おっさんA、再びドワーフの里に向かう
伯爵の城から宿に戻る。
「おかえりー」
「どうでしたか?」
とにこやかに出迎えてくれたサーニャとマイに事情を話すと、
「そっか。また旅だね!」
「うふふ。楽しいことになりそうでドキドキしちゃいます」
という前向きな言葉が帰ってきた。
少しほっとしながらサーニャとマイがお土産に買ってきてくれていたケーキを食べる。
ベリークリームをふんだんに使った少し酸味のある甘い味が、緊張を強いられた体によく沁みた。
翌日。
冒険者ギルドに武器を卸しに行く。
ギルドマスターと直接交渉したが、反応はかなりよく、普通の剣と盾、それに弓は全部引き取ってもらえた。
ただし、高級ナイフと黒鋼を使った高級剣はそれぞれ一本ずつの買い取りに終わり、冒険者ギルドを後にする。
「やっぱり高級品はこの町じゃ売れないみたいだね。他の町に行った時、思い切って武器屋に下取りに出してみようか。ちょっと損するかもしれないけど、ある程度だけでも回収しないとね」
そう言ってリズが少し悔しそうな顔をしていたのが、なんとも印象的だった。
その後、必要な物を仕入れて宿に戻る。
そして、翌朝。
私たちは西の町を発ち、一路北にあるドワーフの里を目指して進み始めた。
リザードマン騒動があった湿地帯やチーズを仕入れたカナイ村を懐かしい思いで通り過ぎる。
途中、道はやや険しいが近道になる裏街道に入るが、足取りは変わらず順調に行程を重ねていった。
旅立って十日目。
ここまでかなり順調にきたこともあり、やや早い時間に、裏街道沿いのうっかりすれば見過ごしてしまいそうなほど小さな村に入る。
そこでいったんゆっくり休憩してここまでの疲れを取ってしまおうというのが狙いだった。
古ぼけた宿に入り、その日の夕方。
私たちが夕食を食べていると、女将が、
「あのぉ。お客様を冒険者様と見込んで少しご相談があるのですが……」
となんとも申し訳なさそうに声を掛けてくる。
「どうした? 急ぎの旅であまり時間もないが、軽い相談くらいになら乗るぞ」
と答えると、女将は嬉しそうな顔で、
「すぐに村長さんを呼んでまいります」
と言い急いでその場を辞していった。
「なんだろうな?」という顔でみんなして見つめ合う。
そして、美味しく夕食を食べ終え自分たちでお茶を淹れて飲んでいるとそこに女将さんと見知らぬ老人がやってきた。
「突然、申し訳ありません。私はこの村で村長をしております、ヨークと申します。冒険者様を見込んでお願いしたいことがあり、こうして顔を出させていただきました」
そう言って申し訳なさそうな顔でこちらを見てくる老人を気の毒に思い、
「ああ。話くらいなら聞くぞ」
と私が代表して申し出る。
すると村長はパッと明るい顔になり、
「実は村の牧場に二十日ほど前から魔狼が出てくるようになり困っているんです。もちろんすぐ冒険者ギルドに依頼を出しましたが、いまだに受けてもらえる冒険者様が現れず難儀しております。なにしろ村の予算ではそれほどのお金は出せませんし、この村はどの町からもけっこう離れておりますから、おそらくそれで受けていただけなかったかと思うのですが……」
と事情を説明してくれた。
その村長のおずおずとした態度や申し訳なさそうな口ぶりを見て、なんとも切ないような気持ちになる。
(助けてやりたい。だが……)
私が少し葛藤しながらみんなに視線を送ると、まず、サーニャが、
「いいじゃん。ちょっとした運動になるしさ!」
と言い、続いてリズとマイも、
「そうだね。ここまで順調に進んできたから二、三日なら余裕があるし」
「ええ。それにアレンさんのことだから放っておけないって思っているんでしょ?」
と笑顔でそう言ってくれた。
「あの……、受けてくださいませんでしょうか?」
という村長に、
「ああ。わかった。で、いくらなんだ?」
と一応報酬を聞く。
すると村長は喜びつつも申し訳なさそうな顔で、
「それが金貨一枚が予算の限界でして……」
と言ってきた。
(そりゃ、誰も受けないわけだ。近隣の町からの旅費だけで依頼料が消えちまう。普通、倍か三倍はかかる案件だぞ)
とやや呆れつつ、
「わかった。これもなにかの縁だから、今回はそれで受けよう。しかし、これからはいざという時のために村の予算をやりくりして緊急事態に備える資金を確保しておくことだな。通常その三倍くらいは支払わないと誰も受けないぞ」
