おっさんA、息抜きに出掛ける
職人たちを集めてエドバンさんが見本を見せた翌日。
さっそく職人たちの工房を回る。
やはりみんな職人だけあって、かなりの精度で仕上げてくれていたが、それでも若干のばらつきはあった。
そこを修正することを頼み、また翌日も確認に向かう。
すると、ばらつきが少なくなっていたので、あとは全ての剣が完成してからまとめて検査することにし、私は宿に戻っていった。
次の日。
さっそく朝から、
「時間も空いたことだし、軽く冒険に行こう。ゴブリンかオークあたりになるだろうが、たまには外で美味しい飯でも食おうじゃないか」
と言うと、やはりサーニャが一番に、
「やった! 早く行こう!」
と子供のような目で言ってきた。
市場を通って調味料を少し買い足し、さっそく森へ向かう。
半日ほどかけて街道を歩き、途中から森につながる林道に入ると、やや進んだところで野営をすることにした。
「アタシ、カレーがいいな。お肉たっぷりのやつ!」
「ははは。わかった。牛肉たっぷりのカレーにさらに肉をのっけてやろう」
「やったぁ! お肉♪ お肉♪」
いつも以上に元気なサーニャの姿にほっとしてカレーを作り始める。
たっぷりの角切り肉が入ったカレーを煮込みつつ、横で薄切りのバラ肉を炒める。
できあがったビーフカレーに炒めたバラ肉をてんこ盛りに盛り付けると、なかなかやんちゃなカレーが完成した。
「うわ。すっごいね」
「ええ。ここまでとは思いませんでしたわ」
と苦笑いするリズとマイの横で、サーニャが、
「いっただっきまーす!」
と言いさっそくカレーをがっつき始める。
「お代わりもあるからな。ゆっくり食えよ」
となんだか母親のようなことを言いつつも私もひと口食べたが、
(ははは。こりゃ、いくらなんでもやりすぎたな……)
と少し反省してしまった。
結局サーニャが一回お代わりをして無事夕食が終わる。
そしてその日は楽しく更けていき、私たちはゆったりとした気持ちで久しぶりの野営を楽しんだ。
翌朝。
気持ちを切り替えて、森の奥に進んでいく。
二日ほど歩くと、大きな痕跡を発見した。
「オークですね」
「ああ。五、いや、七はいるぞ」
「ちょうどいいじゃん! さっさとやっつけてくるね!」
「おいおい。ちょっと待て、ここはちゃんとみんなで協力してきっちり狩ろう。せっかくなら肉をたくさん卸したい」
「あ、そっか。大切なお肉だから大切に狩らないとだったね」
「ああ。そうだ。いつも通り、リズはマイを守ってくれ。マイは牽制な。で、俺が遊撃で相手をかく乱する動きをするからサーニャは一匹ずつ丁寧にしとめてくれ」
「「「了解!」」」
簡単に作戦を決め、痕跡を追っていく。
すると通常より少し大きな個体を囲むように七匹のオークがいるのが見えてきた。
「おっと。統率個体付きだったか。マイ、牽制の魔法を少し多めに頼む。満遍なく散らすように撃ってくれると助かるな」
「了解です」
「リズも油断するな。複数で突撃してくることもあり得るぞ」
「任せといて」
「サーニャはとにかく丁寧にな。とくに統率個体の肉は美味いから、気を付けてくれよ」
「ほーい」
「よし。じゃあ、いくぞ?」
「「「おう!」」」
みんなのやる気に満ちた返事をきっかけに戦闘が始まる。
オークは予想した通り、密集陣形を組もうとしてきたが、マイの魔法がそれを許さず、適度に隙を作りだしてくれた。
その隙に私が飛び込み、軽く茶々を入れてオークをかく乱する。
するとサーニャが驚きの身体能力で飛び上がり、オークの首を一発で斬り飛ばしてくれた。
(相変わらずすごいな……)
感心しつつ見る私の視線の先でサーニャが笑っている。
その楽しそうな笑顔を見て、私も少し頬を緩めつつ、オークの攻撃をかわしてはちょっかいを出すという自分の仕事に専念した。
後方からリズの「どっせい!」といういつもの声が聞こえてくる。
それと同時にマイの魔法の矢が的確にオークの足元に降り注いだ。
リズに倒されたオークに軽くトドメを刺し、サーニャを見る。
するとちょうどサーニャが統率個体を仕留めたところだった。
こちらを振り向き、ドヤ顔で、
「どう?」
と聞いてくるサーニャに近寄り、
「すごかったぞ」
と言いながらハイタッチを交わす。
