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騎士の嫁入り  作者: 純太
第1章

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修練場にて2

「構えの修正はいらないかな。じゃあ次は振ってみるか」

「はい」


 正直、ユエルにとって初心者向けの教えは必要ないのだが、初めてでないとは言えないし(そんなこと言って騎士であったことがバレたらリベルに叱られるし)それに、こうやって基礎から学びなおすことでさらに腕を磨けるというものだ。


「ここはいつからお茶会の会場になったんだ」


 不意にこちらに声がかけられた。

 声のする方へユエルとバルトは振り向いた。そこにいたのは蜂蜜色の髪をした青年だった。

 ユエルの初めて見る顔だ。と言ってもユエルが知っている顔などそれほどないが。

 青年は気怠げに柵に肘を乗せ、その上に顔を置いてこちらを眺めていた。


「おや。こちらにいらっしゃるなんて珍しいですね」


 バルトは親しげに青年へと話しかけた。ユエルも剣を下ろし青年を見やった。

 青年は体を起こし、柵を越えてこちらに近づいてきた。

 青年は背を伸ばし首を回すと言った。


「気分転換だ」

「さようで」


 バルトは苦笑した。


「で、この娘はなんだ」

「剣に興味があるということで俺が指導していたんです」

「なんとも物好きな」

「ご自分が苦手だからってそう言わないで下さい」


 二人が会話をしている間、ユエルは剣を下ろして二人を眺めていた。

 バルトは見ている限り、周りの騎士たちや隊長格の騎士の反応も敬っているように感じられ、騎士団内においてバルトの階級は高いのではないかと思われる。

 そのような人物が敬語を使う対象になっているとは、青年はいったい何者なのだろうか。


「俺は頭脳派なんだ。脳味噌まで筋肉にはしたくない」

「今、世界中の騎士たちを敵に回しましたよ。分かってます?」


 談笑を続ける彼らだったが、ユエルの視線に気づいたのか青年はユエルを振り返った。


「剣に興味があるとは変わった娘だな」

「そのようですね」


 青年の問いかけに、女性の常識としてはそうなのかもな、と思いながらユエルは答えた。

 その答えに青年は目を丸くしてユエルを見た。


「まるで他人事のような物言いだな」

「私が生まれたところでは、女性が剣を振るうことは当たり前でしたから」

「珍しい土地もあるものだ」


 妙に納得したように青年とバルトは頷いた。


「ところで」


 青年の不意な問いかけにユエルは首を傾げた。


「見ない顔だが、どこの娘だ?」


 青年は問いかけユエルを見つめた。青年の問いかけにバルトも「確かに」と頷きユエルを見た。

 二人の視線にユエルは固まった。

 まさか、剣を持った自分を聖域から来た皇帝の婚約者だということはできないし(そんな事をしたら間違いなくリベルに怒られる)、何と説明しようかとユエルの目が泳いだ。

 その時だった。

 打ち合いをする騎士が握り損ね、剣が飛来した。

 そしてその矛先は蜂蜜色の男へと向かっていた。

 迫りくる危機に男もバルトも気づいていない。

 その場が少しざわついた。

 そこで二人もようやく気付いたが、もう遅い。

 そう感じる前に、その場にいただれよりも早くユエルの体は動いていた。


 キンッ―・・・・・・!


 耳に響く金属音を鳴らし、ユエルの剣によって騎士の剣は弾き飛ばされた。

 弾かれた剣は再び飛来し、誰もいない地面へと突き刺さった。

 その光景を見たバルトは顔を蒼くさせ、剣が飛んできた方向へと怒号を飛ばした。


「誰だ!剣を放った奴は!?」


 青褪めた一人の騎士が小さく手を挙げ名乗りを上げた。

 バルトはその騎士を人睨みすると周りへ騎士を抑えるよう命じ、自分は青年へと気遣いの言葉をかけた。


「お怪我はございませんか?」

「問題ない」

「帝国の騎士ともあろう者が、主に向かって牙を剥くとはあるまじき行為にございます」

「その娘が助けてくれたからな。俺にはかすり傷ひとつない。安心しろ。それよりも、騎士の魂である剣を放ったこと、よく聞かせておけ」

「はっ!」


 バルトは青年に敬礼をすると、ユエルへと視線を向けた。


「ありがとうお嬢さん。貴女のお陰でこの方に怪我を負わせずに済んだ」

「いえ、そんな、大袈裟な・・・・・・」


 バルトはユエルの手を握りしめ、感激したと言わんばかりに見詰めてきた。

 ユエルは体を少し反らせ、苦い笑いで対応した。


「あの、手を離していただけると・・・・・・」

「ああ、これはすまない。レディーの手を無遠慮に握ったりして」


バルトはユエルの手を離し後ろへと身を引いた。


「いえ」


 それでは私はこれで、と言ってさっさと退散しようとしていたところ、バルトとは違う手が伸びてきてユエルの動きを止めた。

 腕を辿ると、そこには良い笑顔の蜂蜜色の青年の顔があった。


「本当に助かった。礼を言う」

「いえ」

「ところで」

「はい」

「その剣技はどこで学んだんだ?」


 やっぱりそうなりますよねー。

 ユエルはこの場をどうやって切り抜けようかと、必死で頭を巡らせた。


「それは私も知りたいな。本当は教わるほどでもないんじゃないか?」


 敵が増えたことにユエルはより一層頭を回転させた。

 しかし、日ごろ使わない頭から妙案など飛び出すはずもなく、ただグルグルと回しただけだった。


「陛下―!」


 不意に響いたその声に二人ともユエルから視線を外し、尚且つ、ユエルの動きを阻むものが緩まった。その隙をついてユエルはするりとその場を抜け出した。


「あ」


 青年の間抜けな声も聞かず、ユエルは一目散に逃げ出した。


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