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騎士の嫁入り  作者: 純太
第3章

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帰還

※流血・残酷表現あり

引き続きご注意下さい。

皇帝率いる一段の帰還は騒々しいものとなった。

先陣を切って騒いでいるのは誰でもないレオであった。


「医者を至急手配しろ!」

「お怪我でもされたのですか?!」


焦った様子のレオの声に、出迎えたヨハンは驚いた様子で問い返した。

ヨハンの問いかけにレオは否と首を振り、腕に抱えるユエルを見下ろした。

そこでヨハンもユエルが腹部から血を流していることに気が付いた。


「すぐに手配いたします!」


レオは駆けてその場を去るヨハンを見送りながら、ユエルを抱える腕に力を入れた。


「陛下、一先ず医務室へお連れしましょう」


冷静なバルトの言にレオは無言で頷くと、そのままユエルを医務室まで運んだ。


「どうか・・・・・・・」






「これは大変だ」


医務室へユエルを運ぶと、熟練の医師が控えていた。

医師はユエルの状態を確認すると、すぐに施術の準備を始めた。

医師は手早くユエルの服を剥がし患部を露わにさせると、傷口に手を翳しフェルで治療を始めた。

ユエルの患部が温かな光に包まれ、術が広がっていくのが分かる。

名医と名高い老齢の医師は、数々の治療にあたった熟練の医師でもあった。

まだ、油断は許さないものの、彼が余裕の表情で治療にあたるさまを見ると、それほど深刻な状態ではないのだろうと、少し胸を撫で下ろせた。

しかし、医師は施術を施しながら眉間に少し皺を寄せた。


「これは・・・・・・」

「どうした」


医師の変化に気づいたレオは問いかけた。


「陛下、申し上げます。ユエル様に治癒のフェルをかけているのですが、一向に術がかかる気配がございません。フェルが効いている気がいたしません」

「フェルが効かない?」


レオの復唱に医師は頷く。


「はい」

「それは真か。そんなことがあるのか」


目を丸くし、バルトも医師に問いかけた。

医師は少し考える素振りを見せると、重々しく口を開いた。


「思い当たる節といたしまして、一つございます」


医師の言葉にレオは先程屋敷で見た光景を思い出す。


「・・・・・・マータか」

「左様でございます陛下」


医師の同意にレオは顔を歪めた。

フェルを拒絶し、拒絶することで唯一フェルに打ち勝つ力とされるマータ。

その力の特徴ゆえに、マータ使いにフェルでの治療は拒絶され効かない。

マータ使いへの術での治療は、同じマータ使いでしかできない。

即ち、フェルでの治療が効かないということは、ユエルが限りなくマータ使いであることを示していた。


「恐らくユエル様はマータをその身に宿しております。フェルが一切効かないところ見ますと、相当なマータ使いでいらっしゃるはずです」


医師のこの言葉にヨハンは目を見張った。


「それであれば、神子騎士であったはず。ユエル様の瞳は翠で、神殿騎士だったとのことですし」

「実際に訓練でも、フェルを少しお使いになる程度であった」


バルトもヨハンに同意するように言葉を続けた。

しかし、レオだけはそれに二人に同調することはなかった。

レオを守るためにフェルの力で作られた術を弾き返し、その瞳を蒼く染めていた。

どのような仕組みか分からないが、正面から対峠したユエルの瞳は確かに蒼かったのだ。

皆が驚き戸惑っていると第三者の声が響いた。


「お医者様の仰る通り、ユエルは、マータ使いでした」


声の方を向くと、入口にリベラが佇んでいた。

急いできたのか、着込まれた神官服の裾は乱れ、その顔も深刻なものとなっていた。

リベラは施術台に寝かされたユエルを見つけると、目を見開き、駆け足でユエルへ近づいた。


「これは、ひどい怪我」


リベラの言葉にハッと思い出したように医師は言葉を発した。


「血を随分と喪失しています。一刻も早く治療を施さなければなりません」


その言葉にリベラは頷くと、腕まくりを始めた。


「ここからの治療は私が引き継ぎます」

「何をおっしゃいます神官様!神官の貴女はフェル使いでありましょう?フェルを拒絶するマータ使いには、貴女であってもできません!」


医師の訴えにリベラは静かに首を振った。


「いいえ。私はユエルを治療することができます。その力を最高位神子様より授かり、この地へ参りました」

「それはどういう・・・・・・」

「まずは人命救助が先決です。一刻を争うのでしょう」


レオはリベラに問いかけるが、リベルの言葉にユエルの状態を思い出し口を噤んだ。


「ここはお任せ下さい」


そう言うとリベラは、傷口へ手を翳し治療を始めた。






リベラによる治療が終わり、暫くするとユエルの呼吸も規則的なものとなった。


「顔色も戻り、経過は良好なようです」


施術台から寝台へ移されたユエルの容体を診た医師の言葉に、その場に居た人々は安堵の息をついた。


「これで後は目を覚まされるのを待つばかりです」


静かに眠るユエルを見つめ、レオは拳を強く握りしめた。

胸を撫で下ろすリベラを視界の端に収めたレオは、ユエルの治療にあたる前に発したリベラの台詞を思い出した。

ユエルがマータ使いであり、フェル使いであるリベラがその治療を行えるのは何故なのか。


「リベラ殿、この件について詳しくお話を伺えないだろうか」


真っ直ぐで真摯なレオの視線に射抜かれ、リベラは「きたか」と内心漏らし、ゆっくりと頷いた。


「少し、長い話となりますが、よろしいでしょうか。幾分か昔の話になります」


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