サーニャは「えへへ……」とまるで子供のような照れ方をし、少しはにかんでみせた。
そんなサーニャの頭を軽く撫で、
「さて。解体だ」
と声を掛ける。
そこから半日ほどかけて丁寧に肉を取ると、その日はオーク肉を使った生姜焼きパーティーになった。
三日ほどかけてドワーフの里に戻る。
冒険者ギルドで肉を卸し、軽く打ち上げをしてみんな冒険の疲れを癒すといういつもの展開を経て、宿に戻る。
私は、その心地よい疲れとほろ酔いを好ましく思いながら、
(やっぱり、私はこうして気楽に冒険しているのが性に合っているみたいだな。今日のサーニャの楽しそうな顔を見て、心がワクワクするのを感じたからな。もちろん商売も楽しいが、俺はリズのようにはっきりとした理想を持って行動できていない。リズは根っからの商人だ。しかも、商売の力を正しく使おうとしている。きっとああいう人間が大商人になってくれれば、この世界がほんの少し良くなるんだろう。そんな未来をぜひ見てみたいものだ)
となんともおっさんくさいことを思い、軽く目を閉じた。
翌日。
リズと一緒に職人の工房を回る。
進捗は順調で、あと五日もあれば全ての剣が仕上がるだろうというところまできていた。
軽く何本かの剣を確認し、それぞれの工房で少し注文を付けてから職人ギルドを訪れる。
そこでハワードさんの都合を聞くと、ちょうど手が空いているというのでさっそく執務室にお邪魔させてもらった。
「おう。どうした?」
「剣の方は順調に進んでいる。完成品の見本もいくつか用意できるからそろそろグルワッツ商会と初荷の相談をしてもいいかと思ってな」
「そいつはよかった。ちょうどあっちからも進捗の問い合わせがあっていたところだ」
「そうか。なら明日か明後日にでも実務者と話をさせてもらおう。ベイニールさんにも実際の商品を見てもらいたいしな」
「わかった。おそらく打ち合わせは明日で問題ないはずだ。あっちも早く聞きたがってたからな。午後に設定するから見本品を何本か用意しといてくれ」
「了解した」
そんな軽い打ち合わせをすませ、また工房を回り、見本の剣を一本ずつ預かっていく。
そして、翌日。
その剣を持って職人ギルドへ向かった。
「お久しぶりでございます」
にこやかに挨拶をするリズに、ベイニールさんも、
「お久しぶりです。さっそくですが進捗はどうですか?」
とにこやかに尋ねてさっそく打ち合わせが始まる。
「なるほど。あの量産品の剣がこうなりましたか。やはり火入れの質の違いなんでしょうね。これからの品質改良のいい見本になります」
「ああ。これからは職人とグルワッツ商会がともに切磋琢磨する時代になる。そうすればまた新しい商品が生まれてこの町もさらに活気づくことだろうさ」
「そうなるのが理想ですね。うちもせいぜい頑張ってがっつり稼がせていただきますよ」
「ふっ。さすがに商魂たくましいな」
「ありがとうございます」
そんな話から入り、具体的な日程を詰めたが、出発は少し余裕を持って十日後とすることにした。
「魔法鞄を使ってもいいですが、これからのことを考えて、道の状況や各地の情勢を確認しておきたいですから、あえて馬車でいかせてください」
「ああ。となると四十日くらいは見ておいたほうが良さそうだな」
「ええ。伯爵様にはこちらからもお手紙を差し上げますので、その日程を伝えておきましょう」
「助かる」
そう話し、最後に無事握手を交わして職人ギルドを後にする。
「いやぁ、ついにここまできたって感じだねぇ」
少しほっとした表情でそう言うリズに、
「ああ。一つ目の山は越えたな」
と言うと、リズは少し苦笑いで、
「あとひと踏ん張り頑張ろうね」
と言ってきた。
「ああ。がんばろう」
そう言って拳と拳を軽く合わせる。
夕方の人で賑わう商店街の風景を見ていると、どこかの子供たちが、
「じゃあな!」
「うん。また明日!」
と言って元気に駆けていった。
(そうか。私はこんな日常をもっと豊かにするかもしれない仕事をしているんだな……)
と思うと、なんだか感慨深いような気持ちになる。
そんな私に、リズが、
「今日も楽しかったね」
と言ってきたので、私は、
「ああ。明日もきっと楽しいさ」
と微笑みながらそう言って宿への道を軽い足取りで歩いていった。




