おっさんA、西の町の冒険者の実情を知る01
騎士団の訓練場を出て、まずは薬師ギルドに赴く。
この町の薬師ギルドは他の町に比べるとやや立派な石造りの建物で、こぎれいな看板もかかっていたが、中に入るとやはり薬草の匂いが漂っていた。
「アタシ、薬師ギルドに来るの初めてかも」
と言うサーニャに、
「ああ。普通の冒険者は来ないからな。どの町でも俺を含めて数人しか出入りしてなかったよ。でも、そこの掲示板に冒険者ギルドと同じような依頼票があるだろ?」
と告げ、視線を促した先にはかなりの数の依頼票が貼り出されていた。
「へぇ。けっこう多いじゃん」
「ああ。よく知られた薬草の採取は冒険者ギルドにも投げられるが、需要の少ない薬草の依頼はこっちにしか貼り出されない。それに他の産地からの取り寄せ依頼もあるから、薬草専門の行商人が必ず見ていくんだ」
「へぇ。さすが『草取り名人』!」
「ははは。ダテにそれ専門にやってきたわけじゃないからな。というわけでさっそくこの森で取れそうな珍しい薬草の依頼を探してみよう」
「りょうかーい」
そう言ってびっしりと貼り出された依頼票を見ていく。
有名どころの薬草採取もたくさんあったが、私は「サトリアの実」と「ノエラ草」の依頼を選んだ。
「それってなんの薬草なんですか?」
「ああ。サトリアの実はばい菌を殺す力が強いから抽出した液を石鹸に混ぜたりして使うんだ。こっちのノエラ草は腹下しによく効く。どっちもおそらくこの町でかなりの需要があるが、森の奥まで行かないと採れない薬草だから採取してきて喜ばれないことはないだろうな」
「そうなんですね。でも、なんでこの町で需要があるってわかったんですか?」
「ん? ああ、下水だよ。この間冒険者ギルドのそばで露店をやった時臭っただろ? そういう町では腹下しが多いし、ばい菌を殺す石鹸も需要があるもんなんだ。といってもけっこう裕福な人達向けで庶民には手が届かないってのが実情だがな」
そう言って受付に行き、念のためこの町近辺の森でも採れるかどうかを確認してから依頼を受ける。
そして今度は冒険者ギルドに行くと、サーニャの一存でやはり森の奥まで行くグレートバイソン討伐の依頼を受けることになった。
「でへへ。あのお肉美味しいんだよね」
「ははは。しかし、それなりの強敵だぞ?」
「問題無いよ。たぶんリズなら止められるだろうし」
「まぁ、大丈夫だと思うけど……」
「大丈夫だよ。一瞬だけ足を止めてくれれば、すぐに始末するから」
「うふふ。サーニャにかかるとグレートバイソンもただのお肉扱いなのね」
そんな会話をしてさっそく依頼を受ける。
その後私たちは市場に向かい必要なものを買い込むと、いったん宿に戻っていった。
宿の女将に、留守中もしかしたら騎士団から連絡があるかもしれないことを告げ、冒険から戻ってきたらまた部屋をお願いしたい旨伝える。
宿の女将は、快く了承してくれた。
翌日。
さっそく冒険に出掛ける。
森の入り口までは駅馬車があるということだったので、さっそくみんなして乗り込んだ。
同じく冒険に行くのだろう若手の冒険者で満席の馬車に三時間ほど揺られる。
聞けばこの町ではある程度以上の冒険者になると自分で馬車を持つか、乗り合いではない個人の業者に頼んで馬車を出してもらうかするのだそうだ。
私は、
(さすがは、冒険者の多い町ならではの事情だな)
と感心しつつその話を聞いた。
やがて駅馬車が森の入り口の村に着き、さっそく森の中へ入っていく。
最初は若手の冒険者たちと同じ林道を進んでいたが、私たちは途中から森の奥へ向かい、道なき道へと踏み込んでいった。
五日ほど歩き、森の奥に到着する。
ここに来るまでに二回ほど魔獣と接敵した。
内容は十五匹ほどのゴブリンと三匹ほどのオークだったので、たいしたことは無かったが、なるべく魔獣を避けるように歩いていてもどうしても避けられなかった辺りに、この森の魔獣の密度の高さを感じた。
