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おっさんAの異世界冒険譚 ~転生者、詰みそうな町を事業計画で立て直す~  作者: タツダノキイチ
第一部

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おっさんA、商売をする03

翌朝。

また村長を訪ね、薬液の作り方を書いた紙を渡す。

村長はさっそく作ってみると言っていたから十日もあれば試作品が完成するだろうなと思いながら、私たちはいったん南の町へと向かった。

長閑な街道を一日半かけて歩き、南の町に到着する。

まずは宿を取り荷物を整理すると、さっそくリズを先頭に商業ギルドを訪ねた。

「行商人のリズって言います。この町で絹織物を卸したいと思っているんだけど、ギースっていう商人の店を教えてもらえませんか? リネア村の絹織物を一手に扱っているそうなので、少し話を聞きたいんです。あとこの町で絹織物を扱っている大商会も教えてください。もし、仲卸との話が不調に終わった時、直接販売したいので」

スラスラと話すリズに受付の女性が、

「えっと、少々お待ちください」

と言い、カウンターの奥に下がっていく。

すると、しばらくして上司らしい少し年嵩の女性がやってきた。

「リネア村の絹を買い付けられたとお聞きしましたが、あの村に在庫があったのですか?」

「ええ。ありましたよ。百反ほど」

「……そうでしたか。いえ、少し聞いていたのと話が違ったので確認させていただきました。ありがとうございます。ギースさんのお店の紹介をご希望でしたね。ギースさんのお店はこの一本裏の通りにあります。ギース商会という看板が大きく出ていますからすぐにわかりますよ。もし、なにか問題があるようでしたら、私、エメローダに相談したと仰ってください。おそらくそれで問題は解決するはずです」

「ありがとう。で、直接大商会に持ち込むなら?」

「正直それはあまり歓迎できません。おそらく仲卸に目を付けられてしまいますよ?」

「……なるほど。その仲卸が一番うまい汁を吸っているってことですね?」

「それはなんとも申し上げられません。しかし、この町にはこの町の商習慣がありますから」

「なるほど。商業ギルドも一枚噛んでるってわけですか」

「厳しいお言葉ですね。ただ、長年に渡って頭を悩ませているというのはわかっていただきたいですわ」

エメローダと名乗った女性がそう言ったところで、少し口を挟む。

「その長年の商習慣に風穴を開けられたなら、商業ギルドにもうま味があるんじゃないか? おそらくだが、大商会の側もそれで頭を悩ませていると見たがどうかな?」

「ご賢察ですわね。悔しいですが、その通りですわ。少し調べればすぐにわかるでしょう」

「なるほどな。リズ、私たちはまずギースをとっちめてから適当に見つけた大商会に行こう。おそらくあっちは食いついてくるはずだ」

「そうだね」

「しょ、少々お待ちください。何事にも順序というものがありますわ」

「その順序を守っていたがために、リネア村の人たちが安く買いたたかれていたんだが、その責任は誰がとってくれるんだ?」

「それは……」

「エメローダさんといったな。私たちはなにもこの町を荒らしたいわけじゃないんだ。ただ、まっとうに働いている人たちが正当な報酬をもらえるようにしたい。それだけを思っているんだよ。どうだろう? 協力してくれないか?」

「……かしこまりました。私どもも誰かの犠牲を望んでいるわけではありません。三日ほどお時間をいただけますか? その間になんとか筋道をつけさせていただきます。ああ、ギースさんの方は先に片付けていただいてけっこうですよ」

「ありがとう。手間をかけさせてすまんな」

「いえ。ではまた三日後にお待ちしております」

そんな話で私たちはさっそくギースの店を目指す。

ギースの店は言われた通り、わりと大きな看板を出していたのですぐに見つかった。

「こんにちは。ギースさんはいらっしゃいますか?」

店先にいた男性にリズがそう声を掛けると、その男性が胡乱げな顔で、

「ギースは俺だ。なんか用か?」

と商人らしからぬ口調でそう返事をしてきた。

「あら。それは失礼いたしました。私、行商人をしているリズと申しますの。先日、リネア村に立ち寄ったとき、絹織物を買い付けましてね。その時、ギースさんのお名前を聞いたものですから、一度ご挨拶をと思って顔を出させていただいたんですよ」

