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おっさんAの異世界冒険譚 ~転生者、詰みそうな町を事業計画で立て直す~  作者: タツダノキイチ
第二部

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おっさんA、ドワーフの里に戻る03

「いや。ちょっとした思い付きなんだけどよ。例のグルワッツ商会の安い剣があるだろ? あれを職人が叩き直して価値を上げるってのはどうだ?」

そう言うエドバンさんにみんなの注目が集まる。

エドバンさんは少し照れたような感じで「こほん」と咳払いをすると、そこからその意見の詳細を説明し始めてくれた。

「グルワッツ商会のあれは普通の鋼鉄を使ってるが、大量生産するうえでどうしても焼きが甘くなっちまう。だから耐久性に問題があるんだ。あっちは大きな炉を使ったり、燃料を工夫してなんとかしようとしてるみたいだが、それでも、品質の上限は見えてるってもんだ。たしか売値は小金貨三枚だったよな? ってことは仕入れは高くても小金貨二枚くらいだろう。で、そいつを高温で焼き入れして打ち直せばそれなりの剣に仕上がって、卸も小金貨八枚くらいに抑えられるんじゃねぇかって寸法さ。まぁ、グルワッツ商会がなんて言うかわかんねぇから、あくまでも案だけどよ」

最後は少し不安要素を覗かせつつ、エドバンさんが意見を言い終える。

私は、

(それはかなりいい線いってるんじゃないか?)

という手応えを掴み、ハワードさんの方に視線を向けた。

「そいつぁ技術的にはいい案だ。しかし、あっちがなんて言うかはわかんねぇ。アレン。お前さん、その交渉できるか?」

そう言ってこちらに真っすぐな視線を向けてくるハワードさんに、こちらも真剣な表情でうなずくと、

「ああ。やれるだけやってみよう。グルワッツ商会にとっても美味しい話なはずだ。なにしろ軍や新人冒険者以外にも確実な販路が広がるんだからな。上手くいけば職人にもグルワッツ商会にもそして売り先の伯爵様にもいい話になる。全力でまとめてみせよう」

と言い、

「会談の段取りをお願いできるか?」

と調整を依頼した。

「おう。それくらいなら任せとけ。ただ、おそらくあっちは三代目が出てくるぜ。まだ歳は若ぇがなかなかどうして、筋金入りの商売人だ。ちょっとしたうまみだけじゃ食いつかねぇかもしれねぇから、気を引き締めてかかるこったな」

そう言われたところで、無事会合が終わる。

私とリズはほっとしてエドバンさんにお礼を言った。

「ありがとうございます。助かりました」

「いや。パッと思いついたことを言ったまでよ。それよりこれから交渉なんだろ?」

「ああ。ここからは数字との戦いだな」

「へっ。商人様ってのは大変な商売だな」

「おいおい。俺は冒険者だ」

「ははは! そうだったな。忘れてたぜ」

そんな会話で最後は笑顔を見せ合い、その場は解散となる。

リズはすぐにでも事業計画の立案に入ろうと前のめりでそう言ってきたが、私は軽く首を横に振り、

「こういう場合は一晩寝かせてゆっくり頭を休めた方がいいんだ。その方が結果的にうまくいく。今日はゆっくり寝て明日考えよう」

と言った。

なんとなく「ブラック企業」だとか「社畜」という言葉が頭に浮かぶ。

(元気に働くことはいいことだが、働き過ぎは人の思考を停止させてしまうからな。こういうのは適度に休みながらがいいんだよ)

と自分に言い聞かせ、私もその日はなるべくゆったりした気持ちで眠ることにした。

ゆっくり休んだ翌朝。

朝食を済ませると、さっそくリズと数字の計算を始める。

サーニャとマイは町で買い食いを楽しみたいというので、別行動になった。

「お土産買ってくるね」

と言って出かけていったサーニャが少し寂しそうな顔をしていたのを見て、

(この商売が終わったらまた思いっきり冒険しような)

