おっさんA、ドワーフの里に戻る02
翌日。
少し二日酔い気味で起きる。
薬を飲んで食堂に行くと、マイも少し辛そうな顔をしていた。
「大丈夫か? 薬あるぞ?」
「あ。ください。すみません。楽しかったのでつい飲みすぎちゃいました……」
そう言うマイにも薬を渡し、軽めに朝食をとる。
そして食後のお茶の時間、今日の予定を決め、リズと少し話をした。
「午後はエドバンさんと軽く会合前の打ち合わせだが、なにか詰めておきたいことはあるか?」
「そうだね。職人に出す依頼内容をもう一度確認しておきたいかな?」
「ああ。エドバンさんには金貨一枚程度の卸値でと話したが、高過ぎただろうか?」
「うーん。ギリギリってところかな? そこはグルワッツ商会がどの程度なら流通網の構築に応じるかってところにもかかってくると思うけど……」
「ということは、小金貨八枚くらいまでに抑えないといけない可能性もあると?」
「うん。ただ、そうなると職人的に厳しいんじゃないかな? 場合によっては反発も出るかも」
「なるほど。いくら大量発注が安定的にあるとしても手間賃が安すぎることになるのか」
「うん。その辺をどう解決するかって案を今日の会合で詰められるといいね。職人も儲かって、伯爵も喜ぶ線ってのを探りながらさ」
そんな話を軽くして今日の予定を話し合う。
マイやサーニャが町を見て回りたいということだったので、私とリズの冒険者向け装備の市場調査も兼ねて、町をぶらぶらと散策して過ごすことにした。
宿を出てのんびり市場に向かう。
古着屋でマイが服を選び、サーニャに当てて着せ替えごっこのようなことをしている様子はまるで仲のいい姉妹を見ているようだった。
そんな中、冒険者向けの装備を見てみる。
相変わらず質のいい商品が並んでいる一方、
(やはり少し高価格帯の商品が目立つな)
という印象を持った。
(この世界は流通網が整ってない。いい武器を求めるならわざわざドワーフの里か、その近郊まで来て買うことになる。ということは、この町ではそういう高付加価値の商品を求める客が多いということだな。だからこういう品揃えになる。しかし、そのおかげでこの里の経済規模は頭打ちになっている……。この町のポテンシャルはもっとあるのに、経済を広げられないってのが、現状か。となると、おそらく今回の商談はその現状に風穴を開けることになるな)
そんなことを思いつつ、真剣に品定めをするリズの姿を見守る。
そして、そんな町ぶらも一段落し、適当なところで昼飯を食おうという段になって、私たちは適当な店を探し始めた。
市場を抜け、商店街に入る。
そこで私はふと思いつき、
「飯の前に、ちょっと薬屋をのぞいてもいいか? 昨日飲み過ぎたせいでまだ胃もたれがしてな」
と少し苦笑いで言い、薬屋に寄らせてもらうことにした。
「いらっしゃい。なんの薬をお求めで?」
そう言ってくる店主らしき老婆に、
「胃もたれに効くやつが欲しいんだが」
と聞くと、
「ええ。それならこれが一番効きますよ」
と言って小さな箱に入った薬を出してくる。
「ほう。どんな薬草を使ってるんだ?」
仕事柄、なんとなく気になって聞くとその老婆は、
「ええ。イリアの実とラッカ草を混ぜたものです。胃がスッとしますよ」
と笑顔で教えてくれた。
イリアの実は二日酔いの薬によく使われるものだし、ラッカ草は清涼剤的なもので、たしかに飲んだ後胃がスッとする効果がある。
私は悪いものじゃないと直感し、
「ありがとう。いくらだ?」
と聞いた。
「はい。大銀貨二枚ですよ。三回分入ってますからね」
と言われ、一瞬驚く。
私の正直な感想は、
(ちょっと高いぞ。普通の町なら倍の量でこの半額くらいだ。西の町ならもっと安いはずだぞ)
というものだった。
「ほう。そうか。ちなみに、リリック草を使った熱冷ましはいくらだ?」
と試しに聞いてみる。
すると、
「ええ。そっちは六回分で大銀貨四枚ですけど、お熱があるんですか?」
と聞かれた。
「ああ、いや。ちょっと聞いてみただけだ。すまんな。この胃薬だけくれ」
「はい。お大事になさってくださいな」
そんなやり取りをして薬屋を出る。
