おっさんA、西の町に着く03
「ダメっぽいね」
「ああ。それでも行ってみるか?」
「うん。店の雰囲気とかも覗いてみたいしね」
「そうだな。敵情を知ることはなにも損にならん」
リズとそんな話をして宿に戻る。
そして翌日。
私たちはさっそくそのギルベルト商会とやらに行ってみた。
「こんにちは。私リズと言って武器の行商人をしている者なのですが、お店の責任者さんはいらっしゃいますか?」
「……私が店長ですが?」
「それは失礼いたしました。私ドワーフの里から買い付けてきた武器を扱っておりまして。それで、是非、このお店にもご紹介させてもらいたいと思ってやってきましたの」
「なるほど。ギルドの紹介状は?」
「残念ながらございませんが、やはりそれではダメでしょうか?」
「ええ。よそ者はお断りしておりますね」
「品質の高い武器をお値打ち価格でお出しできるのですが」
「さっきも言いましたが、よそ者と取引はできません。この町にはこの町のやり方があるんです。この町に順応できないんだったら他で商売することですね。品物には自信があるんでしょ?」
そう言われてさすがのリズも食い下がる余地がないと諦め店を後にする。
「けんもほろろ、って感じだったね」
「まさしくそうだったな。おそらくこの町も歴史上いろんなことがあって、この形に落ち着いてるんだろう。しかし、あまりにも硬直的な印象は受けたな」
「都会ってこんなものなのかな?」
「ああ。どこも似たり寄ったりだろうぜ」
「うーん。となると次から少し商売の仕方を考えないといけないね」
「そうだな。なにか突破口になるようなことがあればいいが……。まぁ、とにかく今は地道に実績を積んでいくことだな」
「だね。くよくよしててもしょうがないや。今日のお昼はパッと豪勢にステーキでも食べに行こうよ!」
そう言ったリズの言葉に、さっそくサーニャが反応し、
「ステーキ! アタシ、大盛りにするからね!」
と言ったところで私たちはまた笑顔に戻り、適当なステーキ屋を探すため、飲食店の多い市場の方に戻っていった。
食後。
場所を喫茶店に移してリズと軽く商売の話をする。
「ところで在庫はどのくらいあるんだ?」
「盾が十五。普通の剣が二十三。弓が十五でナイフは五だね。ギルドに卸すには少し多いかな?」
「ああ。全部は買い取ってもらえないだろうな。盾が十、剣が二十で、弓もおそらく十くらいだろう。ナイフは一、二本がいいとこなんじゃないか?」
「なるほど。私の読みもだいたいそのくらい。残りは近隣の町のギルドに持ち込んで売りつくすしかないね。いやぁ、しかし、ナイフはこんなに売れなかったかぁ……」
「ミスリル入りで金貨二枚の高級ナイフなんて上級冒険者か貴族でもない限りそうそう買わんさ。まぁ、ものがいいから、そのうち買い手もみつかるだろう。腐るものじゃないしかさばらないから、じっくり売ればいいさ」
「そうだね。さっきチラッと見た感じだとギルベルト商会は高級品をあまり扱ってなかったみたいだし、おそらく近隣の町もそうだろうから、地道に一本ずつ売っていくよ」
「だな。じゃあ、さっそく冒険者ギルドに話を持ち込むか?」
「いや。あの宿に連絡してくるかもしれないっていう人がいたでしょ? 一応、待ってみたいから、今日と明日は他のことをしようよ」
「そういえばそうだったな。じゃあ、今日は市場を散策してめぼしいものを見つけてみよう。で、明日は食料品なんかの買い足しと、なにかあればその仕入れって感じでどうだ?」
「うん。実質骨休めだね」
「ああ。のんびりこの町を楽しませてもらおう」
計画を決めたところで店を出て、さっそく市場の散策を始める。
近隣の村で取れた野菜や果物はかなり充実していたし、それに新たな発見として古着を取り扱う店がけっこうあることに気が付いた。
「やっぱりこの町の人ってものを大事にする傾向にあるんだね」
