おっさんA、妙な依頼を受ける05
翌朝。
空が白むのを待ってさっそく行動に移る。
今回はとにかくいかに早く竜の死体のもとに辿り着くかということを優先し、まっすぐその場所を目指していった。
周囲に漂うただならぬ空気の中やや足早に進んでいく。
するとまるで当然かのように前方からバジリスクがつっこんできた。
「ズズズッ!」と気色悪い音を立てつつこちらに向かってくるバジリスクにいきなりサーニャが突っ込んでいく。
「なっ!?」
思わず声を上げたが、次の瞬間、サーニャが信じられないほど高く飛び、バジリスクの頭を一撃で割ってみせた。
驚く私たちにサーニャが、
「次っ!」
と厳しい顔を向けてくる。
私はその表情に戸惑いつつ、
(なるほど。これがサーニャの本気ってやつか。しかしこれはどこか危なっかしい。本当はサーニャにこんな顔させちゃいけないはずなんだろうな……)
と思ったが、とにかく今は目の前の事態を優先し、なにも言わないことにした。
サーニャが何事もなかったかのようにバジリスクを魔法鞄にしまい、再び歩き始める。
私たちも気を引き締めてサーニャの後を追った。
二時間ほど経って、今度はハイエナのような魔獣が辺りをうろついているのに気が付いた。
「ちっ! 初顔だが、狼系みたいだ。おそらく囲まれると厄介だ。全力で突破しよう。リズはマイを守って包囲網を強引にでも突破してくれ。私とサーニャが背中を守る」
「「「了解!」」」
サーニャが今度は落ち着いて指示を聞いてくれたのに一安心しつつ、足早に進むリズとマイの背中を守れる位置につく。
それを見たハイエナっぽい魔獣がどんどん私たちとの距離を縮めてきた。
いよいよ私たちを取り囲み、四方八方から飛びついてくる魔獣をリズが弾き、私とサーニャが斬りつけていく。
私の刀は時々かする程度で魔獣の数を劇的に減らしはしなかったが、サーニャは鋭い視線で冷静に大剣を振り、一撃で確実に魔獣を仕留めていた。
(この座った目と妙に冷静な対応。おそらく潜り抜けてきた修羅場の数が違うんだろうな……)
私はまたしても少し余計なことを思い、ひとり胸の中を重たくしていった。
やがて、相手の出方が変わる。
どうやら持久戦に持ち込むことにしたようだ。
私とサーニャが仕掛けるとさっと退いて剣を交わすようになり、こちらがなかなか数を減らせなくなってきた。
「ちっ!」
私の横で舌打ちをしたサーニャが一段腰を低くする。
(いかん!)
私は直感的にそう思い、
「サーニャ!」
と強く名前を呼んだ。
その声にサーニャが一瞬びくっとしたような反応を見せる。
私はなるべく優しく微笑み、
「相手は持久戦をお望みだ。ゆっくりお付き合いするぞ」
とあえて冗談っぽくそう言った。
「うん!」
なぜか嬉しそうにサーニャが返事をしてくる。
私はほっとして前を行くリズに、
「とにかく、弾いてくれ。あとはなんとかする! 最後はマイ、頼んだぞ!」
とざっくりした指示を出し、マイを中心とした密集隊形に近い陣形を作った。
じりじりとした戦闘が続く。
先にしびれを切らしたのは魔獣の方だった。
「ワオーンッ!」
群れを統率しているらしき個体が遠吠えを上げ、群れが一斉に飛びかかってくる。
私はこれを待っていたかとばかりに、
「マイ!」
と叫んだ。
「はい!」
そう言ってマイの魔力が解放される。
無数に作られた魔法の矢が魔獣に次々と突き刺さり、魔獣たちがいっせいに沈黙した。
「離脱だ!」
そう声を掛け、急いでその場を離れる。
そしてしばらく急ぎ足に進んでいると、目の前に山のような竜の死体が見えてきた。
(いよいよだな……)
そう思いつつ、
「マイ、いけるか?」
と軽く確認する。
「はい!」
と力強い返事してきたマイにしっかりうなずくと、私たちは足早に竜の死体へと近付いていった。
異様な魔力がビンビン伝わってくる。
周囲には草もなく、ただ荒れた地面が広がっているのみで、微かに変な匂いもしているだろうか。
とにかく、これまでとは打って変わった周囲の環境に驚きつつも、私はなにやらきょろきょろしているマイを守れる位置に着いた。
「あ。あそこです! あそこで浄化を始めます」
と言いマイが竜の胸元あたりを目指して駆けていく。
私たちはマイの後を進み、マイがなにやら道具を取り出すのを見守った。
マイが取り出したのは小さなワンドとこぶし大の水晶のようなもの。
マイは水晶のようなものを慎重に地面に置くと、
「いきます」
と静かに言って、ワンドを胸の前で構えた。
一瞬で膨大な魔力が広がっていく。
(これは……!?)
