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年末を駆け抜ける!

作者: 浅川太郎

昨夜の実話をアレンジしました。

今年、やり残したことを考えて、行きつけのジャズバー、「ピッコロ」に寄らせてもらってないことを思い出した。

使っても減らない小遣いがあれば、週に1、2回は寄りたい店である。


「ピッコロ」に寄る前は必ず、『ビートルズなら、何がいい?』で紹介させていただいた「F.O.」にも寄り、CDを買うことにしてる。


店内は文字通り、足の踏み場もない程、CDやレコードで溢れだし、店外にもすでに流出しはじめている。

不景気のせいでバーを畳んだり、コレクターも高齢化して手放したり、甚だしくは、夜逃げの前日の買取りの申し出も結構あるらしい。


以前に一度だけ見かけたきり、買いそびれてたチャック・ベリーやマービン・ゲイのベスト盤や、評価の定まったマイルスの作品など、値引き後価格、5200円で購入した。いくら趣味とはいえ、痛い出費である。


次に大衆中華で焼き飯を食べた。


比較的暖かい夕刻でもあり、マフラーを外していても汗をかき、顔がテカってることが察せられた。


近くのパチンコ店に熱いおしぼりが用意されてるのは知っていたので、ホールまで急ぎ、カウンターのおしぼりストッカーから取りだし、玄関口にある手洗い場に急いだのだが、一階の手洗い場は改修中で、二階に上った。


ジャズバーに行くには、最低限の身だしなみは気にするようにしてる。



タウン誌の編集をしてた30前後の美女と恋愛になるかなぁと思ったこともあった。次に会ったら携帯番号でも聞こうかなぁといった段階で、彼女は東京に転勤になってしまい、それきりとなった。

また別の夜、相当遅い時間に相当に酔って店にはいると、少し崩れた熟女がいて、僕の好きな女優さんに似てたため、横に座って話をし、服の上からのハグは許され、どうにかその女の人となりたいとマスターを見やると、彼の視線は《やめときな!》モードであったから、深呼吸を一度やって、僕も通常モードに戻ったこともある。


そんな、夢を見られるチャンスも皆無ではないかもしれない、という淡い期待もあり、汗は拭いとかなくちゃと、パチンコ店の二階で、一応は整えた。


それからバーに直行すればいいようなものだが、当然ながら素面(しらふ)である。


これがバブル期であれば、大衆中華ではなく、高級な中華料理店で豪華な定食とともにビールを飲んで、ほろ酔いでバーに行くなんて流れもあったんだろうが、深刻なデフレの下、コンビニで缶酎ハイと、発泡酒を求め、通行人の邪魔にならないよう酎ハイをイッキ飲みし、ビニール袋に放り込み、発泡酒を取りだそうとした時だった。


愛しいCDがなくなっているのに気がついた。ガッデム!!


発泡酒をコンビニで選んだ時、CDを地面に置いた、か?そのままとって返し、店内をさがすが、どこにも、ない。さては大衆中華だとばかり、中華まで引き返し、さっきまで座ってたカウンターの下を確認するも、何もない。店員さんに、忘れ物をした旨を告げ、支払いカウンターの下の棚を確認してもらい、僕も身を乗り出して、忘れ物の数々を見たけど、僕のCDはない。

すでに誰かがどこかに持っていったか、なら警察に行こうか‥‥

中華の店員さんに、有難うと告げ、再度コンビニまで駆けて行った。

コンビニの落とし物カウンターに保管されてたのかもしれない。


師走の街を、多くの通行人を避けて駆け抜けながら、これは5200円の損ではないなぁと考えた。


中古CD店では、大袈裟に言えば一期一会みたいなノリで買わないと、次に買おうと思っても、買えるとは限らない。失敗して、逸してしまった名盤も多い。さっき買ったチャック・ベリーの黄色のベスト盤もそうだった。

そして青くなった。

マイルスの名盤、マービン・ゲイの名盤をせっかく買ったのに無くしてしまうなんて、五万二千円を無くしたようなショックを覚えながらコンビニまで駆け抜け、カウンターに届いてないかとサンタの赤い帽子をかぶった男の子に問い、調べてもらったがやはり、ない。


落ち着け、落ち着くんだ。

大衆中華まで戻り、先ほど歩いた道順をそのまま駆け抜けた。喫茶店に寄ったじゃなく、ショッピングなんかする訳も金もなく、どこをどう歩いたっけ。

気づくと赤信号なんか無視していたので、酒を配達する軽トラに轢かれそうになる。窮乏生活も続き、轢き殺されるのも却ってせいせいするのではないか‥‥


あ、パチンコホールに寄ったんだ。

パチンコホールまで走る、走る。


ホール担当に来意を告げ、カウンターの下を見てもらい、中華店でやったように身を乗り出すと、これ以上は中に身を乗り出すのも禁止されてると咎められた。

そしてCDの青い袋が出てきた。

咎められたって構わない、ここに忘れてたんだ‥‥

走り疲れ、とぼとぼとジャズバーまで歩く。



コンビニの袋に発泡酒が残っており、歩きながら開けると、それまでの振動のせいで中身がかなり飛び散った。雑踏を越えたあたりでもあり、被害は自分だけで済んだ。

顔から汗もしたたってたが、マスターがいつも出してくれる赤のおしぼりで整えれば、それでいいと思った。



素敵な女性が客として来ることもなかった夜だったが、マスターと音楽や、その店で知り合って結婚したカップルが、出産して間もない赤ん坊を連れてきた、という話をしながら盛り上がった。




慌ただしい師走の街を駆け抜ける、バカな男‥‥‥笑っていただければ幸いです。マスターとの話などは、機会がありましたら書きますね!

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