呼ばれた医者によりユエルは診察を受け、順調に回復している旨を伝えられた。


「暫くは安静ですが、来週には出歩くこともできるでしょう」


医者の言葉に周りは緊張を解いてほっとした表情を見せた。

医者が出て行くと、次はリベラがユエルの様子を見て診察を始めた。


「瞳の色も戻っているし、良さそうね。もう少しフェルの調整をしましょうか」

「ああ。分かった」


そう言うと、ユエルは徐に服を脱ぐ仕草を始めた。

それを見てギョッとしたのはレオとヨハンだった。


「ちょっと待て!」


レオの止める言葉に、ユエルはボタンを外す動きを止め、首を傾げてレオを見つめた。


「どうされました?」

「どうされました、じゃない!男がいる前で堂々と脱ぐな!今出て行くからそれまで待て!」


と、言うが早いか、レオはヨハンを伴い慌ててユエルに充てがわれた寝室から出ていった。


「男性の前で脱ぐなんて、まだ寝ぼけているの?」


溜息と共にリベラに小突かれユエルは自分の失敗に気づいた。

危うく変態になるところだった。





リベラの治療を受け、フェルの調整をユエルは受けていた。


「ねえ、ユエル。どうしてあんな無茶をしたの?」


リベラの問いかけにユエルは首を傾げた。


「無茶?」

「そうよ。逃げるだけであれば簡単だったでしょうに、敵を追い詰めるために逃げずに戦ったり、あまつさえマータまで使用した。それを無茶と言わずしてなんと言うのやら」


リベラは最後の方は恨み節で言った。

それに対して、ユエルは乾いた笑いしか出なかった。

ユエルは頬を掻き、考えるように視線を下に向けた。


「本当に私は無茶をしていると思っていないんだ」

「どういうこと?」

「人のために尽くす、あの人のことを守らなくちゃと思って、そう考えたら勝手に体が動いてて。剣を向けられた陛下を見たときは、命を捧げてもいいと思ったのは本当」


賢帝として民から慕われ、善政で一国を治めている。民のことを想い、民に尽くすその姿を見て、ユエルはレオのことを尊敬していた。

そんな主に仕える騎士は幸せだと思ったこともあった。

そこまで考えて、ユエルはふと思った。

ああ、そうか。私は


「私はレオ様の騎士になりたいのか」


ユエルの呟きにリベラは目を丸くした。


「貴女、まさか」

「あ、いや。思っただけだから」


慌てるように顔の前でユエルは両手を振るが、リベラは真剣な顔でユエルを見つめた。

その様子に気圧されたユエルは次第に振る手を止めてリベラと向き合った。


「ユエル。貴女がそう思うときは、相手に相当な好意を持っている時よ。自覚ある?」

「え?」

「最高位神子様を命をかけて守ろうとした時、その時は間違いなく愛があった。“家族愛”が。でも今回は違うわ」


真剣なリベラの眼差しに、ユエルも表情を固め、リベラの次の言葉を待った。


「ねえ、貴女。陛下のことが好きでしょう」


疑問形ではない、リベラの言葉にユエルは仄かに色づいた。




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