おっさんA、西の町に着く01
リザードマン騒動が落ち着き、町を発つ。
商業ギルドが出すことを決めた急ぎの荷の中には薬の他、近隣の村が生産した食料品などが積まれていた。
今回は急ぎの旅ということで荷馬車に乗せてもらい、街道を西に進んでいく。
例の湿地帯を通る時はかなり緊張したが、結局リザードマンの襲撃はなかった。
隊商の代表を務めるのはコッヘルさんという老齢の商人で、なかなかどうして元気な人だという印象を受ける。
「まだまだ若い者には負けませんよ!」
と言って豪快に笑う姿には老いの影など微塵も感じなかった。
(俺も見習わないといかんな)
と密かに思いつつ、そんなに元気なのはやっぱり食い物に気を付けているからなのか? と聞くとコッヘルさんはややきょとんとした顔をしたあと、やはり豪快に笑って、
「はっはっは! そんなもん、好きな物を食って、好きな酒を好きなだけ飲めばいいんですよ!」
と言い放つ。
私は、
(なるほど。その自由で細かいことを気にしないのが元気の秘訣なのかもな)
と思い、なんとなく羨ましいような感じで、コッヘルさんを見た。
そんなコッヘルさんとの旅は急ぎということもあり三日で終わり、西の町の立派な門を無事くぐる。
「世話になったな。帰りも気を付けて帰ってくれ」
「なに。トカゲの一匹や二匹、どうってことありませんよ」
「いや。そういう油断が危ないんだ。ちゃんと護衛を雇って帰ってくれ」
「はっはっは。わかりましたよ。アレンさんがそう言うならそうしましょう」
「ああ。帰りの荷は町の人の生活を支える重要なものなんだ、くれぐれも安全に運んでくれ」
そんな別れの言葉と握手を交わし、私たちはようやく西の町での活動を開始することになった。
「ここまでけっこうかかったね」
「ああ。なんだかんだ寄り道したしな」
「でも、楽しかったですわ」
「うん。チーズが美味しかった!」
そんな話をしつつ宿を探す。
宿はいくつかあったが、これからしばらくこの町で商売をすることを考え、町の端まで行き、小規模だがゆったり泊まれる、前世の記憶的にいう民宿のような感じの宿を選んだ。
「いらっしゃいませ。四名様で二部屋ですね。ちょうど空いておりますから、大丈夫ですよ。今、隣の町との街道に魔獣が出てしまったとかで交易が止まってしまっていてお客さんが少ないんですよ」
と少し苦笑いで言う女将に、
「ああ。その問題なら解決したぞ。もう四、五日もすれば元通りになるはずだ」
と教えてやる。
すると女将はびっくりしたような顔で私たちを見てきた。
「討伐戦に参加したんだ。無事敵の大将をやっつけたからそのうち元に戻るって話だ」
「まぁ。そうでしたか。それは良かった。魔獣のおかげで冒険者さんの移動も少ないし、行商人さんも来ないから、もう、どうしたものかと思っていたところだったんですよ」
「うふふ。よかったですわね」
「ええ。本当にようございました。では今日はお祝いにちょっと豪華な夕飯にしますね」
「いいの? そんなことしてもらっちゃって」
「ええ。ちょっとした感謝の気持ちですよ。今日はうちの自慢の料理、たんと召し上がってくださいな」
「やった!」
喜びの声を上げるサーニャにつられ、みんな笑顔になったところでさっそく部屋に入る。
私は一人部屋で久しぶりにゆっくりすると、まずは風呂で旅に垢を落とした。
楽な服に着替え、さっそく宿自慢の料理とやらをいただきに食堂に向かう。
なるほど、料理自慢というだけあって、料理はどれも美味しくどこか優しい味付けがされていた。
「この鳥の丸焼き、美味しい!」
「こっちのグラタンもいいね」
「お野菜が新鮮だからモリモリ食べられちゃいますね」
「ああ。どれもありきたりな料理だが材料もいいし仕事が丁寧な印象だな」
そんな話をしながら美味しく料理をいただく。
食後、お茶を淹れてもらってゆっくりしながら、明日からのことを話した。
「とりあえず、武器を冒険者ギルドに卸すか?」
「うーん。それでもいいけど、その前に実際の声が聞きたいかな? だから、商業ギルドに行って二日か三日くらいの期間で露店の許可をもらおうと思うんだよね」
