おっさんA、再び海に向かう02
翌日。
まずはイザベラさんの案内で村の中を見て回る。
現状を知らなければなにも出来ないと思ったので、いわゆる予備調査としてそこは無償でいいと告げた。
最初はそんなに違和感を持たなかったが、農家のおっちゃんが、キャベツの葉の詰まり方も良くないんだと言って実物を見せてくれたので、なんとなく確かに他とは違うな、というのがわかった。
こっそりマイに魔力を読んでくれるかどうか聞く。
するとマイは、
「森の少し奥に行けばたぶん可能ですよ」
と言ってくれたので、翌日からさっそく森に入ってみることにした。
イザベラさんが貸してくれたかなり詳細な地図を持って森に入る。
森は一見なんの異常もないように思えたが、それでも丹念に下草の種類や木の植生を見て回った。
結局一日目は「どこにでもある普通の森」という印象で終わる。
(これはどうも期待に応えられそうにないな……)
と軽く落ち込んでいると、サーニャがどこか楽しげな顔で、
「ねぇ。こういうのってなんか楽しいね。いかにもお仕事してるって感じがする!」
と言ってきた。
「まぁ、確かにな。人のために動いていると仕事をしてる感じにはなるよな。ただ、仕事ってのはそれだけじゃダメなんだ。それなりの結果も残さないといけない。おそらくだが今回は空振りに終わるだろう。しかし、なにか一つでもいいからきっかけになるようなことを探したい。例えば土壌改良につながるいい土の在り処とか、天候に左右されず安定してとれる果実を見つけるとかだな。まぁ、それが薬草になるならいいが、そうそう簡単じゃない。でも、ちゃんと期待に応えて動きましたって事実がわかるようななにかは残したい。おそらくそれが本当に仕事をするってことだからな」
そう言うとサーニャは少しきょとんとした顔になったが、
「そっか。仕事って難しいんだね。でもさ、アレンならきっと大丈夫だよ。アタシも手伝うから一緒に『お仕事』頑張ってこの村にさ、もっと楽しいをいっぱい増やしてあげようよ!」
と言いまたいつものニカッとした笑顔を見せてきてくれた。
その笑顔になんとなく救われたような気持ちになり、サーニャの頭を軽く撫でる。
サーニャはなんともくすぐったそうな顔をしていたが、どこか嬉しそうな笑顔を浮かべ、
「えへへ……」
とはにかんだ。
翌日。
マイが、
「魔力を読むなら水辺がやりやすい」
と言うのでやや急ぎ足で森の奥に向かう。
地図によると森の少し奥まったところに小さな泉があるということになっていた。
そこを目指す途中、もはやお決まりのようにゴブリンの痕跡を発見する。
(本当にどこにでも湧くよな、こいつら)
と思いつつも比較的村に近い位置で出てきた以上、放ってはおけないと思い、その痕跡の後を追っていくことにした。
しばらく進み、二十匹ほどの群れを発見する。
私は久しぶりに刀を抜くと、
「リズはマイの護衛に専念してくれ。マイは気を緩めるな。サーニャ、とっとと片付けるぞ」
と言いさっさとゴブリンの始末に向かっていった。
ほどなくして戦闘が終了する。
私たちはゴブリンの死体を丁寧に焼くと、また改めて森の奥を目指していった。
やがて、午後の陽が落ち始めた頃になって泉のほとりに到着する。
マイが先日、西の町に隣接する森の奥で見せたようにまた土地の魔力を読んだが、大きな異常は感じられないということだった。
しかしそこで、マイが、
「でも、ちょっとこの水、硬い気がします。硬いっていうのは、あくまでも感覚なんですけど、なんだか魔力が通りにくいような気がして」
といった。
その言葉に私はなんとなくひっかかりを覚え、なんとなく泉の水を掬って飲んでみる。
するとわずかだが、鉱物っぽい味がした。
(ああ、いわゆる硬水ってやつか?)
