表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっさんAの異世界冒険譚 ~転生者、詰みそうな町を事業計画で立て直す~  作者: タツダノキイチ
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/74

おっさんA、村祭りに参加する02

エメンタルチーズに驚きつつ、

「なぁ。もしかしてこのチーズ、鍋で溶かしてそれに具をつけたりして食ってないか?」

と聞くと、チーズを売っていたご婦人が「?」という顔になる。

「ああ、いや。そんな料理がどこかにあるって本で読んだことがあってな。それで聞いてみたんだが、違ったようだ」

と咄嗟に言い訳すると、そのご婦人は笑顔で、

「よくわかりませんけど、聞くだけでも美味しそうな料理ですね」

と笑顔で応じてくれた。

「ああ。たしか作り方は簡単だったはずだぞ。白ワインを少し沸かしてそこに細かく刻んだチーズにコーンスターチをまぶしたものを入れて溶かすんだ。そうするとドロドロのチーズスープみたいなものができるから、それに好きな具材をつけて食べるんだそうだ」

「あら。それは本当に簡単ですわね。今度うちでやってみようかしら?」

「ああ。おススメだ。ちなみに、最後は米かパスタにソースを絡めてしめると全部美味しくいただけるぞ」

そんな話を聞いたリズが、

「それ。ちょっと詳しく教えてもらっていい?」

と勢い込んで聞いてくる。

「ああ。詳しくもなにもさっき言った通りで、そう難しい料理じゃないが……」

と答えると、リズはかなり真剣な表情で、

「それ。流行りそうな予感がするわ。この村だけじゃなく近隣の村にもレシピを伝えればこのチーズの販路が広がるわよ。ああ、おばさん、ちなみにこのチーズっていくら?」

と店のご婦人に値段を聞いた。

「え? ああ、一塊なら小金貨一枚で、半分に切るなら大銀貨三枚ですね」

「安っ。この塊私が一抱えするくらいあるじゃん」

「ええ。重さもぎっしりありますから、ちょうど学問所に通い始めた子供くらいの重さはありますよ」

「それってけっこうな重さね。ってことは西の町まで持っていけばけっこうな値段で売れるでしょ?」

「うーん。近隣の町ならそれほど問題じゃありませんけど、西の町となると乾き過ぎて少し悪くなるかもしれませんねぇ」

「なるほど。腐るわけじゃないのよね?」

「ええ。でも風味は確実に落ちますね」

「そっかぁ。それで近隣の町までしか販路がないわけね。それなら私たちに商機があるわね。サーニャ、ちょっと来て」

そう言ってリズがサーニャを呼ぶ。

そしてリズは、店のご婦人に、

「このチーズの塊五つもらえる? 安心して魔法鞄があるの」

と笑顔でそう告げた。

「おいおい。そんなに買って大丈夫なのか?」

心配して聞く私にリズが、

「安心して。もし売れなくてもアレンが料理に使ってくれれば損はしないでしょ? それにさっきの料理。あれ、絶対流行る予感がするのよね。だから、レシピと一緒に近隣の町に持って行って商業ギルドに営業をかけちゃおう! 上手くいけばレシピだけで金貨三枚にはなるし、このチーズの需要が高まればきっと村も潤うはずだよ」

と言い軽くウィンクをしてみせる。

「そんなにか? ていうか、食べてもいないのによくそんなに即決できるな」

「あら。アレンが美味しいって言うんだから、そこは信用してるわ。でも、あとでちゃんと食べさせてね。だって聞いてるだけでも美味しそうだったんだもん」

「ははは。わかった。次の野営の時にでも作ろう」

「やった!」

と話している私たちの横からサーニャが、

「はい、はい! 私も食べたい!」

と目を輝かせながら話に入ってきた。

「うふふ。私も食べてみたいですから、早く作ってくださいね」

結局マイもそう言って早々にみんなにチーズフォンデュを食べさせてやることが決まる。

その後も私たちは祭りを楽しみ、昼にはお目当ての「クルッツ」をたっぷり食べた。

(やはりラクレットだったな。あの濃厚なチーズのもったりとした口触りがたまらなかった。それに新鮮な野菜と質のいい肉が合わさるんだから不味いわけがない。そりゃサーニャが三回もお代わりするわけだ)

