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おっさんAの異世界冒険譚 ~転生者、詰みそうな町を事業計画で立て直す~  作者: タツダノキイチ
第二部

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おっさんA、妙な依頼を受ける06

「ミノタウロス!?」

思わず上げた声に、サーニャが反応する。

「行くよ!」

と言って本当に駆け出して行こうとするサーニャに、

「護衛を忘れるな!」

と慌てて声を掛けた。

「とにかく骨をマイに近づけさせるな! 後のことは浄化が終わってから考える! あと少し耐えろ!」

そう言って相変わらず硬いが軽い骨を刀でボロボロに崩していく。

しかし、倒したそばからまた組み合わさり立ち上がろうとする骨に苦労し、やがては足も使って相手を崩し始めた。

上がる息に苦戦しつつ、ミノタウロスの骨の動向を見る。

ミノタウロスの骨はまっすぐこちらに向かってきていた。

(マイめがけて一直線だな。おそらく陽動作戦は効かないぞ。となれば正面から受けるしかないか)

そう思って、ほんの一瞬動きを止め、深呼吸をする。

(おっさんの本気見せてやるよ!)

私は心の中でそう叫ぶと、

「ぬおぉっ!」

と叫び全身に魔力を漲らせていった。

「!?」

サーニャが驚いた顔で振りむく。

私はその驚いた顔に、

「もって五分だ! 全力でマイを守る! ミノタウロスは頼んだぞ!」

と指示を出す。

するとサーニャがニコッと笑い、

「いってきます!」

と言って飛び出していった。

全身に漲る魔力を循環させ、一時的に身体能力をあげていく。

すぐにスタミナが切れるので実戦向きではないと思っていたが、この物量を目の前にすると出し惜しみをしている場合じゃないと判断した。

とにかく、全速力で縦横無尽に駆け、骨を蹴散らしていく。

もう、型もなにもなく、ただただ無我夢中という状態でおっさんらしく泥臭く戦った。

刀で斬り、足蹴にして骨を崩していく。

そして、軽い眩暈を感じ、

(そろそろ、限界か……)

と思い始めたころ、サーニャがミノタウロスの頭を大剣でかっ飛ばしたのが見えた。

(よし。ヤマは越えたらしい……)

そう思って、あとひと踏ん張りしようと試みる。

しかし、そんな私の膝が笑い、私はあっけなく尻餅をついてしまった。

(ちっ!)

と舌打ちをしつつゴブリン級の骨が打ち出す軽い拳を転がりながら必死にかわす。

その後もおそらくみっともない戦い方をしたのだろう。

気が付けば私は埃まみれで笑う膝を抱え、なんとか立っているのがやっとという状態になってしまった。

(おいおい。かっこつけたわりにこのザマか……)

と思って自分を嘆いていると、後ろから猛烈な勢いの魔力が迫ってくるのを感じた。

慌てて振り向くと、そこにはさらに青白さを増した眩い光に包まれているマイがいる。

マイが目を開き、何事か叫んでワンドを思いっきり大地に突き刺すと、猛烈な勢いで魔力の光が波紋のように広がっていった。

キラキラと輝く星くずのような小さな光が骨たちに降り注ぎ、骨たちがボロボロと崩れていく。

私はその美しい光景を見て、ただ目を見開き、

「美しい……」

とつぶやいた。

戦場だった場所が光に包まれ静かな墓場に変わる。

無数に散らばる魔獣たちの骨を見て、私はがっくりと膝を折った。

慌てて駆け寄ってきてくれたリズに、

「大丈夫だ。マイを頼む」

と声を掛け、なんとか立ち上がる。

振り返ると、そこには巨大な竜の骨格だけが残っていた。

倒れ込んだマイをリズが介抱している。

私はとりあえず二人のもとに向かうと、

「あはは。お茶を飲むくらいの時間はありそうだな」

と言い、その場に座り込んでお茶の準備を始めた。

そこにサーニャが戻ってくる。

「アタシ、甘いのがいい!」

と遠慮なく言ってくるサーニャに、

「わかった。とりあえず竜の骨をしまっておいてくれ」

と声を掛け、砂糖たっぷりのお茶を淹れる。

マイもどうやらお茶を飲むくらいの体力はあるらしく、「はぁ……、はぁ……」と大きく息を乱しながらも、

「美味しそうですね」

とにこやかにそう言ってきた。

やがて甘いお茶で一服し、改めて周囲を見渡す。

サーニャがしまってくれたおかげで竜の骨は消え、その他の魔獣の骨が白く大地を覆っている。

私はその光景を悲惨というよりもむしろ美しいと感じた。

静けさの中にただ、澄んだ空気だけが漂っている。

燦々と輝く陽の光に照らされ、純粋に白く輝く骨たちを見ていると、「兵どもが夢の跡」という句が浮かんできた。

たぶん本来の意味とはかけ離れているのだろう。

しかし、戦場だった場所に残るなんとも言えない諸行無常な感じを表すにはピッタリの句のように思える。

私は、ゆっくりと甘いお茶を飲み、

(人の力の儚さよ……)

