おっさんA、妙な依頼を受ける01
伯爵との交渉を無事終えた翌日。
二日酔いを理由にゆっくり休ませてもらうことにする。
ゴバッツさんとニール、サーニャとリズは元気なものだったが、私とマイは少し痛む頭を抱え、苦笑いで出かけていく四人を見送った。
その日の夕方、十分に観光できたと喜んでいるゴバッツさんとニールを見て、少し安心する。
そして、翌日。
私はゴバッツさんたちを連れ、薬師ギルドに向かった。
伯爵からの紹介状を見せ、話がすんなり進んでいく。
どうやら昨日のうちに伯爵から簡単な話を聞かされていたらしい。
私は値段を見つつ、仕入れておけば間違いなく捌けそうな薬をゴバッツさんに教え、仕入れる薬を決めてもらった。
翌日。
「お世話になりました」
「ああ。帰路に付き合えなくて申し訳ないな」
「いえ。西の町は冒険者も多いですから、護衛の依頼には困りそうにありませんので」
「そうだな。いい出会いがあることを祈っているよ」
「はい。ありがとうございます」
そう言ってゴバッツさん、ニールと握手を交わす。
私たちはさっそくその足で冒険者ギルドに行くと、適当な依頼を探し始めた。
冒険をする理由は、ただの息抜きだ。
いや、サーニャのガス抜きと言っていいかもしれない。
まさしくルンルン気分で掲示板に貼られた依頼票を見るサーニャを微笑ましい気持ちで眺める。
するとしばらくして、サーニャが、
「アレン。これ受けたい!」
と言い、一枚の依頼票を持ってきた。
「ん? どれどれ……」
軽く微笑みながら、その依頼票を見ると、「池の主討伐」と書かれていた。
(主? なんじゃそれ?)
と思いながら詳細欄を読む。
そこには「川の水が濁っているから、『たぶん』水源の池になんらかの魔獣が住み着いたと思われる。討伐して欲しい」と書かれていた。
「おいおい。ずいぶんざっくりとした依頼だな。で、報酬が金貨二枚!? いや、これ誰も受けんぞ。ていうか現にこれ半年くらい前の依頼じゃないか。……まったく、この掲示板のどこから見つけてきたんだ?」
驚きと呆れを足して二で割ったような顔でそう言う私に向かってサーニャが、
「アレン。こういう依頼好きでしょ? それに『主』ってなんかワクワクするじゃん?」
と子供のようにキラキラと輝く目を向けてくる。
(こいつ、本当に興味本位だけでこの依頼を選んだな……)
と思いつつも、
「まぁ、金には余裕があるし、こういう謎依頼ってのもたまには悪くないだろうが、リズとマイはどう思う?」
と苦笑いで聞くとリズは、
「うーん……。まぁ、失敗しても依頼料が発生しないだけっぽいしい、別にどうでもいいけど……」
と渋る様子を見せたが、マイは、
「それ、なんていうか、水の濁りっていうのがちょっと気になるというかなんというか……。直感なんで、説明するのは難しいんですけど、できれば受けませんか?」
と珍しく前向きなことを言ってきた。
(ほう。マイが積極的なのは珍しいな。まぁ、確かに水利の問題は放っておくと後々厄介なことになりかねんが……)
と思いつつ、サーニャに目を戻し、
「マイがそう言うなら行くだけ行ってみよう。もしダメでもそれこそピクニック気分で野営を楽しんでくればいいだけだからな。あと、主がなんなのかわからん以上、危険が大きすぎると判断したら即撤退だぞ?」
とまるで子供に「いい子にするならおもちゃを買ってやるぞ」みたいなノリで伝える。
するとサーニャは、
「やった! 『主』狩りだ!」
と無邪気に喜び、さっそくその依頼票を持って受付の方に向かっていった。
念のため受付で状況を詳しく聞く。
すると、
「ああ。これですか。一応、一回新人冒険者が行ったんですけど、その池がけっこう森の奥の方にあって途中で引き返してきちゃったらしいんですよ。村もちょっと水が濁って野菜の生育に少し影響が出ているだけで、それほど深刻な被害が出てないから、報酬を引き上げないし、おそらく誰も受けないだろうって話になってたんです。だから受けてくださるなら事前に村に話を通してご自身で依頼料の交渉をしてからにしてくださいね。ギルドの手数料はそのままにしておきますから」
と意外とあっさり裏事情を話してくれた。
私は正直、
(じゃあ、受ける意味がなくないか? いや、まぁ、野菜の不作ってのは気になるが……)
と軽く敬遠したい印象を受ける。
そんな感じで私がどうするか迷っていると、横からサーニャが、本当に面白半分という顔で、
「むむっ。それは謎の匂いがするね。ますます面白そうになってきたじゃん!」
とニコニコしながらこちらに期待の眼差しを向けてきた。
(なんなんだ、その妙な好奇心は。注意しないとそのうち本当にけがをするぞ?)
