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騎士の嫁入り  作者: 純太
序章
3/38

教会にも報告

「あ、そうそう」


と、思い出したように呟かれた長女の言葉に、群れていた弟妹達は彼女を見やった。


「教皇には私から伝えておいたから。ユエルが婚姻に承諾したって」


 その言葉にユエルは深く項垂れた。

 周りから固められている気がする。


「教皇も安心されたことでしょう」


難航した「ジャミースタの婚姻申し入れ会議」に参加していたシリスは深く頷いた。

 曰く、はじめ、ジャミースタからの急な婚姻の申し入れに教会上層部は震撼した。何故ならば、他国からのこのようなアプローチは今までなかったからだ。

 皇帝や王といった者達の婚姻には政治的意味合いを大いに含んでいる。常に世界を思い、中立でなくてはならない教会総本山アルジナに皇帝や王が婚姻を申し込まない、ということは暗黙の了解となっていた。

 暗黙の了解を無視したジャミースタの婚姻申し入れ。

 ここで困ったのは教会側。彼等は他国の婚姻に関する暗黙事項など知らないので、皇帝の結婚相手に相応しい人物を必死に捻り出していた。

 皇帝の結婚相手だ。下手な人間なんで差し出せない。

 だが、アルジナに住む人は他国の身分制度を使うならば、皆、平民だった。神官は特別階級になり、神官のとしての役職的位があるが、基を正せばやはり平民。

 とてもではないが、皇帝においそれと「どうぞ」などとは言えない。

 そうして事態は難航していった。

 シリスはその時のことを思い出して重い息を吐いた。

 姉も遠い目をしている。


「ユエル・マクスウェルならば皇帝の結婚相手に相応しいでしょう。さすがは最高位神子様の采配です。だってさ」


 姉は教皇の真似をして彼が言ったことを伝えた。最後の方は少し肩をすくめていた。

 難航した会議に鶴の一声を発したのは姉であった。

 ひとまずこの件に関しては、最高位神子が『神』とも相談しながら相手を決める、という最高位神子本人の提案により、その場は治められた。

 ここで首を傾げたのはクラウ。


「なんでユエルなら結婚相手に相応しいんだ?」

「剣だけじゃなく、もっと頭を鍛えろ、お前は」

「そうね。特に考える力、考察力を身につけた方がいいわよ」


 兄と姉の言葉にクラウはムッとするものの、神学生時代の座学の劣等生具合を思い出したのか渋い顔をした。


「ああ、騎士科じゃなければ卒業できなかったと専らの噂でしたね」


 ユエルは神殿騎士団の隊長達の噂話を思い出し、次兄の頭具合を思い出し、拳を反対の掌にポンと軽く叩いた。

 クラウは後頭部を掻いた。

 マクスウェル家は教会において、所謂「由緒正しき名門」と言われる家系であった。

 マクスウェル家は優秀な神官や神殿騎士を代々輩出しており、幾度となく歴代の教皇にその名を連ね、時には神子すらも授かっていた。

 自治区聖地アルジナにおいて、マクスウェル家は他国における王侯貴族に近い家柄であると言えよう。

その上、現最高位神子の生家ということで、今は他所の国の王家に近い存在となっていると言っても過言ではない。

 マクスウェル家次女であるユエル・マクスウェルは、彼の大国ジャミースタ帝国皇帝の嫁としては、分相応で、打って付過ぎる存在なのであった。


「なるほどね」

「解ってもらえて嬉しいよ」


クラウの納得顔に、説明をしたシリスは眉間を押さえた。


「まったく。クラウったら余計な手間をとらせて」

「うん。手間をとったのは僕だけれどね」


 姉は溜め息を吐くと髪を掻き上げ、シリスは頷きながら溜め息を吐く。

 ユエルはそんな二人の肩にそっと手を置き、静かな瞳で見つめて言った。


「姉上、シリス兄上。クラウ兄上の考え無さは今に始まったことではないんだし。もう諦めてしまおう?もうそれしか道はない。ちなみに私はもう諦めた。」

「ユエル、何気に酷くないか?」

「何を言うんだクラウ兄上。頭を使う仕事はほとんど副隊長にまかせっきりで、そのお零れが部下にまで回っていると言うじゃないか。3番隊副隊長の頭を見ると、私は3番隊に配属じゃなくて心底よかったと思うよ。」

「まあ、クラウったら。貴方ったらそんなにおバカだったの?」

「3番隊副隊長には菓子折りとクラウには勉強が必要だな」


 姉兄妹きょうだい達の言いように、クラウは真剣な顔をして言った。


「できない奴がやるより、できる奴がやった方が効率がいいだろ?俺みたいな奴が手を出したら、逆に大変なことになるだろうし」


 妙な説得力を持ったこの言葉に周りは黙るしかなかった。

 確かにそうかもしれないと思わせる要因をクラウは持っていたな、と姉兄妹達は今までの出来事を走馬灯のように思い返していた。




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