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騎士の嫁入り  作者: 純太
第2章

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脱出2

まずは武器の調達からだろう。

牢から抜けたユエル達は慎重に屋敷の中を進んだ。

幸いなことに、牢が並ぶ部屋の出口にジーンから没収したであろう剣がぞんざいに置かれており、それを回収。

ユエルは出口にいた見張りから剣を拝借し、武器は難なく調達できた。


「うん。悪くない」


剣を軽く振り、自分でも扱えることを確認するユエルの傍ら、あまりにも鮮やかで音もなく見張りの兵士を倒し、剣を奪ったユエルの体捌きにジーンは呆気にとられていた。

そして、それを見て、さらにユエルが何者であるのか疑問が膨らむばかりだった。


「行くぞ」


身を低くし、気配を消しながらユエル達は脱出のために進む。

牢屋から出たものの、屋敷は大きく、中々外に出る事が出来なかった。

装飾や家の創りから見て貴族の屋敷なのだろうが、広さからそれなりの権力を振るっていることが分かる。


「一体、誰が私を殺そうとしているんだろうな」

「・・・・・・私にも分かりかねます」


ジャミースタの人間ではないユエルを殺したいほど憎んでいる貴族などまだいないだろう。

それにユエルが邪魔だと思っている敵などそうそういないはず。

一瞬、ベリエナの顔が浮かんだが、意識が途切れる寸前、彼女が見せた蒼い顔を思い浮かべ、違うと首を振った。

しかし、ジャミースタの情勢にあまり明るくないユエルでも分かることが一つある。


「でも、皇帝陛下の婚約者候補を殺すのです。王座を脅かす存在になる事は間違いないでしょう」


ジーンの言にユエルは無言で頷いた。

早々にこの屋敷を出たいところではあるが、危険物をそのままにしておくのは気が引ける。

レオは国を良い方向へと導ける器を持った皇帝だ。

ユエルは立ち止まると少し思案し、後ろからついてきていたジーンを見やった。


「ジーン。貴方は皇帝陛下にその身を捧げ、剣を捧げられて幸せか?」


突然のユエルの問いにジーンは目を見開くも静かに頷いた。


「はい。陛下は民を思いやり、民に尽くされる素晴らしい主だと思っています。そんな陛下に私は仕える事が出来、幸せです」


一介の騎士にそう言わせてしまうレオの器にユエルは小さく笑った。


「私も、陛下に剣を捧げられたら幸せだと思う」

「え?」

「では、少し付き合ってはくれないか?」







事の起こりはベリエナがバルコニーで倒れているのが発見されてからだった。

華やかな宴の席の裏で、いったい何があったというのか。その場は騒然となり宴はお開きとなった。

ベリエナの居たバルコニーには真珠が散らばっていた。それは黒髪を輝かせていた真珠にとても酷似していた。

レオは胸騒ぎを覚えヨハンにユエルの居場所を聞いた。

ヨハンは分からないと首を振り、そこに現れたリベルとユエル付きの侍女の真っ青な顔を見て胸騒ぎの正体を自覚した。


「ユエル様のお姿がどこにも見えません・・・・・・!」




「ユエルが攫われた」


レオのこの一言に会議室がざわついた。

目覚めたベリエナの証言によると、ユエルと二人で話していると突如黒装束の人物が現れ、ユエルにフェルをかけたそうだ。

明らかな不審人物に、その場にいた護衛騎士のジーン・ウッドは敵を退けるために応戦したが、相手の術中に嵌りユエル同様にその場に倒れ、また、戦う術を持たないベリエナも成すすべなく敵のフェルを受けて意識を失った。

ベリエナは両手で自身の体を抱き、震えを抑えるように身を固くしていた。

静まらない会議室に視線を配り、レオはもう一度口を開いた。


「相手の目的、相手が誰であるのか全く分からない状態だ。だからこそ、忠臣である貴方方に知恵を貸していただきたく集まってもらった」


レオ自身、自分をよく思っていない存在が多いことは自負している。

だからこそ、誰が今回の敵なのか余計に分からなかった。

この場に集めたのはレオに対し忠誠を誓い、知恵と力を授け、また、ユエルとくっ付けようとしている忠臣達だ。信用のおける存在。


「しかし、情報が少なすぎますな」


そう口火を切ったのは宰相だった。


「物語好きの私でも少々、骨が折れそうですな」


レオの初恋物語を執筆した名作家の彼は、口髭を撫でながら考えに耽った。


「攫われたのはユエル様とその場にいた護衛騎士のジーン・ウッド。しかし、一緒にいたはずのベリエナ様は攫われなかった」

「医師の話では、ベリエナ様はフェルで意識を奪われていたそうで、おそらく、二人も同じように失神系のフェルをかけられたのでしょう」


宰相の後に続いたのはヨハンだった。

その後を引継ぐようにバルトも肯定する。


「でなければ、あれほどの腕を持ったユエル様が易々と捕まるはずがありません」

「ほう、ユエル様は剣に明るいのですかな?」

「彼女は、神殿騎士団一番隊副隊長だったんです」

「なんと。人は見かけによりませんな」


確かに、彼女ほどの腕があれば逃げおおせることもできただろう。それに、今の状況も、もしかしたら自力で解決できるかもしれない。

それでも、レオの胸が騒ぐのだ。彼女を助けなければと。

少しでも失う可能性を排除し、この目で彼女が笑うところを確かめるまでは安心などとてもできなかった。


「他に何か、手掛かりがあれば」


その時、窓の外に光の矢が走った。

それは、騎士団が使用する救援信号弾。

一発目は緊急事態を表すもの、二発目は所属を表すもの。所属は護衛騎士団、そして、まさに渦中の人のそれを表していた。

会議室にいる面々が息を飲んだ。

あの方角に彼女がいる。


「陛下、ご指示を」


バルトの静かな声が響いた。

レオは会議室を振り返ると力を込めて声を出した。


「すぐに出陣の準備だ!」



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