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騎士の嫁入り  作者: 純太
第3章

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目覚め

ユエルが再び瞼を上げたると、見覚えのある天井が目に入った。

ジャミースタで与えられた部屋に自分がいることにユエルは気付いた。


無事に終わったのだろうか。


ユエルは身を起こすと、腹辺りに引き攣るような痛みを感じた。

そこで、そういえば腹部に敵の攻撃を受けたのだということを思い出した。

ユエルは痛みを堪えながら起き上ると、周囲を見回した。

近くには誰もいないようだ。

怪我をして眠っていたようだから、起きた今となっては誰か呼んだ方がいいのかとユエルは思案した。

どうしようか。

そうしていると、不意にドアをノックする音が聞こえた。

その音に反射的に「はい!」とユエルが応えると、勢いよくドアは開かれた。

あまりの勢いの良さに、ユエルは目を丸くするが、それ以上に半身を起すユエルを見てドアから覗くレオの方が目を大きく見開き丸くしていた。


「目が覚めたのか」

「えっと、はい」


あまりにジッと見つめられ、ユエルは所在無げに頬を掻いた。

その様を見たレオは表情を和らげていき、最後には目元を優しく細めて微笑んだ。






ユエルを攫った黒幕の終焉は非常にあっさりしたものだった。

犯人であったマール伯爵は現行犯逮捕で襲撃したその日に捕えられ、マール伯爵に加担していたと思われる人物たちは次々に芋づる式で捕えられていった。

本当にあっという間の出来事であったと、指揮を執っていたレオですら感じたようだった。


「ユエルを亡き者にして、その後釜に自分の娘を据えるつもりで犯行に及んだらしい」


何とも愚かな、と言ったのは誰だったろうか。

その場に居たベリエナを攫わなかったのは、コリエ侯爵家の力が怖かったからだとか。

何とも馬鹿な、と言ったのは笑顔を湛えたヨハンだった。相変わらず容赦がない。


「何はともあれ、一件落着、ということですか?」

「まあ、そうだな」


ユエルのほっとした表情に、レオも表情を緩めた。


「あとは、ユエルがしっかり療養して傷を治すだけだな」


ユエルは苦笑すると、傷口にそっと手を当てた。

出血も相当あっただろうに、今はわずかに痛みを残すばかりで、再び血が滲むようなこともない。

傷を負ってから、自然治癒で傷が完全に塞がるほどの時間は経っていないことを考えると、術を施されたのだろうことが容易に考えられた。


「リベラ殿に治療を施していただいた。事情も、聞いた」


お腹に手を当てる様子を見て、レオが言った。


「そうでしたか」

「あの時、お前の瞳は確かに蒼で、あの力はマータだったんだな。しかし、マータを使った反動で熱が出るわ3日も眠り続けるわで肝が冷えたぞ。まったく、本当に、無茶をする」


ユエルは笑ってその場をごまかした。

あの時はあれが最善だったと思っている。

フェルを使う事が出来ない上に、フェル使いとしては相手が明らかに上だった。

だから、自信のあったマータを使った。脱出に使用し、レオの身を護るために使用した。

彼を失うわけには行かなかったから・・・・・・。


「すみません」

「自分の身を大切にするんだ」


そう言うとレオはユエルの頭に手を伸ばすと、優しく撫でた。

ユエルはそれを甘受した。


「今回はすまなかった。守ってやれなくて」


しばらく撫でられていたユエルだったが、レオのこの言葉に伏せていた顔を上げ、レオの手を掴んで頭から離した。


「レオ様、私は根っからの騎士です。生まれた時から騎士として育てられ、騎士として生きてきました。だから、構わないんだ。守ってもらわなくても」

「しかし・・・・・・」

「私は守られる存在でなく、守る存在に、騎士でありたいんだ」


嘗て、自分は守るべき人であった姉に守られ、この命を繋いだ。

そして、守ると誓った相手から離された。

ユエルは完全に思いを遂げる事が出来ずに過ごした。

そして、ある日であったのが目の前の気高き皇帝。

ユエルはその誇りに目を奪われ、その志に心を奪われた。

これ程までに騎士でありたいと強く思ったのはいつぶりだろうか。


「私は、レオ様を守りたいと思った。貴方になら命を捧げてもいいと思った。だから傷など瑣末なこと。」


ユエルは掴んだレオの手を両手で握り締めた。

そしてフワリと笑んだ。


「貴方に怪我がなくて良かった」


一瞬、その場の時が止まった。

ユエルに手を握られたレオは徐々にその頬を淡く染めていき、その場に居合わせたヨハンは窓に視線を向けてユエルとレオを見ないようにしていた。

周囲の反応を不思議に思ったユエルは首を傾げる。

ユエルは原因を考え、自分の言葉を反芻し、やがて気付いた。


これではまるで、愛の告白じゃないか!


ユエル一瞬にして顔を種に染めたかと思うと、握っていたレオの手をパッと放し、一時停止の後、掛布を急いで引き寄せて中に潜り込んだ。

激しい動きに傷が少し痛んで肩が跳ねた。


「あ、こら。急に動くな」


痛みに跳ねた肩に気付いたレオから叱責が飛ぶ。

しかし、恥ずかしさのあまりそんな忠告などユエルに聞き入れる余裕など全くなかった。


穴があったら入りたい!


一旦連続投稿はここまでです。

次回は週末(おそらく土曜くらい)に更新します。

また暫しお待ち下さい。

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