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騎士の嫁入り  作者: 純太
第2章

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歓迎の宴

煌びやかな華が舞う宴の席。

聖地アルジナからやって来たユエルの歓迎を表す宴が現在催されていた。

各諸侯貴族が集い酒を飲み交わし、踊りを楽しんでいた。

これが御伽噺などでよくある舞踏会というやつか。

と、ユエルは感慨深げに宴の様子を眺めた。

聖地アルジナから遥々やって来たユエルを歓迎する目的で行われた今回の宴において、ユエルは主役であり、ホストである皇帝陛下の傍に控えていた。

美しく着飾った令嬢たちを眺めながら、事の発端である先日のことを思い返した。






「ということで、ユエル様の歓迎会をしようと思います」


無邪気な笑顔でヨハンは手を合わせて言った。


「何が“ということで”なんだ?」


修練後のお茶の席。

レオが剣の修練に参加した日は、レオの体力回復の名目でユエルとのお茶の席が設けられるのが恒例となっていた。

その場にはバルトの姿もあり、いつもはレオを迎えに来るだけのヨハンも今日は珍しく同席していた。


「いい質問です陛下」

「はあ」

「ユエル様がいらっしゃって幾日も立ちましたが、実は未だ歓迎の宴を催していないことに先日私は気が付きました。そこで、ユエル様の歓迎会をこの機会に開こうと思いまして」

「また唐突な思いつきだな」

「ちなみに開催日は来週です」

「唐突に程があるぞ!」


ヨハンのいい笑顔に対し、ヨハンの突飛な行動力に驚いたレオの軽快なツッコミが飛ぶ。


「そうでもありませんよ陛下」


そこにヨハンを庇う様にバルトが二人の間に入った。


「どういうことだバルト」

「実は、ヨハンはしっかり根回しをしておりまして、招待状などは出しておりませんでしたが、来週開催されることは主要な招待客たちには知られておりました。斯く言う私も、来週の歓迎の宴のために警備計画を練っておりました。」

「招待客の予定もしっかり抑えております」


無邪気な笑顔で宣うヨハンにレオは重くなった頭を片手で支えた。


「知らなかったのは俺だけか」

「いえ、私も存じ上げませんでした」


ユエルは慰めるようにレオを気遣い、自分も同じであることを告げた。


「当たり前です。お二人には内密にしていましたから」


得意げに言い切るヨハンにレオは深く息を吐いた。

もう好きにするといい。


「しかし、来週であればユエルの宴用のドレスは仕立ててやれないな。既製品ですますか」

「そんな陛下。わざわざ仕立てていただくだなんて、私は手持ちのものから見繕いますから」

「ご心配には及びません。ユエル様には事前に採寸していただいてドレスは既に仕立てております」

「「え?」」


胸を張って言い切るヨハンにレオとユエルは怪訝な顔をした。

ユエルはヨハンに宴があることも聞いていなければ、宴用のドレスを仕立てるとも聞いていない。

そこまで考えてユエルは、はっと思い当たる出来事があったことを思い出した。

ここに来た当初、ヨハンにジャミースタで過ごすための平服をいくつか仕立てるから採寸して欲しいと依頼があった。

始めは不要だと拒否をしていたが、カイネがいかにユエルの持ち服が少ないか、王宮ではドレスが必要か懇懇とユエルに説き、ユエルが折れたことがあった。

カイネは喜々として採寸に立会い、さらには生地選びに大いに口を出し(ユエルだけで決めると無難な生地で可愛くなかったからだ)デザイン決めの時も口を挟み(ユエルだけだと機能性重視で可愛くなかったからだ)ドレスの注文をしていた。途中でユエルは疲れてドレスの見立てから離れたが、カイネは仕立て屋とあーでもないこうでもないと、討論を長いことしていた。

