おっさんA、妙な依頼を受ける04
半日ほど進み、昼の休憩を取る。
地図を見ながら、この先の地形を読んでいると、例のごとく水の魔力を読んでいたマイが、
「この先に、なにか大きな平原のようなところがありますか?」
と聞いてきた。
「ああ。山に囲まれた盆地らしき地形があるな。しかし、地図にも詳細が書かれてない。ということは外から眺めただけで、中に踏み込んだことはほとんどない地域なんだと思うぞ」
「そうですか。おそらくですけど、そこがこの問題の元凶になっていると思います」
「一応聞くが、その根拠は?」
「はい。魔力の乱れが上流になればなるほど大きくなっているのと、あと、広がりを見せている点からこの先に大きな魔力の乱れを発生させている広い地点があると予想しました。そして、おそらくその中に何かがあるからこそ、そこから流れ出してくる水に大きな異変があったんだと思います」
「なるほど。理屈は通っているな。よし、じゃあ、さっそくそこを見渡せる場所まで行って様子を見てみよう」
「はい!」
そう話してさっそく行動に移る。
問題の盆地を見下ろせる山の尾根筋まではなにもなければ一日と少しあれば着くと判断した。
しかし、そんな私たちの目の前に明らかに大きな痕跡が姿を現す。
「これって、ミノタウロス?」
「いや。よく似ているが、おそらくサイクロプスの方だろう。食えなくて残念だったな」
サーニャにそんな冗談を言いつつも、
(避けられれば避けたいが、さてどうしたものか)
と思いつつ、尾根へと続く森を慎重に歩いていった。
やがて、サイクロプスの痕跡が明らかに濃くなってくる。
そこで初めて私は、
(これはいった方がいいな。下手に避けて後ろから襲われるくらいだったら、自分たちから仕掛けた方がいいだろう。数は二、いや、三だな)
と判断を下し、
「こちらから仕掛けて倒してしまおう。その方が結果的に楽になりそうだ」
とみんなに伝えた。
「「「了解!」」」
みんなの引き締まった顔に安心しながら痕跡を追っていく。
すると森の中でたむろしている三匹のサイクロプスを発見した。
よくみれば何かを貪っている。
どうやら、オークのようだ。
(おいおい。いくらサイクロプスが強いからってオークを狩るなんて聞いたことがないぞ。もしかして、よほど食事に困っているのか? いや、魔力の影響とかもあって凶暴化しているのかもしれん。ここは慎重にいこう)
瞬時にそう判断して、
「慎重にいこう。マイは一匹足止めしてくれ。リズは突撃に備えろ。私は足を狙いに行くから、トドメはサーニャ、頼んだぞ」
と落ち着いて作戦を伝えた。
「「「了解」」」
みんなも落ち着いて返事をしてくる。
私はそれにしっかりうなずくと、
「行こう」
と言って静かにサイクロプスに向かっていった。
そろそろこちらの間合いに入ろうかというところで、サイクロプスがこちらの存在に気付く。
私は構わず突っ込み、サイクロプスの足を狙った。
わずかに詰まったような感覚を得て刀を振り抜く。
どうやら傷は浅くしかついていないようだったが、一匹の注意をこちらに引き付けておくには十分な効果があったようだ。
後ろからマイの魔法が飛んでくる。
私はその隙を使ってさらに別の個体の方に行くと、そこでもまた足を狙った。
今度は「ガチッ」と音がしてなにやら骨に食い込んだような手応えを得る。
(ちっ。ミスった)
と思いつつもそのまま刀を振り切り、その場から素早く身を引いた。
怒り狂ったサイクロプスが強烈な打撃を突き込んでくる。
その目に浮かんだ怒りの色は尋常ではなく、私はそこでもサイクロプスの凶暴性が異常だということに気が付いた。
「慎重に攻めろ! ケガするぞ!」
誰にともなくそう叫ぶ声に、
「「「了解!」」」
という声が返ってくる。
私はまた慎重にサイクロプスとの間合いを詰めると、せこく足を狙って確実に削りにいった。
やがて、ちまちまとした攻撃にしびれを切らしたサイクロプスが、
「グオォォォッ!」
と雄叫びを上げ、乱雑に拳を振りかざしてくる。
後ろからマイの魔法が飛んできて、リズの「どっせい!」といういつもの声が聞こえてきたから、あちらにも一匹取りついたのだろうと思っていると、そこに、