と心の中で軽く言い訳をしつつ、とりあえず目の前にある作業に集中した。

結果。

グルワッツ商会の剣が小金貨二枚で職人が一日二本叩き直すとするなら職人も十分に採算が取れるのではないかという話になる。

そこで、その案を持ってエドバンさんを訪ねると、

「妥当な線だな。それに新人の鍛冶師にとってはいい練習になりそうだから、弟子を取ってる工房にはうってつけの仕事になるんじゃねぇか?」

と言ってくれたので、私たちは安心してその事業計画をぶつけてみることにした。

午後。

サーニャとマイがお土産に買ってきてくれたワッフルを食べながら、ゆっくりお茶にする。

するとそこへ職人ギルドの職員がやって来て、

「さっそくですが、明日の午後グルワッツ商会の三代目が会談したいということだったんですが、大丈夫ですか?」

と言ってきた。

当然、いいと返事をしてリズと軽くうなずき合う。

「明日が勝負だね」

「ああ。いい取引になるといいな」

「きっと売れるよ。この商売の種」

「いくらになるか楽しみだ」

そう話している私たちを見てサーニャが、少し笑いながら、

「あはは。アレンとリズがちょっと悪い顔してる!」

と冗談を言ってくる。

マイもそれに乗って、

「うふふ。二人の目に金貨が映ってるのが見えます」

と言うので、私は笑いながら、

「俺の目に映ってるのは聖銀貨だよ」

と半分冗談、半分本気でそう言った。

翌日。

朝からリズと打ち合わせをして最終確認を行う。

そして私が昼をかつ丼にしようと提案し、私だけがひっそり縁起担ぎをすると、さっそく私とリズは職人ギルドに向かっていった。

受付で会談に来たことを告げ、会議室に案内される。

そこにはすでにギルドマスターのハワードさんと大会の時にチラッと見たグルワッツ商会の三代目が来ていて、なにやら親しげに談笑していた。

「すみません。遅くなりましたわ」

リズが軽く謝りながら二人に近づいていく。

するとグルワッツ商会の三代目が立ち上がり、

「いえ。私が早く来てハワードさんを昼食に誘ったんです。おかげで状況がよく呑み込めました」

と言い握手を求めてきた。

「初めまして、と言うのは少し違うかもしれませんが、こうして名乗るのは初めてですね。私、行商人をしております、リズと申します」

「そうでしたね。大会の時はしてやられました。グルワッツ商会の三代目、ベイニールと申します」

「アレンだ。リズの補佐役をしている」

「お噂はかねがね」

そんな挨拶を交わし会談は表面上和やかな雰囲気で始まった。

「自己紹介もすんだところで言っておくが、ベイニールにはざっくりとした事情を説明しておいたが、改めて詳細を聞かせてやってくれねぇか?」

というハワードさんの言葉にうなずき、リズがさっそくこちらの事業計画を示す。

ベイニールさんはそれをなにやら書類を見ながら静かに聞いてくれた。

話が終わり、

「どうですか?」

と問うリズに、ベイニールさんが、

「面白い話でした。しかし、それなら私どもが作っている量産品の剣をそのまま伯爵様に流せばいいだけのことです。わざわざこの町の職人さんたちの手を煩わせなくてもいいのでは?」

となかなか痛いことを言ってくる。

それにリズは少しも焦った様子を見せることなく、

「最終的に折り合わなければ私たちはそれでもかまいません。伯爵様も最悪それでもかまわないと仰っておりますので。しかし、この町全体のことを考えると、ここは職人を介在させておいた方が得策かと思いますよ」

と言い、ベイニールさんに「どうです?」というような視線を送った。

「ほう。それは興味深い話ですね。なぜ、そう思われるので?」

おそらくこちらの答えを予想しているだろうベイニールさんがあえて尋ねてくる。

リズはそれにも落ち着いて、

「ドワーフの町の技術力を広く売るためです。残念ながらグルワッツ商会の剣は西の町で使われている剣より少しいい程度の品質で止まっています。もちろん、価格競争では圧倒的優位ですが、それではわざわざドワーフの里から入手する強い理由にはならないでしょう。なにしろ西の町にも武器商はありますから、地元の経済を回すという視点で考えると、おそらく伯爵様はそちらからの購入を優先するはずです。なのでこちらとしては伯爵様がお望みのある程度の高品質という付加価値を付けるんです。どうでしょう? この案、そちらにとっても悪くない案だと思いませんか?」

と答えた。

「なるほど。そういうことならある程度前向きに考えましょう。しかし、卸値が小金貨一枚と大銀貨四枚というのはいくらなんでも安すぎる。こちらの足元を見ていますか?」

という質問にギクリとする。

その価格設定は、あくまでも交渉余地を残すために、あえて安く設定した金額だった。

そこをベイニールさんは一瞬で見抜き、暗に「バカにしているのか?」と言ってきたことになる。

リズはなんとか落ち着いて、

「ご不満ですか?」

とはったりをきかせたが、それが一瞬にして場の空気を悪くしてしまった。


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