「ほう。同業者か。そいつはご苦労なこったな。挨拶なんていいぜ。商売の邪魔だ」

「あら。それはなんともひどい言い方ですね。それでも商人なんですか?」

「なんだと!? よそ者が口幅ったいこと言ってんじゃねぇ。とっとと帰りな!」

「ふっ。最低ですわね。その調子で村から絹織物を買いたたいていたんですか?」

「なに!?」

「聞きましたよ。一反大銀貨一枚でしたね。それに、村に在庫があるにも関わらず買い渋ったそうじゃありませんか。きっと商業ギルドにも物が無いと嘘をついていたんでしょうね。おそらくそれで一時的に値を釣り上げたんでしょ? それ、ばらしてきましたよ」

「な、なんてことしやがったんだ!」

そう言ってギースが握り拳を上げたところでさすがに止めに入る。

私はパッとギースの拳を押さえると、そのまま腕を後ろにまわしてギースを押さえつけた。

「なにしやがる! てめぇ!」

「いい加減にしろ。もう、悪だくみはバレてるんだ。エメローダさんに直接話したからな」

「なっ……」

そのひと言でギースががっくりと膝をついた。

(なるほど。エメローダさんは相当な顔の持ち主らしい)

そんなことを思いつつ、ギースの手を離す。

そこにリズが、

「リネア村のみなさんには適正価格をお伝えしてきました。二反で大銀貨五枚です。おそらくあなたも仲卸に絞られてるんでしょうけど、そっちもどうにかしますので、これからせいぜいまっとうな商売をしてくださいね。安く買って高く売るだけが商売じゃありません。商人は地域の生業を支える役目もあるんですよ。そのことをしっかり頭に叩き込んでおいてくださいね。まぁ、この町の商業ギルドに睨まれてしまったんですから、よその町でやり直すことになるでしょが、それは自業自得というものですよ」

と優しくも怖い笑顔でそう語り掛けた。

「くっ……。俺だって上に絞られてたんだよ……」

そう言ってギースがさらにがっくりと肩を落とす。

私はなんとなくギースを不憫に思いながらも、少し悪知恵を働かせ、

「なぁ、ギース。どうせこの町を離れなきゃいかんなら在庫を吐き出さないか? 今なら一反大銀貨二枚で買ってやるぜ?」

と囁いた。

「くわっ!」とした目で私を睨んでくるギースに、「どうだ?」と目で問い返す。

ギースはぐったりとした様子で「ははは……」と笑い、

「店の奥にまだ百反くらいある。小金貨四十枚おいてとっとと持ってきやがれ」

とつぶやいた。

「商談成立ですね」

リズがそう言って書付を渡し、小金貨四十枚をカウンターに並べる。

そして私たちはさっさと店の奥に行くと、織物の入った箱を見つけサーニャの魔法鞄に詰め込んだ。

さっさと店を出て、宿に戻る。

部屋に入るなり、

「いやぁ、緊張したー!」

と言うリズに、

「さすが商売人だな、けっこう堂に入ったしゃべり方をしてたぞ?」

と少しからかうような視線を向けつつ褒めると、リズは少し照れながら、

「それはありがと」

と少し子供っぽくそう答えてきた。

「よくわかんないけど、無事解決してよかったじゃん!」

「ええ。でも三日後からが本番なんですよね?」

「ああ。でも、それまではいったんゆっくりできる。前祝いを兼ねてパッといこうじゃないか」

「やった! 飲み放題だ!」

「いや。そうは言ってないぞ?」

「えー、アレンのケチ……」

「今日は小金貨四枚までだな」

「お! いつもよりちょっと増えた!」

「それならけっこう贅沢できますね」

「じゃあさ、さっき通りで見かけた居酒屋に行こうよ。表の看板に鴨肉のローストって書いてあったから気になってたんだ!」

「お前、よくそんなの見つけたな」

「へっへー、私そういうの見逃さないんだよね」

「まぁ、居酒屋でちょっと贅沢するくらいなら大丈夫だろう。くれぐれも飲み過ぎるなよ?」

「はーい」

明るく言葉を交わし、さっそくその居酒屋を目指す。

その日、サーニャはなんともご機嫌に酒を飲み、少しほろ酔いでまたまるで軽業師のような踊りを披露した。


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