おっさんA、調査する01
海鮮丼で膨れたお腹をさすりつつ町の様子を見ながら歩く。
いろいろ聞いたせいでよけいにそう見えるだけかもしれないが、港町ならではの活気は確かに色あせているように思えた。
さっそく宿に戻り、一度頭を整理する。
(体調不良者が出ているのは漁業関係者だったな。海と体調不良になにか因果関係があるのだろうか? マイがもしかしたら魔力障害かもしれないと言っていたが、それと海にどんな関係が? とにかくその辺りはマイとよく話し合ってみる必要がありそうだな)
そう思って、簡単にこれからの行動方針を決め、マイたちの部屋を訪ねた。
とりあえず食堂に場所を移し、お茶を飲みながら少し話を詰める。
マイ曰く、魔力障害というのは魔力の使い過ぎや魔力の元である魔素の取り込みが十分にできていないときに起こるのだそうだ。
大規模な魔法を使った後や、魔素の薄い土地で暮らす子供に多いとのこと。
主な症状は全身の倦怠感らしいから、今回の主な症状とよく似ているらしい。
そんなマイの意見を聞き、なにか判別方法があるかと聞くと、
「食品の魔素は専門の機関でそれなりの器具を使わないとわかりません。ただ、土地がやせている場合はなんとなく私の力で判別できます。それに、患者さんを一度見せてもらって、もし私の聖魔法が効いたら、それはなんらかの魔力障害だということが言えますね」
と教えてくれた。
それらの話を聞き、
「マイ。海の魔素に異常があるかどうかは調べられるか?」
と聞いてみる。
しかしマイは微妙な顔で、
「これだけ広くて水の流れがあるところだとどうでしょう? もちろん、やってみなくてはわかりませんが……」
と曖昧な返事をしてきた。
「そうか。では、すまんが一度試してもらおう。ダメでもかまわない。その後は患者をたずねて聖魔法を使ってみてくれ。患者の紹介は漁業者に聞けばすぐにしてもらえると思うから明日はみんなで漁港に聞き込みに行こう」
そういう方針を決め、そのまま夕食をとりに町に出掛けていく。
夕方の買い物で賑わう町を見て、
(そういえば、前に来た時はみんなもっと溌溂として、売り声が響いていたような気がするな……)
とまたそんなことを思いながら適当な飯屋に入って夕食をすませた。
翌日。
さっそく漁港に向かう。
魚市場で先日サンマを買った店に行くと、
「へい、らっしゃい!」
と元気に声を掛けられた。
「すまん。つかぬことを聞くが、南の町の商会から依頼を受けてこの町の体調不良に関する調査をしているんだ。どこで誰がどんな症状に苦しんでいるのか全体を把握したいと言われていてな。すまんが、知っている範囲のことを聞かせてもらえないか?」
と頼む。
店員は最初怪訝な顔をしていたが、
「ちなみに、依頼をしてくれたのは南の町のリッツ商会だ。薬師ギルドにも顔を出して回復に効きそうな薬も教えたりしたぞ」
と追加情報を出すと、
「ああ、リッツ商会さんからのご依頼なんですね。じゃあ、安心だ。なに、体調不良を起こしてるのはみんな漁に出てるやつらばっかりですよ。ああ、でも小さい子もぐったりしてるのが出始めてるっていうのも聞きましたね。なんか質の悪い風邪でも流行ってんじゃないかって奥さん連中としてたところでさぁ」
と気前よく情報を教えてくれた。
「そうか。子供もとなると心配だな。ついでに、その体調不良に悩まされてるって人を紹介してもらえないか? 薬が本当に効くかどうか飲んで確かめてもらいたいんだ」
「ええ。それなら構いませんよ。ちょうど網元の家がそんな感じで困ってるって話でしたから。網元が了解してくれりゃぁあとはいろんな人を紹介してもらえると思いますぜ」
「そうか。その網元さんを紹介してくれるか?」
「ええ。案内ついでにご一緒しやしょう。これでも網元さんとは仲良くさせてもらってるんで、話が早いと思いますぜ」
「そうか。それは助かる。しかし、いいのか? 仕事中だろ?」
「なぁに、かまいませんよ。なにせ、この景気の悪さですからね」
そう言われて軽く周りをみると、確かに客は私たちを含め、数組しかいなかった。
