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おっさんAの異世界冒険譚 ~転生者、詰みそうな町を事業計画で立て直す~  作者: タツダノキイチ
第三部

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おっさんA、勇者と出会う03

「明確な人物像は朧気です。しかし、普通の社会人として凡庸に暮らしていたのは覚えています。どこにでもいる普通のおっさんでした」

「そうか。それは羨ましいな」

「というと?」

「私は中学生くらいまでだ。おそらくそこで命を落としたんだろう」

「……」

「そして、気が付けば西の辺境にある小さな村の農家の子に生まれていた」

「私は東の辺境にある荒物屋の子です」

「そうか。それは幸運だったな。私は、あまり幸運じゃなかった。なにしろ家が貧しかったから、毎日、どう生き延びるのかを考えるので精いっぱいだった」

「そうなんですね……」

「ああ。だからいわゆるチート能力を持っていると気付いた時には喜んだものだ。これで美味しい飯が腹いっぱい食えるようになるぞってな」

「それで冒険者の道を?」

「ああ。それも幸運だった。エリスやフィオーネ、ラバンドたちと会えたからな」

「勇者様に聖女様、大魔導師様に賢者様……。そうそうたる顔ぶれですね」

「ふっ。今ではそうだが、あの当時はそれなりに苦労もしたもんだ」

「そうだったんですね。私はいたって普通の人生を送ってきました。サーニャと出会うまでは。特技も薬草採取なので、『草取り名人』ってあだ名をつけられてたくらいなんですよ」

「そうか。サーニャとはどこで?」

「私がミノタウロスに襲われているところを偶然助けてもらいました。その後、その肉を焼いてあげたら妙に懐かれたという感じです」

「ふっ。想像できるな」

「サーニャは昔もそんな感じで?」

「ああ。昔っから天真爛漫な性格の子だった」

「たしか東の町の近くで孤児だったと聞きましたが……」

「そうだ。トロールの群れに襲われた町で唯一の生き残りだった。がれきの下で母に抱き着いて泣いていたのを今でも覚えている」

「そうでしたか。それではなぜ、サーニャを手元に?」

「それは今でもよくわからん。きっと衝動的な行動だったんだろうと思う。特にエリスが連れて行きたいと言い出してな。おそらく自分は子が産めないということも関係していたんだろうがな」

「……」

「だから私も連れて行くことに反対できなかった。その時にはすでに将来を約束し合っていたからな。しかし、私はご覧の通り不器用な男だ。だからサーニャには生きることの厳しさや戦いの激しさだけしか教えてやれなかった。エリスも似たようなものだったかもしれない。この世界を強く生き抜いて欲しいと思うあまり、酷なことをしてしまったと思っている」

「なるほど。だからサーニャは時々あんな目をするんですね」

「というと?」

「妙に据わって鋭いとも泣いているともとれるような目をするんです。特に炎竜と戦った村の跡地に行った時は悲しそうな顔をしていました」

「……そうか。あそこの戦いは激戦だった。私たちだけでは手に負えないと思って何組かのパーティーと一緒に行動したんだが、そこで犠牲者も出てしまったからな」

「もしかしてサーニャが持っていたスキットルの持ち主ですか?」

「ん? ああ、そうだったな。酒好きで明るいやつだったよ。短い付き合いになってしまったが、サーニャはまるで兄のように慕っていた」

「そんなことがあったんですね」

「ああ。それからサーニャはより戦いに厳しく臨むようになった。そこで私たちは気付いてしまったんだ。自分たちがあの子を追い詰めてしまったということにな」

「サーニャはきっとそんなに気にしていませんよ」

「……だといいがな」

そんな話をし、安酒を軽く飲む。

そこからは日本の思い出話になった。

おもちゃやゲームの話になり、この世界にはすでにかるたやおはじき、リバーシなどの遊びがあるから、きっと過去にも同じように転生してきた人間がいるのではないかという話で盛り上がったり、牛丼はどこのが一番好きだったか? というような話をした。

しばらく歓談して、最後にメダルを渡される。

「それがあればいつでもうちを訪ねて来られる。近いうちにまた遊びにきてくれ」

「はい。必ず」

そう言って硬い握手を交わし、私たちは執務室を出てみんなの所に戻っていった。


◇その頃のサーニャたち。エリス視点

「マイちゃんっていったわね。さっきの感じだと、とってもいい魔力をしているのに、どうして全身の流れが少し詰まったような感じなの?」

そう言うエリス様に、私は、

「よくわかりません。気が付けば軍に放り込まれていたので、魔法はほぼ自己流なんです」

と正直に答える。

「そう。それは少しいやなことを思い出させてしまったわね。マイちゃんったら、魔力量は私に匹敵するほどのものを持っているのに、全然出せていない感じがしたから少し驚いて聞いてみたのよ」

