おっさんA、ドワーフの里に戻る01
寒村で狼を討伐してから三十日ほど。
ほどよく埃にまみれた状態で、ようやくドワーフの里の門をくぐる。
相変わらず無骨なレンガ造りながらも洗練され、そのこじんまりとした建物群にどこか可愛らしい印象を受けつつ、宿に入った。
まず風呂を使わせてもらい旅の垢を落としてから夕暮れの町に繰り出す。
「ねぇねぇ。久しぶりにお酒飲んでいい? 小金貨何枚までかな?」
とおやつをねだる子供のような目をこちらに向けてくるサーニャに、
「飲み過ぎない程度ならいいぞ。そうだな、四人で小金貨三枚までにしよう」
と言いつつ適当な居酒屋に入った。
いかにもドワーフの里らしく豪快に厚切りにされたハムカツを頬張りビールを飲む。
「なんだか、こうやって厚切りのお肉を濃いめのタレで食べてるといかにもドワーフの里に来たって感じになりますね」
「あはは! そうかも! あ、お姉さん、ビールお代わり!」
「おいおい。飲み過ぎるなよ?」
「大丈夫だって。小金貨三枚までいいんでしょ?」
「ははは。なんかアレンとサーニャってお父さんと娘みたいだね」
「うふふ。たしかに」
「えー。なにそれぇ……」
そう言ってサーニャが少しむくれたふりをしたところで、またみんなが笑顔になる。
私はその光景を微笑ましく見ながら、
(俺も、そういう歳かぁ……)
となんとなく身につまされるような想いを抱いた。
いい感じにふわふわになった体で軽快に石畳の道を歩き、宿に戻る。
久しぶりに味わう解放感にも酔い、その日私はぐっすりと寝た。
翌朝。
少し寝すぎたと思い、ちょっと慌てて食堂に向かう。
「おはよう。アレン。寝坊?」
「ああ。すまん。少し気を緩め過ぎた」
「うふふ。いいんじゃないですか? たまには」
「うん。でも、今日からいよいよ勝負だからね」
「わかっているさ。気を引き締めていこう」
そんな朝の挨拶を交わし、さっそく朝食を食べる。
朝食が終わると、私たちはさっそくエドバンさんの工房に向かった。
狭い路地を行き、相変わらず見落としそうな看板を見て懐かしさを覚える。
エドバンさんの工房の前に着き、無遠慮に扉を開けると、
「エドバンさん、いるか? アレンだ。仕事の話を持ってきたぞ!」
と声を掛けた。
「おう。なんだって? おい。ちょっと待ってろ!」
そう声がしてなにやらガチャガチャと音がしたあと、工房の奥の作業場から汗だくのエドバンさんが出てくる。
相変わらず炭にまみれたごつい体を見て、懐かしさが込み上げてくる。
「久しぶりだな」
と声を掛ける私にエドバンさんは、
「おう。こんなに早く再会するとは思ってなかったぜ。いったいどうしたってんだ?」
と言いつつもその分厚い右手を差し出してきた。
「ああ。仕事の話を持ってきたんだ。よければ相談に乗ってくれないか?」
「おう。もちろんだ! とりあえず、ちょっと待っててくれ。今、一本剣を仕上げちまうからな。二階で適当にくつろいでてくれ」
そう言われて、遠慮なく二階に上がる。
男の一人暮らしらしい物の少ないリビングで適当に座ると、マイが勝手に台所に行きお茶の準備を始めてくれた。
ゆっくりお茶を飲んでいると、少しバタバタという音がしてエドバンさんが二階に上がってくる。
「待たせたな。で仕事の話しってのはなんだ?」
手拭で汗を拭きつつそう言ってくるエドバンさんにもお茶を渡しつつ、
「西の町で伯爵様の依頼を受けたんだ。詳しい話を聞いてくれるか?」
と話しを切り出した。
「伯爵様だって!? そりゃまたどえらい仕事を引き受けたもんだな。とりあえず詳しく聞かせてくれ」
というエドバンさんにかいつまんで事情を話す。
話を最後まで聞いたエドバンさんは、
「なるほど。そいつぁいい商売の匂いがする。しかし、一筋縄じゃいかねぇぞ。なにせ職人の協力が必要だ。それにグルワッツ商会のやつらも巻き込まねぇとどうにもその流通網ってやつの構築ができねぇ。そういう話しだよな?」
