おっさんA、貴族相手に商売をする01
冒険から戻り、さっそく薬師ギルドと冒険者ギルドに戦利品を納めにいく。
サトリアの実とノエラ草はそれなりの価格が付き、非常に喜ばれた。
一方、グレートバイソンには一匹まるまる持ち込んだにもかかわらず、通常の三分の二ほどの値段だったので、少し肩すかしを食らったような気持ちになる。
それでも、金貨四枚とそれなりの稼ぎにはなった。
(やっぱり競争の激しい地域なんだな。あの大物がこの値段か)
そんなことを改めて思いながら、宿に帰る。
宿の女将に確認したが騎士団からの連絡はまだ無かったということで、私たちはゆったりとした気分でその一日を終えた。
翌日。
必要な物の買い出しを済ませ、午後には宿に戻る。
「今日の夕飯、なぁに?」
「今日は豚肉のいいところが安かったからポークチャップですよ」
「やった!」
サーニャがすっかり仲良くなった宿の女将とそんな話をしていると、そこにグラニッツさんが訪ねてきた。
「こんにちは、グラニッツさん。お話はどうなりまして?」
商人らしくにこやかに対応するリズに、グラニッツさんは少し申し訳なさそうな顔をしたので、私は、
(ああ、これはダメだったか)
と思ったが、グラニッツさんは、
「それが、どうもお館様がお会いになるという話になってしまってな。すまんが、明日城へ来てお館様と面会してくれんか?」
と意外なことを言ってきた。
(え? お館様ってことは領主ってことか? なんでまたそう一足飛びに?)
と内心驚く私の横でリズが一瞬驚きつつも、平然とした顔で、
「ご領主様と面会ということでしょうか? えっと、たしかこの領のご領主様は……」
と暗にグラニッツさんに質問を投げかけた。
「ああ。トワイエル伯爵だ。急な話ですまんな」
「いいえ。大丈夫ですが、行商人の身ですので、ドレスなどの持ち合わせがございません。その点ご容赦いただけるようご伝言くださいますか?」
「ああ。それは大丈夫だろう。伯爵はそれほど厳しいお方ではないからな。しかし、きっちりと伝えておこう」
「ありがとうございます。で肝心の話の中身については?」
「すまんが、詳しくは聞いていない。ただ、武器のことについて伯爵が直に質問したいと言い出したそうなんだ」
「左様でございますか。かしこまりました。明日はどのくらいに伺えばよろしいですか?」
「ああ。それも朝から迎えの馬車をよこす。それで来てくれ」
「かしこまりました。なにからなにまでありがとうございます」
そうやって必要なことを伝えたグラニッツさんが帰っていく。
グラニッツさんを見送った後、リズは、
「どうしよう! お貴族様と面会になっちゃったよ! 失敗したら追放とかあったりしちゃうのかな!?」
と泣きそうな顔で私にそう言ってきた。
「大丈夫だ。とりあえず、急いで古着を買いに行こう。ドレスじゃなくてもいいと言っていたが、ちょっときっちりした服がいいはずだ。サーニャとマイはどうする?」
「アタシ、そういうのいいや。お留守番してるよ」
「あら。じゃあ私もサーニャと一緒にお留守番してますわ。あ、そうだ、サーニャ。市場に美味しそうなケーキ屋さんがあったでしょ? そこでケーキを買って食べましょうよ」
「いいね、それ!」
「というわけでお任せしてもいいですか?」
「ああ。わかった。すまんが二人はゆっくりしていてくれ」
「「はーい」」
「よし、リズ。さっそく服を買いに行こう」
私とリズは急いで市場に向かい、それなりの服を選ぶ。
私はスーツのような服と革靴を買い、リズはどこぞの商家のお嬢さんが普段着にしていそうなドレス風のワンピースとパンプスを購入した。
夕暮れの町を急ぎ足で宿に戻り、夕飯と風呂を済ませる。
夕飯の時も、
「あー、どうしよう。貴族様を相手にするなんて初めてだから緊張しちゃうよぉ」
と不安そうに言うリズをなんとかみんなで励ましたが、私も、
(そうだよな。いきなり取引先の社長を前にプレゼンしろって言われたようなもんだ。緊張するなって方が無理だ。それにこっちの世界は身分制があるからな……)
と思い緊張してきてしまった。
翌朝。
少し睡眠不足で起き、スーツっぽい服に着替える。
もう少し着慣れないものかと思っていたが、自分的にはなんとなくしっくりくるような感じを覚えた。
(うーん。前世でサラリーマンだったからだろうか?)
