おっさんA、元騎士の行商人と出会う02
「まずい! 賊だぞ!」
「誰か戦ってるっぽいです!」
「よっしゃ! 揉め事ならまかせとけ!」
「おい待て……」
そう声を掛けるが一歩遅くサーニャが笑いながら飛び出していく。
私も仕方なくマイに、
「後方支援を頼む。適当に矢で牽制してくれ。くれぐれも殺すなよ!」
と声を掛け、サーニャの後を追っていった。
前方に盾を構えた少女らしき影が見える。
少女の後には小さな荷馬車。
おそらく行商人なのだろう。
そんな少女の上をサーニャが飛び越えていく。
「殺すなよ!」
私がそう叫んだ瞬間、小さな魔法の矢が少女の前面に降り注いだ。
(いける)
そう確信して少女の横に立つと、
「すまん。勝手に護衛するぞ!」
と告げた。
「ありがとう!」
意外にも明るい声が返ってくる。
(よかったお節介じゃなかったか。ていうか、すでに何人か転がっている? ってことはけっこう粘ってたってことか?)
そう思って適当に賊の剣を弾いていると、突如大槌を持った大男が現れた。
(こいつがボスか? この得物はちょっとやばい! サーニャ、間に合ってくれ……)
そう思いつつ、その男の気を引こうとして少女の前に出ようとする。
しかし、意外なことに少女は、
「よし。かかった!」
と叫び、その大男に突進していった。
男の大槌が勢いよく振り下ろされる。
(まずい!)
と思った瞬間、少女からけっこうな量の魔力を感じた。
「どっせい!」
少女が叫んで振り下ろされた大槌を盾で受け止める。
そして、展開した防御魔法で大男の体をふっ飛ばしてしまった。
そこからは制圧戦になる。
と言っても、私とマイはサーニャが昏倒させた賊を縛り上げるという作業をしただけで、すぐにその場は鎮静化した。
「すまん。お節介だったな」
そんな声を掛けつつ少女の方に歩み寄る。
少女だと思っていたその人物はどうやらドワーフのようだった。
「いや。助かったよ。けっこう大人数に囲まれてたから面倒だと思っていたんだよね。おかげで手間が省けたよ」
「それにしてもすごい防御魔法だったな」
「まぁね。それに関しちゃ自信があるからさ」
「ほう。行商人にしてはすごい技を持ってるんだな。ドワーフの特性か?」
「そんなわけないじゃん。きっちり訓練して身につけたよ。これでも一応元騎士なんだからね」
「え? じゃあますますお節介だったな」
「ううん。防御ばっかりで後手に回ってたのは事実だし、事態が早く片付いたのは君たちの助力のおかげさ」
「そう言ってくれるとありがたい」
「あ、でも護衛代は出さないよ?」
「当然だ」
「ははは。話が早くて助かるよ」
そんな会話をしているところへサーニャがやってくる。
「え? 護衛代なしなの?」
「ああ。一人でもなんとかできる人の所にお節介で介入しただけっぽいからな」
「ちぇっ。働いて損しちゃったよ」
「こら。困っている人を見つけたら助けるってのは人の基本だ。損得で考えちゃいかんぞ?」
私がそう言ったのを聞きドワーフの少女が、
「それはいい心掛けだね! 私リズ。そっちは?」
と自己紹介しつつ握手を求めてきた。
「ああ。俺はアレン。で、こっちの猫耳がサーニャ。あっちで賊を縛ってるのがマイな」
こちらも自己紹介しつつ握手を交わす。
リズと名乗ったドワーフは、ニッコリ笑い、
「アレンの騎士道精神に感謝するよ。で、アレンたちはどこに向かってるんだい?」
と聞いてきた。
「目的のない旅なんだ。とりあえず南の町を目指してる。で、そのあとは海でも眺めに行こうかって話してたところさ」
「そっか。じゃあとりあえず南の町まで一緒に行かないかい? ちょうど商品を卸すところだったんだ」
「いいぞ。どうせこっちものんびり旅をしている所だったかなら」
「ちなみに護衛代は出せないけど構わないかい?」
「ははは。旅は道連れ、世は情けってな。袖すり合うも他生の縁ってやつさ」
「あはは! アレンは太っ腹だね」
「どうも、商売っけがない方らしくてな」
「じゃあ、その賊の賞金はそっちで取ってよ。せめてものお礼さ」
「いいのか?」
「うん。護衛代の代わりだと思ってよ。私は荷物が無事だったからそれで十分さ」
「ありがとな」
そんな話をしている横からサーニャが、
「ねぇ、話はまとまった? 私お腹空いちゃったんだけどご飯にしない?」
と割り込んでくる。
私は苦笑いしつつ、
「ああ。わかった。そうだ。リズも一緒にどうだ?」
と言い、リズを昼食に誘った。
「さて。今日はなんにする?」
「お肉たっぷりチャーハン! 大盛りで!」
「あいよ。じゃあ肉をくれ」
「りょうかーい」
いつもの感じでサーニャが魔法鞄から肉を取り出す。