まずは薬草採取をすべく薬師ギルドで得た情報をもとに、群生していそうな場所へと向かう。
私が地図を読み、地形を見ながら進んでいくと、思っていたより順調にサトリアの実がなっている場所に辿り着いた。
「けっこう成ってるね」
「ああ。どうやら当たりを引いたみたいだ。これ片っ端から採っていくぞ」
「「「了解」」」
半日かけてかなりの量のサトリアの実を採取する。
「これだけあれば、数年は困らないだろう。もしかしたら相場が下がるかもしれないから、ばい菌に効く石鹸が少しは安くなるかもな」
「そうなるといいね」
そんな話をしてその日はその場で野営にした。
翌日はノエラ草を探す。
こちらは少し苦労したが、一日かけてなんとか依頼にあった量を確保することができた。
翌日。
さっそくバイソンを探しに動き始める。
半日ほど進み小高い尾根から地形を確認する。
すると事前に冒険者ギルドで情報を得ていた通り、いかにもバイソンがいそうな平原があるのが見えた。
「あそこ、いかにもいそうだね。お肉楽しみだな。アレン、なに作ってくれるつもり?」
「おいおい。それは無事討伐してから考えることだぞ。あんまり油断するなよ?」
「了解。でも、なに作るかは考えといてね」
「ははは。わかったよ」
サーニャとそんな話をしてさっそくその平原を目指す。
先に予測した通り、その日の夕方にはその平原の端に着き、そこで野営をすることになった。
翌日。
さっそくグレートバイソンの痕跡を探し始める。
幸運なのかはたまたこの平原での生息密度が高いのかはわからないが、グレートバイソンの痕跡は割とすぐに見つかった。
しかし、どう見ても群れている。
私はそれを見て少し考え、
「どうやら群れの痕跡みたいだ。グレートバイソンは群れに必ず群れを守る個体がいる。そいつを狙おう。作戦はこうだ。まずマイが遠距離から適当に魔法を放って群れを脅かし、私が突っ込んでいく。で、群れを守る個体を引っ張り出したらリズが突撃。動きを止めたらサーニャが狩る。こんな感じでどうだ?」
という作戦を提案した。
「群れごと殲滅は?」
「そりゃ無茶だ。まぁ、三匹くらいならできなくもないが、今回の群れはもう少し大きそうだぞ?」
「むぅ。いっぱいお肉取れると思ったのに……」
「ははは。統率個体一頭分でもかなりの量になるんだ。がまんしてくれ」
「りょうかーい」
「魔法を放つ位置は私に決めさせてくださいね。適度な威力で脅かせる距離を測りますから」
「わかった。そこは任せよう。リズもそれでいいか?」
「大丈夫。気合で止めるよ」
「よし。じゃあ、さっそく向かおう」
そう話してさっそく行動に移る。
すると一時間ほどでグレートバイソンの群れを発見した。
数は十五ほど。
とてもじゃないが、私の手に負える相手ではない。
(サーニャが無理をすれば狩れるんだろうが、それはさせたくないからな)
そんなことを思いつつ私はみんなに視線を送り、みんながうなずいてくれたのを見て作戦を開始した。
まずはリズを先頭に慎重に群れに近づいていく。
そろそろこちらの存在に気付かれてしまうんじゃないか? というギリギリのところで、マイが、
「いきます」
と言ってくれた。
軽くうなずき、心と体の準備を整える。
そして、マイがいつもより控え目に魔法の矢の雨を降らせると目論見通りグレートバイソンの群れが慌てて逃げ出した。
そこに必死に追いすがる。
すると群れの中でひときわ大きな一頭がこちらを振り返り、角を向けて威嚇してきた。
さっと反転して逃げる。
(あんなのの突撃を食らったらひとたまりもないぞ)
と内心冷や冷やしながら逃げていると、途中でリズ、サーニャとすれ違った。
(助かった)
と思いつつ、振り返って戦況を見る。
いつも通り、
「どっせい!」
というリズの気合の声が響き、サーニャの体が宙を舞った。
空中で器用に一回転したサーニャがその勢いのまま大剣を振り下ろす。
そして、次の瞬間、グレートバイソンの巨体がゆっくりと地面に倒れ伏した。




