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おっさんAの異世界冒険譚 ~転生者、詰みそうな町を事業計画で立て直す~  作者: タツダノキイチ
第三部

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おっさんA、海を満喫する04

薬師ギルドを出て宿に向かう。

いったん荷物を置き、食事に向かうと、そこで、

「やっぱり利害対立が深刻っぽかったね」

とリズが率直な感想を漏らした。

「ああ。しかし、さっきも言ったが、この町が衰退して得をする人間なんて誰もいない。その点はしっかりと認識を共有できてるのが救いだったな」

「そうだね。で、強壮剤の候補はいくつかあるの?」

「ああ。基本になる香辛料と薬草は比較的どこででも手に入るものだ。あとは値段を見て、『いつも飲むのにちょうどいい物』と『ここぞという時に飲む高級な物』の二種類を作ろうと思っている。どちらも基本は同じで配合する香辛料や薬草の種類を増減させるだけだから簡単にできるだろう」

「へぇ。でもなんで二種類なの?」

「ああ。それはその時の気分や懐具合によって選択肢を作るって意味合いが大きいな。ほら、例えば『今日は大事な仕事の日だから気合を入れていこう!』みたいな気分の時は高級品で景気づけしたいっていう需要が出てくるかもしれないっていう感じだな。それにそういうお高いのを用意しておくと、肉体労働者の需要だけじゃなく、経済的に余裕のある壮年層の需要も取り込めるかもしれんだろ? なにせ、年齢に伴う衰えってのは年々ひどくなっていくもんだからな」

「あはは。なんか実感こもってるね」

「ああ。だから自分が欲しい商品を作る感じだな」

「ふふっ。実需に基づいた商品開発ってわけか」

「まぁ、そういうこった」

そんな話をしながら最後は笑って食事をすませ、宿に戻る。

そして私はさっそく強壮剤に入れる香辛料や薬草の候補をつらつらと書き記していった。

翌日。

さっそく市場の元締めに会うべく市場を訪れる。

元締めのところに行く前に軽く市場を眺めて回ったが、必要なものはだいたいそろっているように思えた。

市場の中でも古株らしい少し大きめの店に入る。

そこで薬師ギルドからの紹介状を見せると、すぐに元締めらしき人が店先に出てきてくれた。

「おう。この店の主のクレオスってもんだ。市場の元締めもやってる。ラニッツの紹介なんだって?」

そう言っていかにも市場の商人らしく豪快な笑顔をみせるクレオスさんにリズが、

「行商人のリズと申します。今日は香辛料や薬草のことで少しご相談させてもらいにきましたわ」

とにこやかに挨拶をする。

「そうかい。まぁ、よくわからねぇがとりあえず話を聞こう。よかったら中に上がってくんな」

とにこやかに言われ、店の中に入っていくと、そこいらじゅうに香辛料が入っていると思われる箱が積まれた倉庫のようなところに通された。

小さなテーブルと椅子が置かれた一画に座らせてもらう。

「で、行商人さんが薬師の紹介で香辛料屋にくるってのはどういうわけなんだい?」

市場の関係者らしく直球で聞いてくるクレオスさんに、リズが少し苦笑いしつつ、

「話は簡単です。薬効のある香辛料を使って強壮剤を作ることになったんですけど、お値段や仕入れの状況、希少性の有無なんかを教えていただきたいんです。要するに元気の出る薬を作って売りたいから材料選びを手伝ってほしいというお話ですわ」

と少し砕けた感じで、訪問の理由を説明した。

「なるほど。そういや香辛料にはそういう健康にいい効果のあるものもあるな。わかった。で、どんなのが欲しいんだ?」

そう言われたところで私がリズに代わる。

「欲しいと思っている香辛料を一覧にまとめた。それぞれがいくらくらいするのか。珍しいのか手に入りやすいのかってのを教えてくれ」

そう言うとそこからは具体的な話になっていった。

小一時間ほども話し、大筋が決まる。

「ありがとう。助かったよ」

「なに。この話が決まればこっちも商売の幅が広がるってもんだからな。市場のやつらには、俺の名前を出して事情を説明してくれりゃいい。その試供品用に少量でも売ってくれるだろうからよ」

