城下街デート2
賑やかな音に溢れ、鮮やかな色に満ちた街の栄えた様子にユエルは感動した。
聖域とて栄えていないわけではない。世界宗教の総本山として街も大きく、人口も多く、巡礼者も絶えず聖域へと訪れている。
しかし、その特性上、神殿の一部であるかの様な作りを街全体がしており、巡礼者や神殿に縁のある者が多いため、どこかお行儀がいい印象を与えていた。
ジャミースタのように毎日がお祭りのような華やいだ雰囲気ではないのだ。
輝いた目をしたユエルを見て、レオとバルトは顔を見合わせて笑った。
「お気に召しましたか?」
バルトの問いかけにユエルは何回も頷いた。
「聖域とは違う・・・・・・」
右に左にとユエルは首を忙しなく動かして辺りを見渡した。
田舎者のような仕草に恥ずかしくなったレオは一つ咳払いをし、ユエルに注意を促した。
「ユエル殿、人に見られてますよ」
そこで自分の行動の恥ずかしさに気付いたユエルは、首の動きを止めて静かに正面を向いた。
「失礼致しました」
「お気になさらないで下さい。ジャミースタ首都に初めて来られた方は、この喧噪によく驚かれていますから」
バルトの苦笑にユエルは頬を染めた。
「ジャミースタの人々はとても元気が良いのですね。とても活気があります」
「ジャミースタは陽気な人間が多いですし、お祭り好きな国民性があります。ここは商店街ですから特にその性質が出ているのでしょうな」
「そうなのですね」
バルトの説明にユエルは頷く。
「国とは人々の幸せに成り立つからな」
レオは街を見据え、人々に視線をやった。
「人が笑っている声は宝だ」
目を細め、レオは人の声飛び交う音に耳を傾けた。
ユエルはその横顔に視線をやり、レオに倣って周りの音に耳を傾けた。人の笑顔と笑い声を煩いとは決して思わなかった。
レオはこの風景を守るために、玉座に座っているのだろう。
「それでは始めの行先ですが、中央神殿に参りましょうか」
「中央神殿ですか?」
ユエルの問いに「はい」とバルトは頷いた。
「ジャミースタの首都にある中央神殿は、皇帝の御膝下ということもあり、華やかで趣向を凝らした造りとなっているのです。ジャミースタの観光の名所でもあるのですよ」
バルトの説明にユエルはフム、と一つ頷いた。
棒読みで案内をするバルトの様子を訝しく思ったレオは、前を行くバルトの手元にある紙を見て口を半開きにした。
バルトが握る紙には、『ジャミースタお勧めデートコース』とヨハンの字で書かれていた。
そして、本文の一番上には先ほどバルトが述べた文章が書かれていた。
それを見たレオは呆れた顔をして「アイツもよくやるな」とその紙を見て呟いた。
「そういえば、この国に来てから、まだ神殿へと礼拝に行っていませんでした」
「この機会ですし、行ってみませんか?」
「そうですね。行きましょう」
ユエルの好感触の返事に、バルトは笑顔で一つ頷き神殿へと歩みを進めた。そして、すかさずレオに親指を立てていい笑顔を向けた。
赴く趣旨は違えど目的は達成した、という意味だろうか。
天使が歌い踊り、女神が微笑む見事な天井画の下、ユエルは祭壇へ向かい祈りを奉げていた。
「さすがは神官。信心深いんだな」
数分、固く目を閉ざし祈りを奉げていたが、レオの言葉にやっとのことで目を開けた。
ユエルはレオの方を向いた。
「神に、そして最高位神子に仕えることが、私のお役目でしたから」
「神だけではなく、最高位神子にも?」
「はい。私は最高位神子様に仕えておりました。神子に幸せになっていただくことが、私の幸せでした」
そう、祭壇を静かに見つめながら語るユエルの姿に、レオは昔出逢った、蒼い瞳の少女のことを思い出した。
彼女も、ユエルと同じようなことを言っていた。
神子の幸せを守るために騎士になったのだと。
「それじゃあ、申し訳ないことをしたな。この婚約、ユエル殿には志半ばで不本意であっただろう」
そのレオの言葉にユエルはギクリとした。
正直に言うとそうなのだけれども、本人に向かってそんなこと言えるわけもなく、そんなこと言ったらそもそも国間の問題に発展しかねない。
そんな問題発言なんてできるわけないでしょ!
それに、
「そうでもないです。私が幸せになることが、最高位神子様の幸せなのだそうです」
ユエルが婚姻を通して幸せになれば、最高位神子も幸せになる。
だから、この結婚を受け入れることをユエルは決意したのだった。
「これは陛下、責任重大ですな」
バルトは面白そうにレオを小突きレオはやれやれと、首をすくめた。