と村長に少し説教じみたことを言う。
自分でもこんな説教じみたことを言うのは嫌だったが、これからの村にとって必要なことだろうと思ったので、そこはきちんと指摘しておいた。
「ああ、ありがとうございます。はい。ご指摘は決して忘れません。これからはそのように村を運営してまいります」
と言い恐縮して何度も頭を下げる村長に苦笑いしながら、
「明日からさっそく行くから、安心していいぞ」
と伝え、部屋に戻る。
そして翌日。
私たちはなんともお節介な気持ちで引き受けた魔狼討伐に出かけていった。
「牧場に出たってことは森のけっこう浅い場所に巣食ってるってことだよね?」
「ああ。正解だ」
「やった! じゃあ、接敵するのも早そうだね」
「おそらくな。痕跡もそこら中に残っているだろうよ」
「簡単な依頼ですね」
「ああ。金額は見合わないがな」
そんな会話をしながら村の牧場の脇から森に入っていく。
森を歩き始めて半日ほどで魔狼が家畜の羊を食い散らかした痕跡を発見した。
「近いな。下手をしたらこっちの存在は臭いでバレてるぞ。夜戦になるかもしれんから、覚悟しておいてくれ」
「「「了解!」」」
そう言って痕跡を追っていく。
そしてそろそろ夕方になろうかというところで、かなり開けた場所を選び、野営を始めた。
「この辺じゃ冒険者不足なんだね」
と聞いてくるリズに、
「ああ。裏街道沿いだから寒村が多いってのもあるんだろう。この村みたいにどこもカツカツで運営しているはずだ」
と少し苦々しく答える。
「こういうのを見ると商売の大切さを思い知るよ。こういう村でもなにかしら売り物があるだろうからね。それを広めて村を豊かにするもしないも村人次第だと思うんだ。なんかさ、社会って難しいよね」
そう言ってため息を漏らすリズに、
「いつかリズが大商人になったらこういう村を救ってやることを考えればいいさ。今の俺たちにできることは少ないが、目の前にある社会の問題から目をそらさずどうにかしようって気持ちで動いていれば、いつか誰かに届く。俺たちは俺たちなりに目の前のことを一生懸命やるしかないってことだろうよ」
となんとも一般論的な慰めの言葉を掛けた。
それでもリズはどこか前向きな顔で、
「そうだね。目の前のことを一生懸命するしかないよね」
と言って笑ってくれる。
私はそんなリズの強さを見て、微笑みながらお茶をすすった。
その日の夜中。
予想通り周りにうごめく気配で目を覚ます。
サーニャはすでに大剣を取っており、私も急いで刀を抜いた。
「リズ、マイ、起きてるか? 狼様のお越しだぞ」
と少し軽く言うと、
「起きてるよ」
「はい。大丈夫です!」
という答えが返ってきた。
「リズは目の前の防御に集中。サーニャはマイの背中を頼む。俺は遊撃で動くから、マイ、魔法で援護してくれ」
「「「了解!」」」
そんな感じで戦闘態勢を整え、魔狼の登場を待つ。
するとしばらくして狼たちが姿を現した。
マイが灯りの魔道具で光の球を射出し、戦闘が始まる。
私は飛びかかってくる魔狼をギリギリでかわしつつ、とにかく動き回って相手をかく乱していった。
やがて私の息が上がり始めたころ、マイの魔法が最後の一匹を仕留めて戦闘が終わる。
私たちは軽くハイタッチを交わすと、討伐部位を取って依頼を完了させた。
翌日の午後。
村に戻ってさっそく村長に報告する。
村長は泣きながら感謝の言葉を伝えてくれたが、私はなんとも微妙な感じでそれを受け取った。
(おそらく同じような問題を抱えている村は多いはずだ。これがこの世界の現実ってやつなんだろうな。その現実を知ってしまったからにはなんとかしたい。私はこれからの人生でなにかこの世界のために役立つ仕事を成し遂げられるだろうか? いや、そんな大それたことじゃなくてもいい。まっとうに暮らしていく人の生活を少しでも楽にすることができればいいんだが……)
そんなことを思って少し重たい気分になる。
そんな私にみんなが、
「よかったね、アレン!」
「ええ。とってもいい仕事をしたと思いますよ」
「あはは。なんだかいい道草になったね」
と言ってくれた。
その言葉を温かく受け取り、再び旅路に戻る。
私は今紛れもなくこの世界で生きているんだ、ということを感じながら北へ続く道をしっかりとした足取りで歩き始めた。




