おっさんA、西の町の冒険者の実情を知る02
「やったね!」
そう言ってハイタッチを交わしているリズとサーニャのもとに行き私も軽くハイタッチを交わす。
そこへマイもやってきたので、私たちはさっそく解体作業に取り掛かった。
「グレートバイソンなんて久しぶりだからちょっと緊張しちゃったよ」
というリズに、
「ああ。俺もだ。しかし、この辺の森じゃこういうのがうじゃうじゃいるっぽいな」
と言うとリズは少しおどけたような感じで、
「そりゃおっかないね」
と言って笑った。
やがて夕闇が迫るころになってようやく解体が終わる。
「けっこう遅くなったからステーキでいいか? Tボーンを焼くぞ。ソースはがっつりニンニク系だ」
「やった! ステーキ大好き! 厚切りでお願いね!」
そう言って子供みたいにはしゃぐサーニャを微笑ましく思いながらがっつりステーキを焼く。
辺りに肉の焼けるいい匂いとニンニクが焦げるたまらない匂いが漂いみんなのお腹をきゅるきゅる鳴らさせた。
みんな満点の笑顔で食事を終え、お茶にする。
平原で寝転び見上げる空にはこちらも満天の星が輝いていた。
翌日。
さっそく帰路に就く。
帰りも何か魔獣と接敵してしまうだろうという予測の下で行動していたが、やはりオークの集団とかち合ってしまった。
幸い五匹ほどだったので、なんとか勝利し、肉を取って帰路に戻る。
そして、そろそろ中層を抜けようかという所で、
「ぬわぁっ!」
という叫び声を聞いた。
「戦闘中らしい。一応様子を見に行ってみよう!」
少し慌ててそう言うと、さっそく声がした方に走り出す。
息を切らして走っていくと、そこにはスラグゴーレムに囲まれている若手冒険者の姿があった。
スラグゴーレムというのは、泥や礫が固まった、大人よりやや背が低いかというほどの人型の魔獣で、一匹一匹はたいしたことがない。
しかし、集団で人を襲う性質があるので、囲まれてしまえば厄介だ。
そんな魔獣、三十匹ほどに四人の若者が囲まれている。
私は、
(この状況はまずい! このままじゃ大けがになる)
と判断し即座に助けに入ることを決断すると、
「マイ。牽制の魔法でこちらに注意を向けてくれ。リズはマイの護衛。サーニャはとにかく向かってくるやつをぶった切ってくれ。その隙に俺が救出に向かう!」
とやや早口で指示を出した。
「「「了解!」」」
気合のこもった返事でさっそくマイが魔法を放つ。
その魔法でスラグゴーレムの注意がこちらに向いた。
サーニャが切り込むことによってできた隙を利用し、私が群れの真ん中に突っ込んでいく。
私はとにかく、最小限の手数でまず若者たちのもとに行くことを優先し、スラグゴーレムの間を駆け抜けていった。
群れの中心に飛び込み、若者に襲いかかろうとしていたスラグゴーレムを斬る。
硬い物を打った時の感触がして、私は思わず、
「ちっ!」
と舌打ちを漏らした。
(力押しは効かない。関節の弱い場所を狙って、正確に刀を入れろ)
自分にそう言い聞かせつつも若者をかばって時折無茶な斬り方をする。
しかし、さすがはエドバンさんお手製の黒鋼の刀ということもあり、なんとかスラグゴーレムの猛攻を跳ね除けることができた。
戦況が落ち着いたのをみて、サーニャたちの方を見る。
あちらもどうやら無事乗り切ったようで、サーニャが相変わらずの豪快な一撃をかますとそこで勝負の行方が決まった。
私が最後に残った二匹のスラグゴーレムを腕のしびれを感じつつもなんとか斬り、その場を収める。
そして私はやや呆然とした様子でへたり込んでいる若者四人に、
「大丈夫か?」
と声を掛けた。
「あ、は、はい」
ハッとしてそう言った若者に手を貸し立ち上がらせる。
「とにかく、落ち着ける場所まで移動しよう。もう少し頑張ってくれ」
私たちはぐったりとしている若者をゆっくり先導してその場を離れた。
やがていい感じに見晴らしのいい草地に出たところで、若者たちを座らせる。
