序章
※注意※
こちら、突発的かつ行き当たりばったり作品となっております。
それでも構わないと、仰っていただける方は、どうぞお進みください。
「ユエル、結婚しなさい」
麗しの姉が放った言葉に、私は目の前に座る彼女に飲んでいたお茶を思い切り吹きかけた。
「きったないわねー」
「あ、あ、姉上正気ですか」
私は口を拭い、姉は何とか避けたお茶をしげしげと眺めていた。
職務中に呼び出されたと思ったら、とんでも発言をかます姉には困ったものだ。一体何を考えているのだ。
姉はお茶を飲み一つ息をつくと、美しい白金の長い髪を掻き上げる。
「私はいつだって正気よ」
いつものように神々しい頬笑みを浮かべて言う姉だが、今の私には悪魔の微笑みに見える。
私は寄ってしまった眉間の皺を指で伸ばし、数回深呼吸する。
一旦落ち着こう。
「何故、今更結婚なんですか?」
「あら、貴女、十九歳でギリギリ適齢期でしょう?縁談があったってなんら不思議じゃないわ」
「いや、まあ、年齢はそうですけれど。私は神殿騎士として、この身を神子に、ひいては神に捧げると決めています!」
結婚なんてしません!
胸に手を当て、志を、力を込めて言うが、
「またそんなこと言って」
と姉は頬に手を当てると溜め息を吐く。顔には呆れた、とはっきりと書かれている。
その顔にムッとする。
「姉上だって私の意志、知っているだろ?」
「あ、口調が戻ってる」
「うるさい」
ああ、興奮のあまり職務用の敬語が崩れてしまった。たとえ家族でも職務中は騎士としての対応を心がけていたのに。
だがこのさい、そんなことは些細なことだ!
姉の暴走を止めなくては!
「はあ」
姉は溜め息を吐くと、今まで楽しげだった金色の瞳を静かにし、真っ直ぐ私を見つめてきた。
「騎士だった、女の喜びを感じてもいいと思うの」
返す言葉が見つからなかった。
姉はいつも私に女で生きることを望んでいた。そして、男の多い神殿騎士たちに混じり、男気を増していく私をいつも心配していた。
姉は立場上、そうそうに結婚などできないでいた。それ故に、私に女であることを大切にするよう、よく言っていた。
惑星の創造神を信仰する世界宗教『セルシオール』。
セルシオールには、人々を導く十三人の神の子『神子《みこ》』が存在していた。
神より祝福を受けし金の瞳の『神子』と、さらに神より寵愛を受ける唯一無二の存在である白金の髪の『最高位神子』を象徴とし、神の意志の具現である最高位神子と十二人の神子たちを中心に、セルシオールの総本山聖地アルジナの自治は行われていた。
そして姉は最高位神子。
神に最も近いとされる姉は結婚することを、神殿から赦されていなかった。
女の喜び。
結婚して、家庭を築き、子どもを産んで育てたり。そういった女としての喜びや幸せを、姉は昔から強く求めていた。
将来の夢はお嫁さん。これが姉の幼いころの夢だった。
「・・・・・結婚するからって、私の志が失われるわけじゃないよね」
そうだ。結婚したからって騎士でなくなるなんてこと、規則にはない。旦那を説得して、この職務を死ぬまで全うしてやる。
「ちなみに結婚相手は隣国、ジャミースタ帝国の皇帝陛下だから」
「寿退職コースじゃん!」
早々に夢破れた。