と思ったが、私は、
「じゃあ、とりあえず村に行って話だけは聞いてみるよ。受けるか受けないかはそのうえで判断することにするから、そこのところは了解しておいてくれ」
と苦笑いで受付嬢に伝え、ギルドの酒場で軽く地図を確認する。
地図によるとその村は歩いても半日程度の所にあるらしいことが分かったので、私たちはのんびり向かってみることにした。
歩くこと半日、のどかでどこにでもあるような村に到着する。
畑が広がり、ところどころ民家が点在するあぜ道を歩いていると、農作業をしている人がいたので、そこで村長の家を尋ねた。
ごく普通の家にしか見えない村長屋敷を訪ねる。
村長は在宅で詳しい話を聞かせてくれた。
「いやぁ、受けてくださって助かります。状況は依頼票に書いた通りですが、葉物野菜の色づきが少し落ちたり、株が大きくならないのがあったりする被害が出てはいるんですよ。でも、大きな影響があるかどうかと言われると微妙で、困ったものだと思っていたところです」
「ちなみに、飲み水は? 飲んで腹を下した人がいるとかそういうのはないのか?」
「はい。それは大丈夫です。村の飲み水は井戸を使っていますから」
そう言われて、野菜が不作気味という言葉に多少の引っ掛かりを覚えつつも、
(なるほど、地下水脈までは影響が広がってないってことか。こりゃ本当にちょっとした依頼だな。確かに緊急性は低そうだ)
と判断する。
「で、その池ってのはどこにあるんだ?」
「はい。川沿いに二日ほど歩くと、川の分岐点があります。そこで綺麗な水と濁った水が合流していますから、わかりやすいと思いますが、その分岐点からさらに二日ほど森の中に入っていったところです」
「なるほど。都合四日で金貨二枚じゃわりに合わない。せめて四枚にしてくれないか?」
「そう言われましても、村にも予算というものがございまして……」
「このまま葉物野菜の状況が改善されなかったり、よけいに悪くなることを考えれば、それほど高いことにはならんと思うがどうだ?」
「……それはそうですが」
「じゃあ、受けずに帰ろう」
「ああ、お待ちください! あの、えっと、じゃあ、三枚。金貨三枚でどうでしょう? 本当にそれがギリギリなんです」
「仕方ない。本当に危険があった場合は引き返してきて報告する。その時は改めて冒険者ギルドに依頼の格上げを頼むことだな。おそらく金貨五枚や六枚ですめば安い方だぞ」
「そ、そんなにですか?」
「冒険者ってのは命がけの仕事なんだ。あまり買い叩かないでくれ」
「……わかりました。会合を開いてみんなの意見を聞いてみます」
「ああ。これからはそうすることだな。じゃあ、とりあえず行ってくるから心配しないでくれ」
「ありがとうございます」
少し青ざめた顔で礼を言う村長を少し気の毒に思いつつも、
(もう少し、冒険者の生活のことを考えてもらいたいものだ)
とため息交じりにそう考え、私たちは村長宅を後にした。