と妙なことを思いつつ、部屋を出る。
食堂にはもうすでにみんなが集まっていた。
軽く朝の挨拶を交わし朝食をとる。
リズはパッと見の背の小ささもあり、本当にどこぞの商家の令嬢っぽく見えている。
(やっぱり服が違うだけで、人の印象ってのは変わるもんだな……)
と思っているとサーニャが私の方を見て、
「アレン、それ、変」
とあんがい真顔で首を軽く傾げつつそう言ってきた。
どうやらサーニャ的には似合っていないということのようだ。
私は、
「仕事着なんだからしょうがないだろ」
と苦笑いで受け、いつものように大口でトーストをかじる。
そして食後のお茶を飲んでいると、宿の女将さんが、
「お迎えですよ」
と告げに来てくれた。
「じゃあ、行ってくる」
「はい。いってらっしゃい」
「がんばれー」
そんな軽い挨拶をして緊張しながらいかにも高そうな馬車に乗る。
馬車は乗り心地もよく、
(こういうのって買ったらいくらくらいするもんなんだろうなぁ)
と妙に庶民的なことを思いながら私とリズは緊張の面持ちで城に向かっていった。
城の敷地に入り、館の裏手に回る。
そこには思っていたよりも小さなしかし十分に立派な門構えの玄関があって、グラニッツさんが待っていてくれた。
「ご足労願ってすまんな」
「いえ。楽しみにしてまいりました」
とリズが挨拶を交わす。
「さっそくだが、中に入ってくれ。ああ、ここは御用聞きなんかが使う通用口だから途中台所の前を通るがそこは承知しておいてくれ」
それを聞いて私は、
(通用口でこの立派さか……)
と改めて貴族のすごさを感じた。
メイドが忙しそうに動き回る台所の前を通って城内に入る。
すれ違うメイドにこちらも会釈をしながら歩いていると、
「控えの間だ。お茶でも飲みながらしばらく待っていてくれ。準備が整い次第呼びにくる」
と言ってグラニッツさんがまるで高級宿の一室のような場所に通してくれた。
(すげぇ。完全に格が違う……)
そう思ったのは私だけでは無かったようだ。
グラニッツさんがいったん去ると、リズが、
「どうしよう。思ったよりすごいよ」
と泣きそうな顔でそう言ってくる。
私は、少し落ち着けとばかりにリズの肩に手を置くと、
「こうして控えの間ですら豪華にすることによって自分の方が格上だと見せつけているんだ。いわば貴族の見栄というやつだな。だからまずは落ち着け、空気に飲まれ過ぎるな」
となるべく優しく声を掛けた。
すぐにメイドがやって来てお茶を振舞ってくれる。
振舞われたお茶はまるで早春の草原を思わせるような爽やかな香りで私の心をそっと落ち着けてくれた。
「これ、たぶんすっごい高いやつだよ」
とリズが目を見開く。
どうやらまだ気圧され気味のリズに対して私は、
「高いお茶が飲めてよかったな。せっかくだからゆっくり堪能させてもらおうぜ」
とやや冗談を交えいつもの感じで軽く返した。
やがて扉が叩かれる。
「準備が整った。実務的な話になるだろうから、応接室ではなく執務室で直接話を聞きたいそうだ。かなり略式になるが理解してくれ」
グラニッツさんはそう言って少し申し訳なさそうな顔をしたが、こちらにとってはさらに圧倒され、緊張しなくていい分、好都合だ。
私がそう思っているとリズも同じようなことを思ったらしく、
「いえ。その方がお互い実のあるお話ができていいかと思いますよ」
と先ほどまでの緊張はどこへやらといった感じの余裕の表情でそう答えた。
グラニッツさんの案内で控えの間を出る。
そして、一見質素に見えつつも各所に施された彫刻が見事で分厚そうな扉の前に立つと、グラニッツさんが丁寧に扉を叩き、
「行商人リズとアレンをお連れしました」
と声を掛けた。




