おっさんA、西の町に着く04
大通りを行き、城下町に入る。
そこは下町とは違い、かなり閑静な雰囲気で、行き交う人もどこかきっちりした服を着ていたり、一目でどこかの使用人とわかるような人が多かった。
そんな町をいそいそと歩いているといかにも分厚そうな扉をつけた立派な石造りの門が見えてくる。
グラニッツさんが門番になにやら告げると、その重たそうな扉が「ギギギ……」と音を立て、中からゆっくりと開けられた。
「こっちだ。そろそろ休憩の時間だからちょうどいいだろう。さっそくみんなに見せてやってくれ」
そう言われてついていき、大きな倉庫のような建物に入る。
そこはいわば室内訓練場といった感じでおそらく敵を模したのであろう板を数枚並べて立てたものや、木剣などの訓練用具が整然と置かれていた。
「おい。みんな。連れてきたぞ」
グラニッツさんが大きな声で言うと、それまで訓練をしていた十人ほどの騎士たちが手を止め、こちらにぞろぞろと近寄ってきた。
「行商人のリズと申します。みなさま。本日はどうぞよろしくお願いいたしますね」
リズがにこやかに声を掛け、さっそく魔法鞄から剣と盾、弓を取り出す。
「どれもドワーフの里で職人が手掛けた逸品です。どうぞお手に取ってご覧になってください」
そう言うとさっそく騎士たちが剣や盾を手に取り、弓の具合を確かめ始めた。
「うん。やっぱりいいな。頑丈そうだし、重心の位置がちょうどいい。おそらく長く使っても疲れないだろうな。今まで使ってた剣とは大違いだ」
「ああ。こっちの盾もいいぞ。取り回しがしやすいようにちゃんと計算されているから乱戦にも対応できそうだ」
「弓もなかなかですよ。高級品ほどじゃないですけど、持ち手の部分が丁寧に作られているから、現場向きだと思います。これで料金は?」
そう聞かれたリズが、すかさず、
「弓は金貨一枚です。剣と盾はご存じかもしれませんが、剣が金貨一枚と小金貨五枚。盾が金貨二枚と小金貨一枚ですね。長く愛用していただけるお品ですから、大変お買い得ですよ」
といかにも商人らしいにこやかな顔でそう答える。
騎士の一人が少し嬉しそうな顔をしながら、
「ちょっと待っててくれ、今財布を持ってくる」
と言うとみんなこぞっていったん引き上げていった。
「ふぅ。なんとかなったな……」
安心したようにつぶやくグラニッツさんに、
「ありがとうございました。おかげでいい商いができましたわ」
とリズが言うと、グラニッツさんは、少し困ったような顔で、
「今日のことはくれぐれも外に漏らさないでくれ。一応、規則違反だからな」
と苦笑いを浮かべつつそう言った。
ややあって騎士たちが戻ってくる。
しかし、その顔に喜色は無い。
むしろ青ざめていて、どこか引きつっているようにさえ見えた。
(ん? どうしたんだ?)
