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騎士の嫁入り  作者: 純太
第2章

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脱出1

男達の声にユエルの意識は浮上した。


「こんな奴ら連れてきて、旦那様は一体どうするつもりなんだろうな」

「さあ。高貴なお方の考えることは俺には分かんねぇよ。ただ」

「だた?」

「騒ぎが大きくなる前殺してしまうらしいぜ」


不穏な言葉を残し、男達は堅い靴の音を鳴らしその場を去って行った。

男達の気配がしなくなったことを確認し、ユエルは目を開き状況を確認した。今ユエルがいる部屋は石壁に覆われた部屋で、窓もなく、あるのは丈夫そうな鉄格子だけだった。

所謂、牢屋というやつだ。

ユエルは身を動かさないまま、状況をざっと把握した。

両手は後ろ手に両足も脹脛ふくらはぎあたりまでをはどうも縄で縛られ、固い石の床に寝かされていた。

フェルは完全に溶けているようで、指先も異常なく動くし、服装も宴の時のまま。

目の前にはベリエナの後ろに控えていた護衛騎士が倒れており、まだフェルが効いているようだった。


さて、どうしようかな。


先程の男達の言葉が本当だとするならば、ここで大人しくしていてもユエルは殺されてしまうのであろう。

大人しく殺される義理はない。どうせ殺されるのであれば、逃げて足掻いてみよう。

そうと決まれば隣りで寝ている騎士を起こさねば。


「・・・・・・起きろ」

「うっ」


上体を起こし、拘束された両足で騎士の腹に蹴りを入れた。

思いの外鋭いユエルの蹴りに騎士は呻き声を上げ、薄らと目を開けた。


「こ、こは?」

「おはよう。ここは牢屋の様だ」

「牢・・・・・・・」


ユエルの言葉に騎士は体を起こし、周りを見渡した。

そして、そこがユエルの言う通り牢屋だと理解すると、唇を噛み締め床に額を打ち付けるように頭を下げた。


「大変申し訳ございませんっ。私がいたにも関わらず、この様な事になってしまい」


ユエルはゆっくりと頭を振った。


「貴方のせいじゃない。私も注意を怠っていた。顔を上げてくれ」

「・・・・・・・・」


騎士はなおも悔しそうな顔をしているが、渋々というように顔を上げた。

ユエルはそれを見て一瞬、気まずそうに顔を歪めるが、先ほど考えたことを実行すべく話題を転換した。


「ところで、見かけない顔だな」

「あ、申し遅れました。私は近衛隊8番隊所属のジーン・ウッドと申します」


ユエルがいつも修練場で参加させてもらっているのはバルトが所属する帝国騎士団の訓練だった。

近衛騎士も、ユエルに付けられている数名とレオについている騎士くらいしか面識がない。通りで見たことないはずだ。

ジーンにしても、ユエルは遠くから見る存在だったようで、心なしかユエルの喋り方に驚いているように見える。

ユエルはジーンの挨拶に頷く。


「ではジーン。ここから出ようと思う。まずは、縄を解こう」

「え、どうやって・・・・・・」


ジーンの腰からは騎士の象徴である剣はおろか、防具すら取られ、そこに隠し持っていた短剣すら取られていた。尚且つ、ジーンもユエル同様両手両足を縄で縛られ、身動きがとれない状態だった。


「刃物もありませんし、さらにこの牢はフェルを無効化させる術がかけられています。フェルが使えないのでは縄を解けません」


近衛騎士になるほどに優秀なジーンは、フェル使いの様だった。

しかし、この牢ではフェルを使うことができない。

役立たずだとジーンは申し訳なさそうに眉を下げた。

ジーンの回答にユエルは訳が分からないというようにキョトンと瞬きをした。


「フェルなんて使わなくても、縄くらい解けるだろ?」

「え?」

「縄抜けをすればいいじゃないか」


さも当たり前のようにユエルが言い放ち、ジーンはグッと言葉を飲んだ。

このように捕えられることなど経験したことの無いジーンは、縄抜けなどしたことがない。やり方すら分からない。

それをこの令嬢はジーンに期待している。


「さあ。さっさと縄を解いて逃げるぞ」


と、ユエルは言うと、息を少し吐き、自力で縄を抜け始めた。

バキバキっと腕の関節の外れる音がする。

その様子をジーンは怯えながら顔を引きつらせ眺めた。

ユエルの縄抜けはあっという間に終わった。


「うん。思ったよりも緩くて早く抜けられたな」


両手が自由になったユエルは足に結ばれた縄を解き始めた。

固まったまま動かないジーンに気付いたユエルは、首を傾げつつジーンの方を向いた。


「縄抜けしないのか?」

「・・・・・・・申し訳ございません。その様な恐ろしい技は身に着けておりません」


縄抜けがどうやってなされるのか、ジーンはこの時初めて知った。






結局、ユエルに縄をジーンは解いてもらい、両手両足の自由を手に入れた。


「縄抜けは騎士にとって基礎だ。しっかり身につけておけ」

「はい・・・・・・」


両肩を落とし、ジーンは項垂れた。

可憐な少女に出来て騎士である自分が出来ないなんて・・・・・・地味に凹む。

その様子を見たユエルは頬を掻いた。

さて、と気を取り直して牢屋から出るためにユエルは入口へと向かった。

扉には鍵がかかっており、鍵開けに仕えそうな道具も持っていない。


仕方がない。


ユエルは鍵穴に手を翳すと深呼吸し、意識を集中させた。


「どうされるおつもりですか?」


ユエルの様子を見ていたジーンが不思議そうにユエルに問いかけた。

ジーンに少し視線をやると、ユエルはニッと少し笑い、目を閉じさらに集中力を高めた。

フェルが使えないのであれば、それ以外の力を使うまで。


「私は閉ざされたこの扉を拒絶する」


ユエルがそう言った瞬間、鍵がカチャンと言って開いた。


「え!?」

「うん。上手くいった」


事態を把握できないジーンは頭に疑問符を浮かべ、鍵とユエルを交互に見やった。

ユエルはその様子に素知らぬフリをしてさっさと牢屋を出る準備をした。

邪魔になるドレスは、重ねている布を取り払い、長い裾は動きやすいように裂き、切れ端が邪魔にならないように結ぶ。

その一部始終を見そうになったジーンは慌てて目を反らし、体ごとユエルに背を向けた。

本当はどうやって鍵を開けたのかジーンはユエルに問いたかったが、いきなり始まった衝撃的な着替えシーンに、ジーンはそれを忘れて夢中で雑念を払った。


「よし。では行こうか」


準備を整えたユエルは、ジーンに向かって牢屋の入り口を指した。

翠であるはずの瞳は、牢屋が薄暗いせいか、蒼く光って見えた。


大変お久しぶりです(・_・、)

今回もストック尽きるまで連続で投稿する予定です。


随分とお待たせしておりますが、今暫くお付き合い下さい。

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