リズが感心したように言うのにうなずいて適当な古着を手に取ってみる。
たしかに着古した感じではあったが、丁寧に修繕され、綺麗に洗われており、なるほどこれなら十分着られるなという印象を持った。
次の日。
朝食の後、ちょっとした作戦会議をする。
「この町で仕入れるとすると新品の服より古着かな?」
「うーん。難しいところだな。新品の服はおそらく買い手を選ぶからそれほど量は捌けない。だとしたら古着だが、古着の市場もどうやら縦横のつながりが強そうだから新規参入は難しそうだぞ?」
「だよね。どうせ服を仕入れるなら繊維産業の盛んな土地や王都に近いところで最新のものを揃えたほうがいいし、この町で仕入れる利点が少ないね。となると、この町で何を仕入れたらいいか……」
「そうだな。仕入れるとすれば近隣の村で消費される日用品や薬になるだろう。しかしそれでは他の行商人とばっちり競合してしまうから、利が薄い。他の地域に持っていったら高く売れそうな産物がこの町にあればいいんだが」
「あるとしたら魔獣の素材くらいかな?」
「だな。しかし、それも冒険者ギルドが根っこを握ってるだろう。ドワーフの里との取引が実現すればきっと面白いことになるだろうが、残念だ」
そんな話で結局行き詰っていると、そこに宿の女将さんがやってきた。
「お客さんですよ。騎士のグラニッツさんとおっしゃってますが、なんでも露店で声を掛けた人とのことで……」
それを聞いたリズがすぐに商売人の目になり、
「お呼びください。すぐにお話を聞きます」
と言って女将にその人をこちらに呼んできてくれるよう頼む。
私は、
(ああ、やっぱり騎士さんだったか)
と思いつつ、そのグラニッツという人が来るのを待った。
「すまんな。突然押しかけて。この町で騎士をしているグラニッツだ」
そう言うグラニッツさんは先日とは違い、きっちりした騎士団の制服に身を包んでいる。
リズはそれを見ても顔色一つ変えず、むしろにこやかに、
「いえ。とんでもございません。こちらこそご足労をかけました。行商人のリズです。さっそくですが、剣や盾を追加でお買い求めいただけるので?」
とさっさと本題に入った。
「ああ。そのことなんだが、ちょっと面倒というか、なんというか。とにかく、一度騎士団の訓練場に来てもらいたいと思ってお願いに来たんだ」
「訓練場ですか?」
「ああ。昨日の訓練でさっそくあの剣と盾を使ってたら、仲間も関心を持ってな。で、良ければ買いたいと言い出したんだ。本来、騎士団が使う武器は特定の商人から買い入れたものを使っているんだが、どうにもそれが激しい訓練をしているとすぐ壊れてなぁ。それに辟易していたものだから、私は私費であの剣と盾を買ったというわけなんだ。本来なら正式に申請をあげて予算を取ってから注文を出すという流れを無視した形になるから、本当はいけないんだ。しかし、みんなも同じような悩みを抱えていたから、飛びついてこられてしまった。すまん。その辺の責任は私が取るから、よければ一緒に騎士団の訓練所にきてくれ」
その話を横で聞いていた私は、
(ほう。ここの騎士団はそんな事情を抱えてたのか。これは思わぬチャンスだぞ)
と思って少しワクワクしながら、
「リズ。いいお話だと思うぞ」
と軽く告げる。
それにリズはしっかりうなずき、グラニッツと名乗った騎士に、
「こちらは少し準備をすればすぐにでもうかがえましてよ」
とにこやかに答えた。
「ほんとうか? 助かる。いやぁ、団長の目を盗んで部外者を訓練場に入れるとなると今日が絶好の日なんだ。なにしろ団長が城に上がって事務仕事をする日だからな。すまんが、急いでいこう」
という話でさっそく準備に取り掛かり、急いで宿を出る。
私はなんとなく期待できそうな雰囲気に、わくわくした目を隠さないリズを少しだけ苦笑いが混ざった目で見つめながら、いそいそとグラニッツさんの後をついていった。