一瞬、ドキリとしながら騎士たちの方をよく見る。
するとその騎士たちの後から、周りの騎士たちよりも明らかに立派な服を着た壮年の男性がこちらにやってくるのが見えた。
「だ、団長!?」
グラニッツさんが思わず声を裏返しながら叫び、ビシッと背筋を伸ばす。
「グラニッツ。話は聞いたぞ」
「はっ! 申し訳ございません!」
「……まぁ、気持ちはわからんでもない。確かに私たちが使っている武器はその耐久性に問題を抱えているし、特に訓練用の武器は消耗が激しいからな。しかし、規則に従ってこの町の治安を守るのが騎士の仕事だといつも言っているな? その騎士が規則を守らなくてどうする」
「……。申し訳ございません」
「今回の件は軽率だったな。これからはちゃんと事前に相談するように」
そう言った団長がリズに視線を向ける。
「この騎士団を預かっているコルニエルだ。今回は世話になったな」
「いえ。知らなかったとはいえ、規則を破ってしまったようで大変申し訳ございません」
「いや。おそらくグラニッツに大丈夫だと言われたんだろう。それはいい。しかし、ここで商売をするのはなしにしてくれ」
「かしこまりました。商品は回収させていただきます」
「……ああ、しかしその前に私にも見せてもらえるか?」
「え? ああ、はい。どうぞ、お手に取ってご覧ください」
「うむ」
そう言ってコルニエルさんが剣と盾を手に取りスッと構える。
その構えはなかなかどうして堂に入ったもので、私は、
(この人、きっと現場が長かったんだろうな。構えが熟練のそれだ)
というような感想を持った。
ひとしきり試し終わったコルニエルさんが、武器を置き、
「なるほど。たしかにいい武器だ。みんなが持ちたくなるのもわかる」
と言いリズを見る。
リズは、それにもにこやかな表情で、
「はい。ドワーフの里で質と価格の両方が上手く釣り合ったものを厳選して仕入れてまいりましたので、商品には自信がございます」
と答えるとついでに、
「私も昔は騎士をしていたので、特に盾にはこだわりましたわ」
と言った。
その言葉を聞いて団長の顔が少し変わる。
「ほう。元は騎士だったと? それがなぜ行商人に?」
団長が興味津々という感じでリズに聞くと、リズはこれまたにこやかな顔で、
「はい。私は防御特化型でしたので、主に兵站を担当しておりました。そこで商売の面白さに気付き、この道に飛び込んでみる決意をしたんです。今になって思えば、ずいぶん無茶なことをしたものだと思っておりますわ」
と簡単に自分の経歴を披露した。
「そうか。で、その冒険者たちは?」
「彼らは護衛です。といっても仲間という性格の方が強いですが。今では冒険と商売を半々といった形でこなしながら旅を進めております」
「そうか。それはなかなか面白い集団だな」
「ええ。おかげ様で退屈することなく旅をしております」
「はっはっは。そうか。今日の詫びと言ってはなんだが、この商品、上に少し掛け合ってみよう。とりあえず、私の権限と任された予算の範囲で剣と盾と弓、それぞれ一つずつ購入して見本にするから、それだけは売ってくれ。ちなみに、この町にはどのくらい?」
「まだ決めてはおりませんが、のんびりしていくつもりです。それこそこの後少し冒険をしようかと話していたところですから」
「なるほど。おそらく二十日前後かかるだろうから、すまないがのんびり待っていてくれ」
「かしこまりました。近隣の森で魔獣でも狩りながらお待ちしております」
「わかった。連絡はグラニッツに言えばつくか?」
「はい。宿も変えるつもりはありませんので、その宿に言付けていただければ」
「了解した。ちなみに、ドワーフの里とのコネはどのくらいあるんだ?」
「町の職人を束ねるような存在の人とつながっています。それに場合によっては大商会にも話を聞いてもらえる立場にありますからたいていのご相談には乗れます」
「そうか。わかった。では、今日のところはこれで引き上げてくれ」
そう言われ、剣と盾、弓を納入し代金をもらって訓練場を後にする。
門のところで、送りに出てきてくれたグラニッツさんが、
「すまん。変なことになってしまった。まさか、団長がいるとは思わなくてな……」
と謝ってきたが、リズは、
「いえ。おかげでこちらの騎士団とつながることができましたから、こちらはなにも損をしておりません。むしろお礼を言わねばならないくらいです。本日はありがとうございました」
と言い、丁寧に礼を言い、私たちはその場を後にした。
「うっひゃぁ……。まさか団長さんとつながれるなんて驚いたね!」
「ああ。幸運だった」
「よくわかんないけど、あのじいさんなかなかやるっぽかったね」
「うふふ。上手くいくといいですね」
「ああ。とりあえず冒険者ギルドと薬師ギルドを回ってみるか。二十日くらい時間を使えそうな依頼をさがそう」
「やった! 冒険だ!」
そう喜びの声を上げたサーニャが先頭を行き、リズとマイもなにやら楽しげについていく。
私も、
(さて。どうなるかな? まぁ、仮にこの話が上手くいかなかったとしても、この先やりようはいくらでもある。のんびりいこうぜ)
と自分に言い聞かせつつ、みんなの後をついていった。
のんびりした風が吹き抜け、私の背中を優しく撫でていく。
私はなんとも穏やかな気持ちで、
「なんとかなるさ」
とつぶやいた。