となんともいえない言葉を心の中でそっとつぶやいた。


「みんなお疲れ!」

一人だけ元気そうなサーニャがそう言ってくるが、よく見ればサーニャも埃まみれになっている。

土埃で少し黒くなった顔を軽くこすりつつ、いつも通りニカッと笑うサーニャに、

「ああ。サーニャもお疲れ」

と声を掛け、みんなで軽くハイタッチを交わし合う。

本当はこのままここで寝てしまいたいほど疲れていたが、

「とりあえず、安全圏まで移動しよう」

と言い、私たちは来た道を戻っていくことにした。

予定通りリズがマイを負ぶっていく。

幸いにも帰路で魔獣に会うことはなく、私たちは西の空が浅黄色から紺碧に変わり始めるころになってようやく人心地つけそうな場所にたどりついた。

「見張りはしとくからさ。ちょっと寝なよ」

と言ってくれるサーニャに感謝して私とマイが寝る。

私はなんとか一、二時間で目を覚ますことができたが、マイはぐっすりと眠っていた。

「ご飯、作れそう?」

と遠慮気味に聞いてくるサーニャに、

「ああ。簡単なやつならな。肉を焼いてご飯にのっけるだけでいいか?」

と言うとサーニャは嬉しそうに、

「うん!」

と言ってきた。

手早く夕飯を作り、さっさと胃に詰め込む。

ご飯は少し残しておき、マイが起きてきた時のためにおむすびを作っておいた。

静かに夜が更け、やがて朝を迎える。

明け方の弱い日差しに照らされ、マイが無事目を覚ます。

どうやら体力はずいぶん回復したらしく、おにぎりをしっかり食べ、

「もう大丈夫ですよ」

といつもの優しい笑顔でそう言ってくれた。

意気揚々と帰路に就く。

私たちは確かになにかを成し遂げた充実感以上に、これでようやく本当の仲間になれたんだという充足感を持って、西の町へと戻っていった。

魔獣の群れをなんとかかいくぐり西の町の大きな門をくぐる。

宿に入ってさっそく風呂を使うと、泥のような眠気が襲ってきた。

危うく浴槽の中で寝落ちしそうになるのをなんとかこらえ、宿の食堂に向かう。

「ねぇねぇ、打ち上げしようよ!」

と言ってくるサーニャに、

「すまん。明日盛大にやろう」

と言ってその日は勘弁してもらうほど、私の体は悲鳴を上げていた。

夕食を終え、疲労回復にいい薬を飲んで今度こそ泥のように眠る。

そして、翌日。

ゆっくり市場で買い物をすませた後、私たちは冒険者ギルドに向かい、村の池の主の正体はサーペントだったことだけを報告して無事依頼を達成した。

「ねぇ、アレン。今日は小金貨何枚まで?」

「そうだなぁ。今日は思い切って一人小金貨二枚の合計小金貨八枚までにしよう。盛大にいくぞ!」

「やった!」

喜ぶサーニャを先頭に適当な居酒屋に入っていく。

そこで私たちはまた例によってどんちゃん騒ぎを引き起こし、ふらふらになりながらも肩を組んで宿へと戻っていった。

楽しい打ち上げの翌日。

恒例の二日酔いで目を覚ます。

(いかん。完全に飲み過ぎた……)

と反省するが、どうにも楽しかった記憶しか蘇ってこない。

そんな自分に苦笑いしつつ、薬を飲んでから朝食の席に向かった。

食後のお茶の時間。

「ねぇ。次はどんな冒険しよっか?」

と嬉しそうに聞いてくるサーニャに、

「次は少しゆっくりしたのにしよう。もうあんな大冒険はこりごりだ」

と苦笑いで伝える。

しかし、サーニャは残念がるどころかどこか嬉しそうに、

「そうだね。次はまったり旅に出ようよ!」

と言ってきた。

「じゃあ、また南の町なんてどう? 例のカヤがどうなったのか自分の目で確かめてみたいしさ」

とリズが提案すると、サーニャが嬉しそうに、

「お魚!」

と答える。

それを聞いたマイがにっこりと笑い、

「私もまた海で遊びたいです」

と続いた。

「じゃあ、決まりだな」

そう言って席を立つ。

そして私たちはいつも通りの旅支度を整えると、宿を出て西の町の大きな門をくぐった。

晴れ渡る空の下、軽く振り返って西の町の高くそびえる城壁を見る。

(この町でもいろいろあったな……)

と思っていると、不意にあの若い冒険者三人組の笑顔が浮かんできた。

(商売のこと、竜の死体のこと、いろいろあったが、結局若者の未来が少し広がったってのが一番嬉しかったな)

と思っている自分に軽く苦笑いをする。

そんな私に、

「アレン。早くいくよ!」

とサーニャが声を掛けてきた。

「ああ、すまん。今行く!」

と大きな声で返事をし、みんなのもとに向かっていく。

私は目の前に浮かぶたおやかな羊雲を見つめ、なんとなく、

「さて。次は魚か……」

とつぶやき、目を細めた。

みんなの笑顔に迎えられ、旅の一歩を踏み出す。

私たちの行く手にはただ青い空と白い雲だけが広がり、そこに向かっていく真っ直ぐな道が伸びていた。


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