と思うが、この世界で水の硬度を測る術などない。
私がどうしたものかと思って考え込んでいると、リズが、
「どうしたの?」
と聞いてきた。
「いや、なんとなくこの水、鉱物っぽい味がするなと思ってな」
それを聞いたリズが少し興味を持ったような感じで水を口にする。
すると、リズが、
「あ、なんか懐かしい味がする」
と言った。
「ん? 懐かしい?」
「うん。これってドワーフの里の水とよく似た味がするんだ」
「……そうか!? ってことはこの森のどこかに鉱物が眠ってるってことか?」
「うーん。それはどうだろう? そこまで大きな鉱脈がある地形には思えないな。どこからどう見ても普通の森だし」
「そうか、ハズレか……」
「ああ、そう落ち込まないでよ。ほら、温泉地とか鉱山の近くでもさ、こういう水のところがたくさんあるんだけど、芋とかがよく育つから温泉でふかしたりして売ってたり、焼酎にして売ったりしてるんだよ? だから、物事ってのはどこがどう転ぶかわかんないっていうか、なんていうか、とにかく元気だしてよ」
というリズのたどたどしい言葉を聞き、ふと閃く。
「それだ!」
思わず大声でそう言うとリズがびっくりしたような顔で、
「え? どれ?」
と言った。
「いや。おそらく水の問題なんだよ。この土地の水にはなにかしらの理由で鉱物の成分が多いんだ。だから畑の質が他の地域とは違う。それなのに他の地域と同じ作物を育てようとしているから失敗するんだ。要するに、この土地にあった作物を育ててないってことになる。となれば、あとは土地にあった作物を探すか、土壌改良するかで問題は解決するぞ!」
「なるほど! そうなればあとはその作物探しだね」
「ああ。しかし、そこは私たちの仕事じゃなくて、村人が自分たちでやるべき仕事だ。あとは任せていいと思うぞ」
「……なるほど、そっか。そうだね。自分たちの村は自分たちでよくするっていうのも大切な考え方だもんね。そうやって自分たちで村を作り上げていくと自然とここが住んでいる人にとって心地いい村になるだろうし」
「そうだな。そうすればきっと誇りを持ってこの村は自分たちの村だと言えるようになるぞ」
「だね!」
そんな話リズと私が盛り上がる。
サーニャは「?」という顔をしていたが、私が、
「お仕事、無事完了だ」
と言うと、
「やったね!」
と言ってハイタッチを交わしてくれた。
その後、もう一度マイに魔力を読んでもらい、この土地全体になんとなく硬さを感じるという実感を掴んでもらう。
そして私たちはその成果を持って村に帰っていった。
私たちの調査結果に驚き、
「よかった。この村にはまだ希望があるんですね……」
と言って感涙するイザベラさんに、
「いろんな作物を試してみるといい。おそらく南の町から来る行商人ならいろんな作物の種を取り寄せてくれるだろうからな。ちなみに、個人的なおススメはトマトだ」
と告げ、再び旅の空に戻る。
村を出て歩きながら、サーニャがどこかしんみりした表情で、尻尾を下げているのを気にかけていると、サーニャがパッと振り向き、ふと笑って、
「やっぱりアレンってすごいね! アタシにもみんなにも『楽しい』って思える何かを見つけてくれるんだもん」
とどこか無理したような表情で、しかし、心から嬉しそうな顔でそう言った。
「あんまり買いかぶるなよ」
とどこか心に引っ掛かりを覚えつつも、そう軽く返すと、その横からマイが嬉しそうな顔で、
「アレンってすごいことしてると思いますよ。きっとあの村にもまた新しい未来がやってくると思いますし」
と言ってきた。
「そうそう。なんだかんだでアレンがいないと話が回らないしね。本当にすごいよ」
とリズまでおだてるようなことを言ってくる。
私は今度こそ本当に照れて、
「やめてくれ」
と苦笑いでそう言った。
晴れやかな日差しに照らされて輝く街道をみんなに続いて歩いていく。
私の前を歩くサーニャの尻尾がどこか嬉しそうに揺れているのを見て、私は密かに、
(「楽しい」が見つかってよかったな)
と声を掛けた。
三人の笑顔が日差しに輝き、弾けて見える。
私は、
(やっぱ青春って眩しいな)
と思って目を細め、先を行く三人の楽しげな姿に目を細めた。