「ああ。さっそくそうさせてもらうよ」

「おう。がんばれよ」

そう言ってそれぞれがクレオスさんと握手を交わすと、私たちはさっそく市場で試供品作りに使う香辛料を少量ずつ仕入れていった。

材料が揃い、宿の部屋で試供品作りに取り掛かる。

まずは一般的な人が買いやすいだろう価格に抑えたものを調合してみた。

調合する私の横でリズが計算を始める。

一包当たりの製造単価と妥当な売値をはじき出し、少し量を調整したり、薬価を下げたりする工夫をしながら、数回の調合で一応の完成品ができた。

「飲んでみるか?」

「うん」

そう言ってリズが粉薬を飲む。

するとリズは、

「へぇ」

と言って少し驚いたような顔をした。

「そんなに苦くないんだね。むしろなんだか後味がスッとしてる」

「ああ。その辺は調整したからな。なにしろ定期的に飲んでもらうものだから不味くちゃ話にならない」

「そっか。さすがアレン。味にはうるさいんだね」

「ははは。そうだな」

そんな話をして次に高級品作りに取り掛かる。

こちらは少し贅沢な香辛料を使用し、ほんの少しだけ甘い味付けにした。

「あ、こっちの方が甘くて飲みやすいかも」

「ああ。さすが高級品って感じの味にしてみた。それに、これは酒に溶かしてもいいようにしてある。甘苦い感じの酒になるが、寝る前なんかに飲むと翌朝疲れが抜けているって寸法さ」

「なるほど。それはいいね。いかにも壮年の男性にウケそうじゃん」

そんなリズの好反応に少しドヤ顔で、

「だろ?」

と答える。

その後、もう一度製造原価の計算をし直し、おおよその売値と利益を計算するとそれを一枚の書類にまとめていった。

翌日。

さっそく試供品を持って薬師ギルドを訪ねる。

幸いラニッツさんがいたので、さっそく薬を試してもらった。

「なるほど。飲みやすいな。それに酒に溶かせるってのもいいかもしれん。そういう酒を造って売ればそれなりに売れそうだ」

好感触を得て、リズがほっとした顔をする。

「こちらが、薬価と利益をまとめた表になります。おおよその計算ですが、安価な方でもひと月あたり三百包売れば、金貨三枚の利益が出るように計算されています。虫刺されの薬ほどではないでしょうが、これで十分薬師さんたちの生活を支えることができるようになると思いますよ」

リズがそう言いながら表が書かれた紙を私と、ラニッツさんはそれをじっくり眺めたあと、

「わかった。まずはやる気のあるやつらに声を掛けよう。さらに広めるかどうかは市場の反応を見てからってことになるが、これでちっとは薬師たちもやる気を取り戻してくれるだろうよ」

と言ってくれた。

言葉はどこか渋いが、その表情にはどこかほっとしたようなところも見受けられる。

私はそっと手応えを感じつつ、ラニッツさんと握手を交わし、薬師ギルドを後にした。


「やったね!」

薬師ギルドを出た瞬間、リズがハイタッチを求めてくる。

私はそれに喜んで応じつつ、

「これで、この町の薬師もしばらくは安泰だろう。それに町の人たちの健康にもつながるんだから、誰も損をしない形になったな」

と言い、ほっとした笑顔を見せた。

「じゃあ、次はいよいよ調査の方だね」

そう言ってリズがマイの方を見る。

マイは真剣な表情でしっかりうなずき、

「がんばりますね」

と言ってくれた。

「がんばってね、マイ!」

サーニャが明るく応援の声を上げるのに、

「聞き込み調査もあるからサーニャも頑張ってくれよ」

と微笑んで声を掛ける。

するとサーニャは一瞬だけ驚いたような顔を見せたが、すぐにいつものニカッとした笑顔を見せ、

「うん!」

と元気よく返事をしてくれた。

「さて。景気づけになにか美味しい物でも食べよう。ちょうど昼時だからな」

「じゃあ、海鮮丼がいいな! 市場に美味しそうな店があったんだよ!」

「ほう。私たちが香辛料を見ている時、ちゃっかり調査してたんだな。よし、そこにしよう」

「やった! アタシ大盛りね!」

「ははは。じゃんじゃん食え。今日はとりあえず薬関係が上手くいったお祝いだからな」

「えへへ。じゃあ、一番高いのにしちゃおっと」

「うふふ。じゃあ、私も明日からの調査に気合を入れるために一番高いのを大盛りで食べちゃいますよ」

「いいね! 私もそうしよっかな」

「おいおい。みんな贅沢だな」

「そう? アレンは贅沢しない?」

「いや、俺も一番高いのにしよう。しかし、普通盛りだがな」

「あはは! さすが中年男性!」

「ふっ。リズたちもそのうちこの感覚がわかるようになるさ」

明るく話しながら市場の方に向かう。

昼時に活気づく海辺の町の潮風を感じつつ、私は、

(さて。第一段階突破だな)

と思い、密かにほっとひと息吐いた。


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