おっさんA、緊急討伐に参加する01
カナイ村を出て西を目指す途中。
小さな町に立ち寄る。
「さっそく商業ギルドでチーズフォンデュのレシピとカナイチーズを売り込もう! あんなに美味しいんだから、絶対売れるよ!」
と意気込むリズを先頭に商業ギルドに行くと、なにやら受付で商人らしき集団が受付嬢に詰め寄っていた。
(おいおい。穏やかじゃないな……)
そう思って仲裁に入ろうとしたら、
「なんとか冒険者ギルドにかけ合って護衛付きの隊商を組んでくれ! なんとしてもこの機会に西の町まで行かなきゃならないんだ!」
「ああ。今なら薬を高値で捌ける。薬師ギルドにも掛け合って薬を大量に卸させてくれ。こんな商機を逃しちゃいられんぞ!」
「そうだ! この混乱の中、西の町まで行ければそれなりの儲けが出る。それに薬が無くて困る人間だっているだろ? こんな機会、商業ギルドとして逃していいのか?」
「そんな……。今はそれどころじゃ……」
「ああ、もう! お前じゃ話にならん。ギルマスを出してくれ!」
というなんともあさましい話が聞こえてきた。
困る受付嬢に迫る商人という構図についムカッときつつも、軽く息を整え、
「おい。どうした? 揉め事の解決なら請け負うぞ?」
としゃしゃり出る。
「なんだ、お前!?」
そう言って睨んでくるいかにも神経質そうな顔をした商人に、
「通りすがりの冒険者だ。今、薬を高値でさばくとか言ってたが、そいつはあんまり感心しねぇな。おたくらも商人の端くれなら、人の命で儲けるような真似はよした方がいいんじゃないか?」
と落ち着いた声で正論をぴしゃりと叩きつけた。
「なっ!? 偉そうな口を叩くな。何様のつもりだ!」
「ただのしがない冒険者様だ。そっちが何様か知らんが、何かの混乱に乗じて人の命に関わる薬を高値でさばこうなんざ商人として恥ずかしくないのか? そんなに金が欲しけりゃ護衛に頼らず自分たちの足で向かえばいい」
「なっ!? ……いや、冒険者と言ったな? どうだ? 今なら西の町までの護衛で一人金貨一枚出すぞ? 相場の倍だ」
「ふっ。残念だが、他を当たってくれ」
「なにっ!? 冒険者風情が雇い主である商人に、そんな偉そうな口を叩いていいと思ってるのか!」
「なにが偉そうな口だ! この世界の安全を担っているのは紛れもなく冒険者だぞ? そんなことも忘れて商人が偉いと思っているなら大間違いだ。もう一度、職に貴賎なしって言葉の意味を考え直せ!」
と最後はあまりのことに少し語気を強める私に睨まれ、その商人が、
「くっ……!」
と言葉に詰まる。
そこへ、
「はいはい。そこまでですよ。冒険者さん、とりあえず矛を収めてちょうだいな。ノバッツさん。その冒険者さんの言う通りです。こんなに町が混乱している時に自分の商売だけを優先させるなんて恥ずかしい真似、商業ギルドとして許すはずがないじゃないですか。そんな寝言は今晩寝ながら言ってくださいな」
と言いつつ妙齢のご婦人が割って入ってきた。
「なっ!? いくらギルマスとはいえ、ここ十数年、この町の経済を支えてきた私にそんな口をきいていいと思ってるのか?」
「いいと思っているからこんな口をきいているんですよ。なんですか? 言うに事欠いて、この町の経済を支えてきたですって? ただそこの腰巾着たちと一緒に意地汚い商売で小銭を稼いできただけでしょうに」
「なんだと!?」
「いいですか、ノバッツさん。これはこの町の総意です。冒険者ギルドも薬師ギルドも連携してこの事態を乗り切ろうとしています。商業ギルドもその一員です。私は目先の利益より、長い目で見た相場の安定の方を優先させます。それがまわりまわってこの町の経済を発展させることにつながると思っていますからね。ノバッツさんもお分かりでしょ? 今ここで薬を高値で売り捌いたところで、誰もいい顔をしなくなる。下手をすると西の町の商業ギルドにも目を付けられて、伯爵様からおしかりを頂戴するなんてことにもなりかねませんよ? そんなことになって本当にいいんですか?」
そう言ってギルドマスターらしき女性がノバッツと言われた商人に微笑みかける。