「なるほど。西の町の需要を探るってことか?」
「うん。もちろんそれもあるけど、一番はお客の声が聞きたいってところかな? 若手冒険者のお財布事情だったり、中堅冒険者の細かな要望を聞きたいね。この先もちゃんとお客さんに届く商品を仕入れたいからさ。それに、そうやって露店でお客さんと話してると思わぬ情報が入ってきたりするかもしれないじゃん? なんていうか、それが商売の面白いところだって思ってるところもあるんだよね」
「なるほど。了解だ。じゃあ、明日はさっそく商業ギルドに行こう。ちなみに、マイとサーニャはなにか希望があるか?」
「うーん。私は特にないですけど、サーニャちゃんは?」
「今のところはないか? でも、商売が終わったらまた冒険したくなるかも」
「わかった。じゃあ、当面はリズの商売を手伝って、落ち着いたらまた冒険って感じでいいかな?」
「「「はーい」」」
そんな感じで明日からの方針が決まったところで、各自寝床に向かう。
私は、ベッドの上で、軽く目を閉じ、
(さて。今度の商売はどうなることやら)
と思いつつ、少しワクワクした気持ちでゆっくりと眠りに落ちていった。
翌朝。
さっそく商業ギルドに行く。
受付は意外と空いており、どうやらここではまだ街道封鎖の影響が残っているようだった。
(たぶん明日あたりから一気に混雑することになるんだろうな)
と思いつつ、リズを先頭に受付に向かう。
「露店の許可を取りたいと思っているんだけど、条件を聞かせてもらえますか?」
そうにこやかに切り出したリズに受付嬢は、少し胡乱げな目を見せつつ、
「はい。一番短い期間は、三日で小金貨二枚です。十日なら小金貨五枚になりますよ。場所は空いているところから選んでもらえますが、人気の場所はすでに抑えられていますので、市場の端の方になります」
と事務的に答えてきた。
「なるほど。そうですか。一番冒険者ギルドに近い区画はどこですか?」
「それなら市場の一番西の端ですね。あまり人気の無い区画ですから、開いてますよ」
「なるほど。じゃあ、そこにしたいんですけど、人気が無い理由を教えてもらっても?」
「冒険者ギルドの周辺には下水が通ってますから、生鮮品や食料を扱う人は敬遠してるんです。あと、気の荒い冒険者を避けたいっていう思いもあるらしいですね」
「そうですか。わかりました。冒険者ギルドに一番近い区画を三日間借ります。売るのは主に武器ですから」
「かしこまりました。手続きしますので少々お待ちください」
そう言って下がっていく受付嬢の背中を見送りながら、リズが、
「ちょっとやな感じ……」
とつぶやくように言う。
私は苦笑いしつつ、
「きっと私生活でいやなことでもあったんだろう。大きな町じゃよくあることさ」
と冗談を言った。
そんなことを言いつつも、内心、
(この町の経済規模は大きい。前世でも大企業ほど硬直体質になりがちだったが、おそらくこのギルドもそんな感じだろう。杓子定規で融通が利かない。そんな雰囲気を感じるな。となると、おそらく商業ギルド相手に商談を持ちかけるのは得策じゃなくなる。やはり武器は冒険者ギルドに直接卸すか自分たちで売り先を見つけた方がいいだろうな)
というようなことを考えていた。
やがて、書類が用意され、小金貨二枚を払って併設された倉庫に行く。
そこで、一日大銀貨一枚の一番簡素な屋台を借り、それを引いて市場の西の端へと向かっていった。
隣も、その隣も空いている場所にポツンと店を出す。
「やっぱりちょっと臭うね」
「ああ。いかにも下町って感じの匂いだ」
「私ちょっと苦手かもです」
「そう? アタシは平気」
「マイはどこかに避難しておくか?」
「いえ。我慢できないほどじゃないので、大丈夫ですけど、たまには離れたいかな? って感じはします」
「じゃあ、交代で休憩を取ることにして、順番に店番をしよう。この感じならあまり混雑はしないだろうしな」
と言っていたが、実際にはぽつぽつとではあるが途切れなく客が来た。