「そうなんですか? 初めて言われました」

「あら。エルフの軍はそんなに適当なのかしら?」

「たぶん間が悪かったんだと思います。ちょうど激しい戦闘が行われている最中でしたから」

「そうだったのね。嫌なことだけど、またそういう時代が繰り返されようとしているわ」

「というと?」

「最近ね、軍に出動要請が増えているの。各地で大型の魔獣や大規模な群れが確認されているわ。私も時々出陣しているのよ」

「そうだったんですね。それは知りませんでした」

「そうね。どれもまだ辺境での話だから、一般には知れ渡っていないでしょうし」

「でも、海辺の町の件は、そうじゃありませんよね?」

「ええ。ついに人の生活の近くに出てきたのかって思うと少しぞっとするわ」

「伝説の聖女様でもそう思われるのですか?」

「あら。私は伝説と言われるほどすごい存在じゃないわよ? でも、そうね。歳を取ったからかしら? 段々力の衰えを感じて恐ろしさを感じるようになったわ」

「そうなんですね……」

「あらやだ。私ったら、少ししんみりさせちゃったわね。このケーキ美味しいから是非召し上がって?」

「あ、はい。いただきます」

そう言って、口にしたケーキは甘さと酸っぱさがちょうどいい感じでどこか懐かしさを感じるような味だった。

やがてサーニャとエリス様が話し始め、最近の冒険の話になる。

「そう。そんなに美味しいのね、アレンさんの生姜焼きって」

「うん! あれは最高だね。エリスのケーキと同じくらい好き!」

「あらまぁ。そんなに?」

と楽しそうに話しているサーニャとエリス様を見て、なんとなくほんわかとした気持ちになる。

しかし、話が進むにつれ、あの竜の死体を浄化した時の話になった。

「マイがね、竜を浄化してくれたんだけど、骨だけになっちゃったんだよ」

と言うとエリス様が少し顔色を変え、

「その骨。見せてくれる?」

と言い出す。

サーニャは何気なく、大きな骨を魔法鞄から取り出すと、それを無造作に床に置いた。

「……」

エリス様が無言でその骨に触る。

軽く目を閉じて集中しているから、おそらく魔力を読んでいるのだろうと推察した。

ややあって、

「なるほど……」

というエリス様に、「どういうことですか?」というような視線を投げかける。

しかし、エリス様は軽く首を横に振り、

「ここから先は国家の問題よ。申し訳ないけど、その竜の骨、うちで預からせてちょうだい」

と言い、メイドに、

「私の魔法鞄を持ってきて」

と言った。

やがて、庭先に出て竜の巨大な骨のやり取りをする。

美しい花が咲き誇る庭で竜の骨という物騒なものがやり取りされているのを見て私はなんともいえずに笑いを浮かべた。

「はい。これはお駄賃よ。みんなで分けてね」

と言いエリス様が魔法鞄から聖銀貨を八枚取り出す。

「ありがとう、エリス!」

サーニャはよく考えずに受け取ったが、かなりの金額に私はびっくりしてしまった。

そんな私に、エリス様が、

「いいこと、マイちゃん。これからは全身に効率よく魔力を行き渡らせることを意識して魔法を使いなさい。きっとあなたはいい魔法使いになれるわ。そして、その力でサーニャを守ってあげてね」

と言ってくる。

私はなんとも言えない顔で、

「がんばります」

と答えたが、内心では、

(私がサーニャを守るなんてできるのかしら?)

と思いかなり不安に思っていた。

そんなやり取りが終わり、サロンに入る。

そこにジャック軍務卿とアレンが戻ってくる。

エリス様がジャック軍務卿に何やら囁くと、ジャック軍務卿の顔が変わった。

小さな声で、

「これは世界樹の案件か……」

と言ったのを聞いてしまう。

ふとアレンに目を移すと、アレンは苦笑いで軽く首を横に振ってきた。

(ああ、そうか。アレンは聞かなかったことにしたいのね)

と思い、私も苦笑いを返す。

私たちはそこでジャック軍務卿とエリス様に別れを告げ、再訪を約束すると、また豪華な馬車に乗って町へと戻っていった。


◇アレン視点に戻る

宿に入り、とりあえず風呂に入る。

(いろんなことがありすぎたな……)

と思うと自然と苦笑いが浮かんできた。

そして、

(俺は同じ転生者といってもジャック軍務卿とは違う。俺は俺のやり方でこの世界を懸命に生きていくだけさ)

と思いパシャンと顔にお湯をかける。

いろんな緊張から、一気に解放されたような気がした。

ゆっくりと体を温め、風呂から上がる。

そして、私はいつものようにみんなと夕食を食うため、町に繰り出していった。

「なんか茸パスタが食べたくなっちゃった」

というサーニャの突然の提案に、

「そりゃまた唐突だな」

と言うと、サーニャはニコッと笑い、

「フィオーネが作れる唯一の料理だったんだよ。美味しくはなかったけど」

と言って懐かしそうに目を細めた。

「そうか。大魔導師様にもそのうち会いに行こうな」

「うん!」

サーニャの明るい声が王都の空に溶けていく。

私はなんだかんだで、明るい気持ちになると、もう一度、心の中で、

(俺は俺さ。俺なりにこの世界を楽しんでやるぜ)

と誰にともなくつぶやいた。


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