そのあくまでも表面的な微笑みは逆に怖さを持っていたらしく、ノバッツと呼ばれた商人は、
「……ちっ! あとでほえ面かいても知らんからな」
と言い捨て、仲間らしき商人を連れ、おずおずと引き下がっていった。
なんとなく場の空気が落ち着き、ギルドマスターと呼ばれた女性が、
「助かりましたわ。冒険者さん」
とにこやかに声を掛けてくる。
「いや。ついカッとなって立ち入ったことをしてしまった。すまんかったな」
と軽く謝ると、そのギルドマスターと呼ばれた女性は軽く微笑み、
「今、この町は冒険者不足に悩んでいます。よければ討伐に参加してあげてくださいね」
と言ってきた。
「ほう。こっちはカナイ村のチーズとそれを使った新しいレシピを売りに来たんだが、それどころじゃなさそうだな」
「ええ。残念ながら今はそれどころじゃありませんわね」
「討伐がどうとか言ってたが魔獣の群れでも出たのか?」
「その通りです。詳しくは冒険者ギルドで聞いていただければと思いますが、どうやらこの先、街道が湿地帯を抜ける辺りにリザードマンの大群が出たようなんです。なんでも統率個体がどうとかという話でずいぶん苦労しているみたいですのよ」
「そいつぁ、ずいぶんな大事だ。で、薬がどうとかって言ってたのは大丈夫なのか?」
「それは正直に言って事態は深刻になる一歩手前と言ったところですね。実は、その湿地帯が薬草の重要な産地なんです。ラーバンゴケという苔の名前を聞いたことは?」
「ものの本で読んだことがあるな。確か、流行性の胃腸炎に効くんだろ?」
「あら。博識でらっしゃいますわね。ええ。その通りです。西の町で子供を中心にたまに胃腸炎が流行るんです。なので、常に薬の需要はあるんですが、その採取と西の町への道が遮断されてしまっているのが現状ですわね。おそらく薬の在庫もそろそろ少なくなってきているころかと思われますわ」
「なるほど。それは西の町にとっても一大事だな。わかった。微力ながら助けに入ろう」
「ありがとうございます。町を代表してお礼を申し上げますわ」
「なに。こちとら冒険者だ。魔獣のいるところには、商売の種が落ちてるってもんさ」
「うふふ。そうでしたわね。お名前を伺っても? 私はこの町の商業ギルドのギルドマスターをしております、エミリアと申しますわ」
「ああ。俺はアレン。でこっちの獣人の子がサーニャでエルフがマイだ。その三人でそっちのドワーフの行商人のリズの護衛をしながら旅をしてるってわけさ」
「あら、そうでしたの。それでチーズの売り込みでしたのね」
「ああ。落ち着いたら商談に乗ってくれ」
「ええ。ぜひとも」
そう言って軽く情報をもらい、握手を交わす。
リズもしっかり握手を交わし、
「事態が落ち着いたら、カナイ村のチーズとその新しいレシピをぜひ楽しみにしててくださいね」
とちゃっかり売り込んでいた。
さっそく商業ギルドを出て適当な宿をとる。
そして、私たちは冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドに入り、そこに冒険者が少ないことを気にしながら、さっそく受付で詳しい情報を得ようとしたところに、
「すまん、けが人だ! すぐにベッドを用意してくれ!」
と叫んで冒険者風の男性が、同じく冒険者らしい女性をおぶって入ってくる。
「とりあえず会議室に運んでください。すぐに治療します!」
そう言って受付嬢が駆け出していったので、私たちは心配しながらも、とりあえず依頼が貼ってあるであろう掲示板の方に向かった。
依頼票と地図を見て、事態の深刻さを改めて知る。
どうやらリザードマンが出たのは西の町へ向かう街道が一本になっている場所らしい。
周りは湿地帯で抜け道もなく、完全に街道が遮断されている状況だった。
それも依頼が出てから二十日近く経っている。
(こりゃ、急がんと事態がさらに深刻になるぞ)
と思っていると、どうやら薬師らしい人がギルドに飛び込んできて先ほどけが人が運ばれた方へ走っていった。
(とりあえず、大丈夫そうだな)
とほっとしつつ、受付のカウンターに戻り、受付嬢が戻ってくるのを待つ。
しばらくすると、少し髪を乱した感じで受付嬢が戻ってきた。