(そうか。この町は薬が高いのか。となれば、もしかするともしかするぞ……)
と考えつつ、店の前で待ってくれていたみんなのもとに戻ると、みんなが私に気を遣ってくれて、昼は胃に優しいうどんにすることになった。
うどんで温まった胃をさすりつつ、エドバンさんの工房を目指す。
工房に入ると、エドバンさんがいつもの調子で、ニカッと笑い、
「おう。さっそく打ち合わせに入ろうぜ!」
と言ってきた。
さっそくエドバンさんと話すが、やはり、小金貨八枚では職人に厳しいだろうという意見が出る。
「なにか妙案があればいいが……」
と話すがなにも出てこない。
結局私たちは明確な解決案を出せないまま会合の場に向かった。
職人ギルドの会議室を借りた会合が始まる。
その場には職人ギルドのギルドマスター、ハワードさんもいたので、軽く自己紹介をさせてもらった。
「おう。リズとアレンだったな。話はエドバンのやつから聞いてるぜ。ていうか、大会の時、審査員もしてたからよく知ってるよ。行商人としてたいした腕前だってみんな感心してたんだぜ」
「いや。リズは行商人だが、俺の本業は冒険者だからな?」
「ははは。そうだったな。それなのに見事な手並みで問題を解決しやがったから余計に感心したんだったよ。で、今日も大きな商売の話を持ってきてくれたんだろ? 期待してるぜ」
そんな挨拶が終わり、さっそく会合が始まる。
会合の前半は武器の需要や各職人の新作構想などの話があり、特に対大型魔獣に特化した魔法弓の話は魅力的ではあったが、
(なるほど。上級冒険者を意識した商品開発が主になっているんだな。どれも高価格、高付加価値の路線から大きく踏み出した提案はないな)
という印象を持った。
最後の方になって、ようやく私たちの番が回ってくる。
そこでリズが立ち上がり、これまでの経緯を説明した。
「なるほど。そいつぁいい商売になりそうだ。で、職人の稼ぎはどうなってる?」
さっそくハワードさんから核心を突いた質問が来る。
リズはそれにうなずきつつ、
「おそらく職人が納得する価格は一本金貨一枚くらいになるでしょう。しかし、グルワッツ商会はもっと下げろと言ってくるはずです。あくまでも可能性だが小金貨八枚くらいまでは覚悟しておいてもらいたいというのが本音ですね」
と言ったが、ハワードさんは即座に、
「それじゃぁ、職人が泣きを見ちまう」
と斬り捨てるようなことを言ってきた。
リズが言葉に詰まりつつも、
「今日はせっかくの会合です。ぜひその問題を打破する妙案をみなさんで考えませんか?」
と提案する。
しかし、その場はシンと静まり返ってしまった。
(……詰んだか?)
と思いつつここはとりあえずなにか言わなければと思い手を上げる。
「これは職人だけの問題じゃない。この話が決まれば流通網が作られ、より幅広い武器や商品にまで販路が広がる機会ができるだろう。どうかみんなの知恵を貸してくれないか?」
私のその言葉にみんな一応反応したが、やはりすぐに下を向く。
(ちっ。ダメだったか……)
そう思って諦めかけた時、
「あのー……」
という小さな声で一人の女性が手を上げた。
「手を上げてくれてありがとう。なんでもいい自由な意見をくれ」
と即座に食いつき、ややおずおずとしたその女性に笑顔で意見を促す。
するとその女性はやや安心したような顔で、
「中古の剣を安く仕入れて打ち直すっていうのはどうですか? それならある程度の手間ですんで安くあげられるうえに職人の手が入りますから、それなりの品質に仕上がると思うんですけど……」
と言ってくれた。
「なるほど。ありがとう。その意見に対してみんなの考えはどうだ?」
そう言って議論を回し始める。
すると今度はいかにもベテラン風の職人が手を上げ、
「悪い案だとは思わねぇ。しかし、それじゃぁ規格が揃わねぇ。大量発注には応えられねぇぜ」
と言ってきた。
「なるほど。規格の問題もあるんだな。ということはグルワッツ商会みたいに規格を揃える工夫も必要ってことか。なにか、その点に関して案がある人はいないか?」
私がけっこうダメ元でそう言ってみるとそこでエドバンさんが手を上げてくれた。