と一瞬身構えるほど強烈な魔力の波動だった。
それが今度は逆に猛烈な勢いで引き返してくる。
その引き返してきた魔力の勢いにやや圧倒され、マイの方に目をやると、マイの体を青白い光が包み水晶玉のようなものを中心に、魔法陣らしきものが浮かび上がった。
(これこそファンタジーだな……)
と妙な前世の記憶を思い出している自分の頭を軽く振って気を引き締める。
すると、遠くからものすごい勢いで魔獣の集団らしきものが近づいてくるのが見えた。
「来たね」
どこか不敵な表情でニヤリとするサーニャに、
「突っ込み過ぎるな。あくまでもマイの護衛だということを忘れるなよ」
と冷静な意見を伝える。
サーニャはいつもと違った感じで、
「了解」
と言うと静かに大剣を抜いた。
「リズ。わかってるな?」
「うん。絶対に守る!」
「安心しろ。敵は引き付けるからな」
「頼んだよ」
と軽く言葉を交わし、近づいてくる魔獣の群れを見る。
すると私はとんでもない異変に気が付いた。
思わず、
「骨っ!?」
と叫ぶ。
こちらに向かって迫ってきているのはゴブリンくらいの大きさやオークくらいの大きさの骸骨たちだった。
「サーニャ。知ってるか?」
「知らない! でも、ワクワクするね!」
「突っ込み過ぎるな。とにかく崩しまくれ。おそらく崩せば足止めできそうだからな」
「了解!」
そう言ってサーニャが私の前に出る。
そして、サーニャは目の前に迫ってくるオークらしき大きさの骸骨に強烈な一撃を加えた。
バキッと音がして骸骨がバラバラに散らばる。
それを見て私は、
(なるほど。ただの骨の集まりか)
と現状を把握すると、サーニャの脇を抜けてきたゴブリンらしき骨の集団に刀を叩き込んでいった。
骨だけあって硬い。
(なるほど。こりゃ関節をねらわにゃいかんらしいな)
と思いつつ、刀を横から出す。
すると私の刀はちょうどゴブリンの頸椎辺りを斬り頭蓋骨がポンと飛んでいった。
なんとなく要領を得て次々に襲い掛かってくる骨たちを相手にする。
骨は最初ゴブリンやオークだったが、徐々にいろんな形の魔獣の骨が集まってきた。
(狼にトカゲ、猿もいるのか!? どれも骨にしちゃすばしっこい。こりゃキリがないぞ)
と思いつつマイを見る。
マイは相変わらず青白い光に包まれ、ただ静かに祈っているように見えた。
リズがオークらしき骨を弾き、
「軽い! これならいくらでもいけるよ!」
と感想を伝えてくる。
私も同様に、通常の魔獣より軽いという印象を持っていたが、迫りくる骨たちの異常な物量を見て、密かに、
(おいおい。しかし、こりゃ骨が折れるぞ……)
と心の中で笑えない冗談を言った。
前線でサーニャが舞うように剣を振り、次々と骨をバラバラにしている。
私も負けじと刀を振り続けたが、徐々に息が上がり始めた。
(ちっ。まだ奥の手には早いって)
と思いつつ、刀を振る。
そしてどんどん増える敵を見て気が付いた。
(こいつら、散らばった骨どうしがくっついて復活してやがる! だから、さっきから変な形の骨が混じってたのか。おいおい。それじゃ、ほんとにキリがないぞ)
そう思っているところに、後ろからリズが、
「こいつら、どんどん復活してくる! キリがないよ!」
と同じようなことを言ってくる。
私が、
(おいおい。これ本当にどうすればいいんだ?)
と思っていると、骨の大群の向こうからひと際大きな骨がこちらに向かってきているのに気が付いた。