私は慣れていたので、ついつい普通に頼んでしまったが、それを見たリズが、
「え!? 魔法鞄!?」
と驚いたような声を上げた。
「え? うん。そうだよ?」
「ちょ、待って。魔法鞄ってそんなお高いものなんで持ってるの? え? ていうか行商人じゃないよね?」
「うん。昔、コネで安く作ってもらったんだ。すごいっしょ?」
「すごいなんてもんじゃないよ。それ、行商人の夢なんだからね」
「あはは。そうだよな。すまんが、一応このことは黙っておいてくれ。まぁ、サーニャのことだから心配ないと思うが、派手に宣伝すると良からぬやつに付け込まれかねんからな」
「もちろんさ。ていうか、それって容量はどのくらいなの?」
「へ? 無限だけど」
「む、無限!?」
「うん。特別製なんだってさ」
「特別製って、それ、国家が持つやつじゃん!」
「ぽいね」
サーニャがあっけらかんとそう言ったところでリズが考え込むような仕草を見せる。
「……ねぇ。アレン。ものは相談なんだけどさ」
「なんだ?」
「その魔法鞄使わせてもらえない?」
「え? まぁ、サーニャがいいならいいが……」
「アタシはいいよ?」
「やった! で、取り分は利益の三割でどう? けっこういい条件だと思うんだけど」
「……というと?」
「つまり、これからしばらくの間私も一緒に旅をさせてもらおうって魂胆。で、今までにないくらいがっつり稼いで、将来の軍資金を溜めたいって言えばわかるかな?」
「なるほど。リズはこれまでより大商いができて儲かる。私たちも荷物をもって適当に護衛しているだけで丸儲けになるって寸法か?」
「さっすが、アレン。話が早いね。で、どう?」
「うーん。とりあえずみんなの意見を聞こう。マイはどう思う?」
「私はかまいませんよ。旅が楽しくなりそうですし」
「私も賛成! これで、酒代に困らなくなりそうだからね!」
「あのなぁ。少しは自制心ってものを覚えろよ。それじゃあせっかくの金も右から左になっちまうぞ?」
「えー。別にいいじゃん」
「お前のためを思っていってるんだ」
「はーい」
「あはは! じゃあいいってことかな?」
「ああ。ただ、俺たちは冒険者だ。たまには冒険に出掛けるがそれは構わんのか?」
「うん。攻撃さえ担ってもらえればなんとでもなるよ。防御力にだけは自信があるからね」
「そうか。じゃあ、決まりだな」
「やった! よろしくね!」
「おう。こちらこそ」
そう言って私とリズが握手を交わす。
そして、その横からまたサーニャが、
「話が決まったなら早くご飯にしようよ。もう、お腹ぺこぺこー」
と言ってきた。
微笑みながら肉たっぷりチャーハンを作る。
やがて「いただきます」の声を揃えてみんな一斉に食べると、
「美味いっ!」
「相変わらずですね。アレンさん」
「なにこれ。すっごく美味しい。これお店じゃん」
という感想が返ってきた。
その後、食後のお茶を飲み、リズの荷物と荷馬車を収納して出発する。
「いやぁ。ほんと楽ちんだよ」
「そりゃよかった。この先でもなにか買い付けしていくか?」
「そうだね。とりあえずこの先の村には絹織物があるから、それを仕入れたいかな?」
「ほう。布なんかも扱うんだな」
「うん。なんでも扱わないとやっていけないからね」
「それは商魂たくましいな。実家は商家だったとかか?」
「いや。さっきも言ったけど、騎士爵家だよ」
「なっ。お貴族様だったのか……」
「いやいや。貴族っていうほどのもんじゃないよ。要するに安月給の宮仕えって感じさ」
「なるほど。それで騎士に?」
「うん。そうなるのが自然かな? って思ってね。でも、さっき見てもらった通り、防御には自信があるけど、攻撃はそこまでって感じだから最初に配属されたのが兵站部門だったんだよね。そこで、物の売り買いの面白さに目覚めたってわけ」
「なるほど。それで元騎士の行商人ってわけか」
「そう。変でしょ?」
「まぁ、変わってはいるな。しかし、よかったじゃないか。本当に自分がやりたいことを見つけられて」
「……そんなこと言ってもらうの初めてだよ」
「そうか? よくわからんが、人生自分の好きな道を見つけてそれを真っすぐ進めるのが一番幸せだと思うんだがな」
「アレンって大人だね?」
「ふっ。これでも三十歳だからな。ヒトの世界では立派なおっさんさ」
「あはは。そうだねヒトの感覚ならおっさんかも。ドワーフならまだペーペーだけど」
「そうか。見る人が見れば私はまだペーペーか」
「うん。人生これからって感じだね」
「ははは! それならあまり老け込まず頑張らんとな」
「うん。そうしなよ」
そんな話をしながら、私たちは田舎の街道をのんびりした調子で進んでいった。