私はすぐにお茶を淹れ、若者たちに振舞った。
「ありがとうございます」
そう言ってお茶を飲む若者たちの様子をみる。
どうやら新人に少し毛が生えた程度の年齢らしい。
しかし、その装備にはけっこうな傷みがきている。
盾もへこんでいるし、防具には大きな傷が入っていた。
(この分じゃ剣も刃こぼれしているんだろうな)
と思いつつ、少し落ち着いた様子の若者たちに、
「中層に来るのは初めてなのか?」
と聞くと、若者は少し恥ずかしそうに顔を伏せつつ、
「いえ。三回目です。今回は少し油断をしてしまって……」
と言った。
「依頼は達成できたのか?」
と念のため確認してみると、
「あ、はい。半分以上は。でも、まだ薬草採取が残ってて。それじゃぁギリギリ暮らしていけるくらいにしかならなくて……。若手が受けられる依頼なんてどれも安いから」
と悲しそうな顔をする。
私は少し気の毒に思いつつも、
「その依頼は諦めて帰るんだな。その装備の状態じゃこの中層は危険すぎる」
と冷静な判断を伝えた。
「でも、それじゃぁ……!」
一人の若者が抗議してきたが、私の目を見た瞬間、スッと言葉を飲み込んだ。
「気持ちはわかるが、大けがをしたら元も子もないぞ。悪いことは言わん。ここはいったん引き上げて態勢を立て直すんだ。装備もできれば新調した方がいいだろう。西の町で装備が高いことは知っているが、この際中古でもなんでもいい。そのへこんだ盾や傷の入った防具よりはマシになるだろうからな。あれだけのスラグゴーレムを相手にしたんだ、剣も刃こぼれしたんじゃないか?」
なるべく優しい口調でそう問いかけると、若者たちは表情を暗くし、顔をうつむけてしまった。
「どうやら西の町での新人冒険者ってのはつらい思いをしているらしいな。ここ最近、町の様子を見ていて気が付いたよ。しかし、どんな仕事も最初の苦労は付き物だ。今度からは無理をせず着実に道を歩んでいけばいい。そうすればきっと未来は開けるさ」
気休めかもしれないと思いつつそう言葉を掛ける。
若者たちはうつむいたまま、
「……はい」
と力なく返事をしてくれた。
やがて若者たちに行動食を食べさせ、少し体力が回復したのを見て別れる。
おそらく帰ってくれるだろうと思いつつも、私は少し心配してその背中を見送った。
「けっこう厳しいんだね」
サーニャが悲しそうな声でつぶやく。
私はなんとも言えない複雑な気持ちでその言葉を聞くと、
「若者には明るい未来を見て欲しいものだな」
と返した。
やがて、私たちも少し歩き野営にする。
その日はなんとなくしんみりした空気でシチューを食べ、食後のお茶の時間になった。
「あの子たち無事、帰ったかな?」
「ああ。おそらく大丈夫だろう。しかし、最終的には自己判断だな」
「西の町で冒険者やるのってけっこう厳しいんだね」
「ああ。新人のうちは苦労するだろう。競合も多いし、武器も高いからな。しかし、それを乗り越えた一部の中堅以上や上級になれば話は変わってくるはずだ。これだけ魔獣が溢れた森がすぐそばにあるんだ。それなりの稼ぎも出しやすくなる。……なんとも厳しい世界だが、それがこの町の現実なんだろう」
「なんだか世知辛いですね」
「ああ。まったくだ。その状況を知っていながらなんともできない自分も少し歯がゆい気がするのは俺の傲慢ってやつなんだろうか?」
「……そんなことはないと思いますけど」
そう言って少し会話が途切れたところで、リズが、
「もしさ。物流の状況が改善したり、新しい武器のルートができたら状況は少しよくなるのかな? 可能かどうかわからないし、かなり時間はかかるだろうけど、商人としてこの現状をなんとかしたいって思っちゃったよ」
と言って私の方を見てくる。
私はその真っすぐな目にハッとさせられつつ、
「ああ。リズならきっとできるさ。時間はかかるかもしれないがな。俺はこれからもできるだけ協力するよ」
と言い、なるべく優しい笑顔を浮かべた。




