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騎士の嫁入り  作者: 純太
第1章

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皇帝陛下と謁見1

 ユエルは俯いた顔を上げられないでいた。礼の姿勢のまま、冷や汗をかいてユエルは微動だにしなかった。


「どうした。顔を上げよ。ユエル・マクスウェル殿」


 心の中で「上げたくても上げられないんだよ!」とユエルは叫んだ。

 こんなことなら朝のうちに逃げておくんだった。






 早朝から起こされたと思えば、ユエルが気づいた時にはユエルの体は丹念に磨き上げられ、綺麗に飾られていた。

 明らかに普段着ではないデザインのフワリとした色合いのドレスに、美しく巻かれた長い髪。煌びやかなアクセサリーを頭や首といった至るところにセンス良く散りばめられている。

 仕事を終えた侍女のカイネが退出すると、仕上げとばかりにリベラはユエルに神官のローブをかけた。


「これで完璧ですね。では、皇帝との謁見に参りましょうか」


 そこでユエルは「ああ、今日は謁見の日だったか」と思い出した。


「その顔は忘れていましたね」

「いや、そう言う訳では・・・・・・」


 じっとリベラが疑いの眼差しで見つめてくる。ユエルは視線を逸らすことでその場をしのいだ。

 今日のこの気合は何なのか分らないまま、ユエルはされるがままになっていた。


「まあいいでしょう。もう少ししたら謁見の間に向かいますから、心の準備を整えておいて下さい」


 「カイネを呼んできます」と言ってリベラは部屋を後にした。とうとうこの日が来てしまった。

 自分の将来の夫となる人と今から会うのか、とユエルは考えに耽った。

 ユエルは姿見の前に立つと自分の姿を確認した。

 きっと一生こんな恰好はしないだろうなと、騎士の時には思っていた恰好。綺麗なドレスに美しく施された化粧。飾り立てらえた姿を目にしてユエルは不思議な気分になった。

 ユエルはそっと鏡に触れ、自分を見つめた。


「私でなくなってしまうようだ・・・・・・」


 ユエルの呟きは誰にも聞かれることなく消えていった。

 トントントン。軽いノック音の後、リベラが室内へと入ってきた。


「では参りましょうか」


 リベラのその声に、ユエルは頷き息を吐いた。

 そして今に至る。






 動かないユエルを不審に思いながら、リベラが後ろから小さな声で問いかけてきた。


「どうしたのですか?ユエル」


 如何したもこうしたもない。ユエルは床の一点を見つめて思案した。

 今、玉座に座っているのは、蜂蜜色の髪をした青年だった。

 そして、この国の皇帝だと紹介されたのは、昨日の蜂蜜色の青年にユエルには思えた。

 しかも傍には側近であるヨハンの他にバルトの姿もあった。

 まさに四面楚歌の状態。どうしてくれよう昨日の自分!

 動揺しているユエルの姿を見てレオは小さく微笑むと、口を開いた。


「そういえば、昨日は世話になったなユエル殿」


 ユエルの肩が小さく揺れた。

 それを見てレオはほくそ笑む。


「命を助けてもらって。礼を言う。お陰で惨事にならずに済んだ」


 次はリベラの肩が揺れた。


「それはどういうことですか?」


 リベラの静かな問いにユエルは心の中で悲鳴を上げた。


「いや、昨日修練場で騎士が握り損ねた剣が飛んできてな。それから私を守ってくれたんだ」

「さようでございましたか」


 レオの言葉に気持ちリベラの声が低くなった。


「いやー見事な剣捌きでしてな。剣を一薙ぎしたかと思ったら、陛下に迫っていた剣が遠くの地面に刺さっていて、一瞬何が起こったのかすら分かりませんでした」

「ほう」


 興奮した様子で修練場での出来事を語るバルトの言葉に、さらに低さを増したリベラの相槌に、ユエルは「やめてくれ!」と叫びを心で上げた。


「まさか昨日の令嬢がユエル殿だったとは思わなかったよ」


 私もまさか昨日の青年が皇帝陛下とは思わなかったさ。

 

「ユエル様?」


 リベラの問いかけに、ユエルは意を決して顔をゆっくり上げた。

 伏せていた目をユエルは皇帝と視線を合わせた。

 愉快そうに目は笑っていた。ユエルは恨みがましくレオを見つめた。


「昨日は挨拶もせず失礼いたしました。遅ればせながら、ユエル・マクスウェルと申します」


 なんとかユエルは笑みを浮かべて名乗る事が出来た。

 一先ず、ユエルは開き直ってみることにした。


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