「じゃあ、頼む」
「へいよ!」
そう言ってさっそくその店員の案内で網元の自宅を訪ねる。
そこで店員が事情を説明してくれたおかげで、網元はすんなり私たちを受け入れてくれた。
「この町で網元をやってるサイナスってもんです。薬があるってのは本当なんですかい?」
「ああ。香辛料を使った強壮剤だ。一時的にはそれなりの効果を発揮するはずだ」
そんな挨拶を交わし、軽く自己紹介をする。
「そいつぁ助かります。なにしろ、体中がだるくてしょうがないと思ってたところでしてなぁ」
「お子さんも悪いと聞いたが?」
「ええ。熱もないのにぐったりしてるんで心配してたところです。薬師に聞いても原因がわからねぇっていいますし、薬もないって言われちまって」
「そうか。それは大変だったな。とりあえず、薬を渡すから飲ませてやってくれ。そのうち薬師ギルドからも発売されると思うから、定期的に飲んでくれよ」
「へい。ありがとうございます」
サイナスさんはそう言うと、本当にありがたそうに薬を受け取ってくれた。
次に、
「それで、ついでと言ってはなんだが、診察もさせてくれないか?」
と切り出す。
サイナスさんが首をひねりつつ、
「診察ですかい?」
と聞いてきたので、私は咄嗟の機転で、
「ああ。私たちは医者じゃないが、魔力不足がもとになって体調が悪くなっているんだったら、多少回復させることができるんだよ。冒険者が身体強化なんかで使う魔力循環の応用でな」
と方便を使った。
「へぇ。冒険者さんにそんな技があるんですね。かしこまりました。受けさせてくだせぇ」
なにも疑わずに治療を受け入れてくれたことにほっとしつつマイに視線を送る。
するとマイはにっこり微笑みながら、うなずき、
「私が試してみますね。サイナスさん、座ったままで構いませんから、力を抜いて、ゆっくり魔力を受け入れてくださいね」
と言い、さっそくサイナスさんの後に立って、肩の辺りに手を置いた。
緊張しているらしいサイナスさんに、マイが、
「痛くもかゆくもありませんから、目を閉じて力を抜いてください」
と声を掛け、聖魔法を発動する。
マイの手がぼんやり青白く光ったかと思うと、その光はやがて柔らかくサイナスさんの体を包み込んでいった。
五分ほどでマイが魔法の発動を止める。
「終わりましたよ。どうですか?」
とサイナスさんに声を掛けると、サイナスさんは目を開け、
「おぉ……。体が軽くなってまさぁ……」
と驚きの表情でそう言ってくれた。
「よかった。効いたみたいですね。じゃあ、お子さんも同じように治療しましょうか」
「ええ。ぜひともお願いします! もう、かわいそうで見てられないような状況なんでさ!」
そう言ってさっそくサイナスさんの子供が寝ている部屋に向かう。
そこには十歳に満たないくらいの女の子がぐったりとした表情で眠っていた。
さっそくマイが子供の側に行き、手を握る。
そしてまた聖魔法を発動すると、子供の体がふんわりと光り始めた。
「おぉ……、これでこの子は……」
サイナスさんが感動の声をあげるのに横から、
「マイは特別に魔力が多いんだ。なにしろエルフだからな。だからもう心配ないぞ」
と適当な嘘を挟みつつ慰めの言葉を掛ける。
その説明でサイナスさんは納得してくれたらしく、
「さすがエルフさんですなぁ」
と言いどこか尊敬するような眼差しをマイに向けた。
やがて、マイが魔法を止め、軽く子供の様子を見る。
そして、子供の息が少し楽そうになっているのを確認すると、
「これで大丈夫ですよ。ただ、お薬はしっかり飲んでお食事も気を遣ってあげてくださいね」
と言ってサイナスさんに微笑んでみせた。
「ああ、まるで伝説の聖女様のような……。なんとお礼を言っていいか」
と思わず泣きそうになっているサイナスさんにマイが慌てて、
「そんなたいそうなことはしていませんよ。どうか拝まないでください」
と言い、その場に少しほんわかとした空気が流れる。
それから私たちはサイナスさんの紹介で何軒か漁師の家を訪ね、同じようなことをして回った。