その話の内容をよくよく思い出してみると


「宴は夜ですから華やかさが必要です」と仕立て屋。

「でも、ユエル様の可憐さを引き立てるには濃い色味よりも淡い色味で『聖域から来ました!』という感じを出したほうがいいと思うのです」とカイネ。

「なるほど」

「それに綺麗な黒髪には淡い方が映えますわ!」

「!」


カイネの発言に仕立て屋の目がカッと開かれたかと思うと、ささっとデザインのラフを書き始め、生地をいくつか出してカイネに見せた。

それを見たカイネも、また目をカッと見開き仕立て屋を見た。

二人はしばらく見つめ合ったかと思うとお互いに手を取り合い握手を交わした。

まさか、この時の採寸がそうなのだろうか。


「ユエル様のお付きにしている侍女が張り切って準備してましたよ」


ニッコリと笑うヨハンの顔を見て、ユエルはやっぱりあれだったかと額に手を当てた。






件のドレスはユエルを鮮やかに彩り、カイネに満足の溜め息を吐かせるほどだった。

「いい仕事した」とはカイネの言葉だ。

その言葉の通り、ユエルは聖域からやって来た令嬢として相応しい姿だった。

可憐な容姿がより引き立ち、艶やかな黒髪には真珠を散りばめられ、黙っていると神聖な雰囲気が漂っているかのように錯覚するほどだ。

ある程度挨拶をこなし、やっと食にありつくことができたユエルはレオの隣りの席に座り、広間の様子を眺めながら食事を進めた。

あ、このお肉美味しい、と思いながら食事をしていると、隣りから肩を叩かれた。


「ユエルは踊りは出来るのか?」


レオの問いかけに食事を一時中断し、ユエルは少し考える素振りを見せると小さく頷いた。


「ワルツならば。昔教えられてそれなりに踊れるようになりました」


その答えを聞いたレオは満足そうに頷き、立ち上がりユエルに手を差し伸べた。


「よろしければ一曲いかがですか?」


そう言うとレオは微笑み片手をユエルに差し出した。

ユエルはその手を暫く見つめると、そっと手を出してレオの手に重ねた。


「私でよければ」


ホールの真ん中に躍り出た二人の為に人々は場所を空けた。

臣下たちは二人の仲睦まじい様子を一目でも見ようとホールに自然と向けた。

レオとユエルは人々の視線を集めながら軽やかなワルツに合わせて踊った。


「意外だな。思ったよりも普通に踊れるとは」


レオは不安げなくステップを踏むユエルに感心して言った。

それにユエルは苦笑した。


「それ、カイネにも言われました。私だって、最高位神子の妹としてこういった華やかな場に出席できるよう、最低限、令嬢の様な教養を受けていたんですよ」


もっとも、本当に最低限の教養であったため、宴の開催が決まった日にカイネに扱かれたのだが。

ユエルはそれを思い出し笑みを深めた。


「レオ様も、運動が苦手な割には踊りはお上手ですね」

「必要に迫られた結果だ。剣は俺が振れなくても問題なかったからな」


ふんとレオは鼻を鳴らした。

そうして、ふと思い出したような顔をすると、ユエルに視線をレオはむけた。

レオの視線にユエルは首を傾げた。


「それにしても、こうして踊っていると、ユエルが騎士であったことを忘れてしまいそうだ。普通の美しいどこかの姫君のようだ」

「え?」

「今宵は一段と美しいな」


突然の褒め言葉にユエルの顔はカッと急速に赤くなった。

剣の腕を褒められることや、男の様な雄々しさを褒められることはあるが、このように女性としての褒め言葉は初めてであった。

どう言葉を返していいか分からず視線を彷徨わせ、赤く染めた顔を少しでも隠そうと少し俯いた。


「ああ、でも剣を振るっているときのユエルが一番美しいな。輝きが増し、内なる美しさが滲み出て、剣を握る心の強さが伺える」


ユエルは顔を上げた。

そこには優しく頬笑むレオの姿があった。


「ユエルが仕えていた最高位神子様は幸せ者であったのだろうな。美しいと思える程、剣の道を極めた騎士が仕えているのだから」


レオの微笑みに応えるようにユエルもそっと微笑んだ。


「ありがとうございます」


その頬が先ほどの急激な赤みとは違い、静かに色づいた。

騎士として、仕える主が幸せであると言われ、ユエルは素直に嬉しかった。

レオの動きが止まった。ワルツが終わったようだった。

そのことに気づいたユエルは終わりの挨拶をし、席へ戻るレオに「風に当たってくる」と断りを入れた。

会場に設けられた大きなバルコニーにユエルは出た。

上気した頬に風が涼しく気持ちよかった。

不意に背後から人の気配がした。

ちらりとそちらを伺えば、護衛騎士を伴ったベリエナが立っていた。


「ユエル様は、陛下と随分と仲がよろしいのね」


刺を感じるベリエナの言葉に、ユエルもきちんと振り返り向かい合った。

ベリエナの眉間には皺が寄っており、令嬢らしからぬ鋭い視線をユエルに向けていた。


「今日、修練場で見ましたは。お二人が話されているのを」


表情とは裏腹に静かに告げられたその言葉に、ユエルは気を引き締めた。

剣のある雰囲気に、ベリエナについてきた護衛騎士は止めに入るべきか狼狽えていた。


「あの話で家臣達は色めき立っているけれども、私は認めないわ」


ベリエナは口を引き結ぶ。

ユエルは訳が分からず思わず片眉が上がった。

何の話しだ?


「あの方に相応しいのは私よ!いきなり出てきた貴女なんて認めないんだから!」


ふわふわと可愛らしいベリエナの常にない強い口調に、ユエルは目を丸くした。

そして、純粋にレオのことをこの少女が好いているのだということを思い知った。

以前、レオとベリエナが二人で話しているところを見たとき、確かにベリエナはユエルが見たことないほど甘い瞳をしていた。

蕩けるように大きな瞳を潤ませ、ふわりと花が咲いたように微笑んでいた。

ああ、これが“恋する乙女”というやつなのか、と恋愛小説で学んだ知識が生かされた瞬間でもあった。

ユエルは胸元を押さえた。

胸が苦しい。


「私は・・・・・・・」


何か言葉を返さなくてはならない。

それだけは直感で分かった。

しかし、ユエルが言葉を続ける前に、突然訪れた衝撃に言葉を失った。

恐らく失神系のフェルをかけられた。

しくじった。

ベリエナに気を取られ、周囲にまで気が回っていなかった。

薄れる意識の中で、ベリエナの顔が青褪めるのが見えた。

ベリエナの後ろでは私にフェルを掛けた相手へ騎士が斬りかかる姿が見えた。

受身も取れず、ユエルはそのままバルコニーに倒れる。

意識を失う瞬間、ベリエナもユエル同様、失神系のフェルをかけられ倒れていった。

二人目の襲撃者に騎士は慌てて対処に当たろうとしていたが、彼にも同じようにフェルがかけられていた。

抗うことができず、ユエルは瞼を落とした。


久々に短期間で掲載できましたσ(^_^;

お待ちいただいている方、スミマセン。


そして、ストックがなくなりましたので、次回の更新まで間が開きます。スミマセン。

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