稽古をつけることに2
「陛下にですか?」
驚き顔でユエルが言った。
「はい。せっかくなので、他国の名のある騎士に陛下にご指導頂ければと思いまして。いつもと違った人に習うことで、陛下の剣の腕も少しは上がるのではないと」
「はあ。それくらい構いませんが」
胸に手を当てヨハンは微笑み、ユエルは何ともいえない顔で頷いた。
「では陛下。よろしくお願いします」
「・・・・・・ああ」
ユエルとレオの打ち合いは一瞬で終わった。
レオの振り上げた剣先をユエルが少し払っただけで、レオの剣は宙を舞い、あっさりと決着はついた。
あまりにも早い決着に、ユエルは払った剣を構えたまま目を剥いた。
謙遜かと思ってた。
「謙遜かと思いました?」
ユエルの心の声を拾ったようにヨハンが声をかけた。
心を読まれたユエルは言葉に詰まった。
邪気の無い笑顔をユエルからレオへ向け、ヨハンは声をかけた。
「陛下、劇的に弱すぎですよ。せめて、もう少し粘りましょうよ」
ヨハンの言葉にバルトもウンウンと頷きながら
「これは定期的に剣の訓練を入れないとなりませんね」
と言った。
レオは言葉も返さず顔を俯け、ユエルに飛ばされた剣を拾いに行った。
いつにないレオの姿にユエルはオロオロとその背中を見つめた。
「どこかお怪我でもされたのだろうか?」
心配気なユエルの言葉に、ヨハンはクスクスと堪えるように笑った。
「ご心配いりませんよ。陛下は今、御自身の矜持と戦っているだけですから」
「はあ」
「男とはそういうものです。今はただ、見守ってあげて下さい」
笑顔のヨハンと訳知り顔のバルトに、ユエルはそれ以上言葉を重ねず、ヨハンの言うとおり見守る事にした。
「そうそう。ここに来たのは陛下の運動不足解消だけが目的ではありませんでした」
結局、バルトと打ち合いをしているレオを横目に、突如ヨハンは思い出したようにポンと手を叩いた。
「ユエル様にお伝えする事がありまして、参ったのでした」
「私にですか?」
「はい。実は、ユエル様の他に婚約者候補の方が一名入城いたします」
「そうなんですか」
「はい。先にお知らせしなくてはと思いまして」
現在、城に滞在している婚約者候補はユエルのみ。
さらに婚約者候補もユエルのみであった。
一国の皇帝なのだから候補が何にもいて当たり前かと、ユエルは思った。
「予定では明日となっておりますので、ご認識だけお願いいたします」
「分かりました」
いつもと変わらぬ様子で頷くユエルに、ヨハンは笑顔でありつつも、脈なさ過ぎるなー、と自分の主を哀れんだのであった。
「ヘクシッヘクシッ」
「風邪ですか?陛下」
「いや。原因の予想は大体つくが」