と問題の核心を突いてきた。
「ああ。グルワッツ商会にかけ合ってあの安い剣を伯爵様に届けてくれるよう頼むだけなら話は簡単だ。しかし、金貨一枚程度でグルワッツ商会に卸せてなおかつ品質のいい剣を大量生産するとなると、かなりの難題だ。どうだろう。職人たちに協力を仰ぐことはできるか?」
そう言う私に、エドバンさんが軽く胸を叩き、
「おう。任せとけ。ちょうど明日の夕方、職人の会合があるんだ。すまんがその場で説明してやってくれるか? もちろん俺も協力するからよ」
と話を請け負ってくれる。
私は再びエドバンさんのごつい手を握り、硬い握手を交わした。
その後。
「どうだ。久しぶりなんだ。この後、飲みに行かねぇか? 今日中に大きな仕事が片付くから、ちょうど飲みに行こうと思ってたところなんだ」
「いいな。行こう」
「やった! ねぇ小金貨何枚まで?」
「そうだな。あまり飲みすぎてもなんだが、今日は再会のお祝いだ。思い切って小金貨六枚にしよう」
「ほう。そいつぁ豪勢だな。奢りか?」
「ははは。前祝いに奢らせてもらうよ」
「よっしゃ! なら、とっておきの店に連れて行ってやるぜ!」
「あんまり高い店にしないでくれよ?」
「はっはっは。安心しな。安くて美味しい職人御用達の店だからな」
そんな話でエドバンさんと飲みに行く約束をしていったん工房を後にする。
私たちは夕方までの間、先日、剣や盾を仕入れさせてもらった職人の工房を訪ねてお礼がてら商品の評判などを伝えて回った。
夕方。
嬉しい気持ちでエドバンさんの工房に向かう。
「職人さんたち、嬉しそうな顔だったね」
「ああ。自分の仕事が評価されたんだから、そりゃ嬉しかっただろうよ」
「ああいう現場の様子を見てるとなんだかさらにやる気になってきたよ」
「いいことだ。この調子でもっとこの里が活気づくような商売をしよう」
「うん!」
リズとそんな話をしながらエドバンさんの工房に着くと、エドバンさんは準備万端といった感じで、店の前に立っていた。
「おう。遅かったな」
「すまん、待たせたか? この間世話になった職人たちの所に挨拶に行ってたんだ」
「そうか。あいつら喜んでただろ?」
「ああ。みんな満足そうな表情をしてたよ」
「ははは。職人ってのは時々孤独だからな。だから商人に客の声ってのを伝えてもらうと嬉しい気持ちになるんだ」
「なるほど。そういうもんなんだな。じゃあ、これからも積極的に職人と話をしながら商売することにしよう」
「おう。そうしてやってくれ」
そんな挨拶を交わし、さっそくエドバンさん御用達の店に向かう。
着いた店はかなり年季の入った大衆居酒屋という感じで、
(ああ、こりゃ、地元民じゃないと入らない感じの店だ)
という率直な感想を持った。
「ビール五つな! んでももって、特上ローストも五人前持ってきてくれ」
「あいよ。ていうかお客さんかい?」
「ああ。ちょいと前に話してた行商人ご一行様だ」
「ああ、あの。そういえば、大会の時舞台に上がってたね。てことはドワーフの恩人さんじゃないか。じゃあおまけで特上ロースト一人前追加しとくわね」
「おう。ありがとよ」
エドバンさんが慣れた調子で店の女将さんらしき人に注文する。
「ここはよ。ローストビーフがめちゃくちゃ美味いんだ。ただ、特上はそこそこ値段がするから滅多に頼まねぇけどな。それでも安心してくれ、一人前大銀貨二枚だ」
「ほう。大衆向けの居酒屋にしてはけっこうするんだな。しかし、その分期待できそうだ」
「ああ。腰抜かすほど美味ぇぞ」
そんな楽しい話をしていると、女将さんがまず大きなジョッキを五つ持ってきてくれて、さっそく宴会が始まった。
その後、口に入れた瞬間溶けてしまったのではないかと思われるほど柔らかいローストビーフを食べながらじゃんじゃんビールを飲む。
最終的にまたサーニャが例の軽業師のような踊りを踊りだし、その場はかなり陽気に盛り上がった。