「もらった!」
というサーニャの声が響いた。
一撃で首を刎ねられ、サイクロプスが倒れる。
それを見た瞬間私はマイとリズの方に向かった。
リズがなんとか粘って止めているサイクロプスの背後から渾身の一刀を振り下ろす。
刀はサイクロプスの太ももの裏にざっくりとした傷ができ、サイクロプスが痛そうな悲鳴を上げた。
「リズ、押せ!」
そう叫んで、サイクロプスから距離を取る。
するとまたリズの、「どっせい!」という掛け声が響き、サイクロプスに強烈な当て身を食らわせた。
サイクロプスが後ろに倒れる。
私はその巨体に素早く乗ると、首に刀を突き刺した。
さっと退き、サーニャの方を見る。
そこには倒れたサイクロプスの上で、余裕の表情を浮かべているサーニャの姿があった。
リズ、マイと軽くハイタッチを交わしているところにサーニャもやってきて輪に加わる。
私たちは大急ぎでサイクロプスを焼くと残った魔石だけを取ってさっさと元の道に戻っていった。
そこから一日半かけて尾根に到着する。
そして私たちはようやくこの騒動の元凶がなんであるかを知った。
「竜?」
「ああ」
「動かないね」
「おそらく死んでるんだと思います。漂ってくる魔力が妙に臭いますから」
「ということは?」
「死んだ竜は瘴気、つまり悪い魔力を放つと言われています。まぁ、実際は詳細不明なんですけど……。とにかく、あのまま放置しておけば事態は深刻になるということですね」
「対処法は知っているのか?」
「はい。しかし……」
「なにか問題があるのか?」
「はい。竜の死体を浄化するにはどうしても時間がかかります。おそらく一時間くらいです。その間私は無防備になりますから、とにかく守っていただかなくてはいけなくて……」
「なるほど。状況は理解した。かなり厳しい防衛戦になりそうだな」
「はい。みなさんには、その、なんというか……」
マイがそう言って言葉に詰まったところにサーニャが、
「大丈夫だよ。なにが来ても斬ってあげる!」
と声を掛け、マイも、
「そうだよ。守るのなら任せて!」
と言い笑顔を見せる。
そんな二人にマイが泣きそうな顔を向けるとリズが、
「もう。最近、マイは泣き虫だなぁ」
と言ってその頭をポンポンと軽く叩いた。
「あはは! マイ、子供みたい!」
とサーニャもマイに茶々を入れる。
マイは泣き笑いの表情で、二人に、
「もう……」
と言って、拗ねたふりをしつつその涙をごしごしと拭った。
「さて。行こうか」
優しく声を掛け、みんなに行動を促す。
「はーい」
と返事をするサーニャの顔にはいつもの楽観的な笑顔があり、マイとリズも頼もしい感じの笑顔を浮かべていた。
慎重に尾根を下り、山の麓にたどり着いたところで野営にする。
食後のお茶を飲みながら、私は、軽く自分の頭の中を整理するように、
「目的地までの距離はおよそ数時間ってところだろう。しかし、ちらほら見えていたが、けっこうな数の魔獣がいそうだ。そこを抜けていくとなると、半日は覚悟しておいた方がいい。そこからマイを守りつつ戦って、また半日かけて安全圏に戻ってこなければならないとなると、夜も移動する可能性が出てくるな。マイ、その竜の浄化ってのをするとどのくらい体力を削られるんだ?」
と話し、マイに確認を求めた。
「おそらくしばらくは動けなくなると思います」
「なるほど。じゃあ、俺が負ぶって移動するか」
「それなら、私が負ぶるよ。たぶんアレンより体力が残った状態で戦闘を終えられると思うし、それにその方が戦闘力が落ちないでしょ?」
「そうだな。じゃあ、そこはリズに任せよう。サーニャは大丈夫そうか?」
「うん。っていうか、一番心配なのはアレンの体力だよ?」
「……ははは。それは否定できんな。しかし、いざとなったらなんとかするのがおっさん冒険者の腕の見せ所だ。なんとかするからまぁ、見ててくれ」
「うん。了解!」
そんな話でおおよその作戦が決まる。
私は内心、
(さて。これはしんどいことになるぞ……)
と思いつつも、
(せっかく異世界に転生したんだから、ここらでひとつ世界の危機でも救っちゃいますか。それが異世界物の定番ってやつだからな)
と考え、密かに笑みをこぼした。