そんな感想を抱きつつ、食べ過ぎて少し張った胃の辺りをさする。

そして、私たちは腹ごなしに村が一望できる高台まで行くと、そこでゆっくりお茶を飲みながら村の景色を楽しんだ。

「いい村だね」

「ああ。長閑なもんだ」

「やっぱり美味しいは正義だよ!」

「まぁ。サーニャったら。でもそれってけっこう真理かもしれないわ」

「そうだな。美味い飯があるところに争いは起きにくい。きっとこの村は平和なんだろう」

「あはは。なんともアレンらしい言い方だね。でも、それもまた真理かもね」

そんな話をしながらのんびりする。

ゆったり流れる白い雲と澄み渡った青空。

そして、どこまでも続く緑の草原と爽やかな草の匂いに包まれ、私たちは心からのんびりした時間を過ごした。

夕暮れ。

村に戻ると、なにやら華やかな服を着た一団とすれ違う。

女性は黒地に色鮮やかな花の刺繍が施されたスカートに白いレースをあしらったエプロンを着け、頭には花の髪飾りをたくさんつけていた。

男性も山高帽のようなものを被り、やはり黒地に花柄の刺繍をしたベストを着ている。

(なんだろうか?)

と思っていると、側にいた子供が、

「お母さん、早く! 踊り始まっちゃうよ!」

と言った。

「踊りがあるみたいだね。見に行こうよ!」

「いいわね。楽しそう!」

「あはは。そうだね。行こうか」

そう言って私に視線を送ってくる三人に微笑んでうなずき、その華やかな一団の後をついて行く。

その一団は村の中央広場に入ると、これまた花飾りを施した三メートルほどの櫓を中心に輪を作り始めた。

笛と太鼓を持った一団が入って来て、軽快な音が響き始める。

すると男女が手を取り合ってゆっくり回りながら軽いステップを踏み始めた。

「ほう。見事なもんだな」

「ええ。とっても綺麗ですね」

「なんか楽しい音楽だね! こっちまでウキウキしちゃう」

「サーニャ。混ざっちゃだめだよ」

「えー。どうしよっかなぁ」

そう話して笑顔で踊りの輪を見つめていると、そこに村長のヘイゼルさんと五人ほどの男性が、酒樽と思しきものを積んだ荷車を押してやってきた。

「さぁ、振舞い酒ですよ!」

ヘイゼルさんの掛け声を合図に男たちが酒樽を下ろし、どんどんワインを配り始める。

もちろんサーニャも喜んで行き、大きなジョッキになみなみと注がれたワインをもらっていた。

「乾杯!」

あちこちから歓声が上がり、酒盛りが始まる。

私たちもご相伴にあずかり、気がつけば村人の輪の中に入っていた。

「お! 姉ちゃん、いい飲みっぷりだね! さすがは冒険者さんだ」

「お肉もたくさんあるから食べてね」

「いただきます!」

「あはは。食いっぷりもいいや!」

さっそくサーニャが持ち前の明るさで村人の笑顔を誘う。

私たちもそれにつられて楽しく酒を飲み、美味しい肉に舌鼓を打った。

「楽しんでいただけているようですな」

隣にやってきたヘイゼルさんが笑顔で声を掛けてくる。

「ああ。ちゃっかり飲ませてもらっているよ」

そう笑顔でジョッキを軽く持ち上げつつ答えると、ヘイゼルさんは嬉しそうに、

「この村を気に入ってくださってありがとうございます」

と笑顔でそう言ってきた。

「いい村だな」

「ええ。チーズくらいしか特産のない小さな村ですが、みんな穏やかでいい人間ばかりです」

「そうだな。平和でなによりだ」

「ええ。本当になによりです。私はこの村に生まれ育ったことを誇りに思っています」

「いいことだ。自分の故郷を誇りに思うことは、簡単なようでけっこう難しい。みんななにかしらの想いを持って故郷を出て行くわけだからな。しかし、村長が自然にそう思えるということは、この村が本当の意味で豊かだからだろう」

「ええ。これからもそんなみんなの居心地がいい村であり続けることを願っていますよ」

「そうだな。またいつか来よう」

「ええ。その時も是非、お待ちしておりますよ」

そう言ってヘイゼルさんが心底嬉しそうに微笑む。

私はそのまっすぐで純粋な微笑みに、若干の照れ笑いを浮かべつつ、ヘイゼルさんとジョッキを合わせた。


翌朝。

少し二日酔い気味で起き、旅の支度を始める。

のんびり朝食をとり、宿の女将に礼を言って私たちはまた旅の空に戻っていった。

「いい村だったね! また来ようよ!」

「ああ。飯も酒も美味かったからな」

「ええ。それに長閑でとっても美しい村だと思いましたわ」

「あのチーズ、また仕入れに来ようよ。あれ、絶対流行るから」

「そうだった! ねぇ、アレン。今晩は例のチーズの鍋にしてね?」

「ああ。わかった。たっぷり作るから今日は早めに野営地を探そう」

「やった!」

「あらあら。二人とも子供みたい」

「ははは。美味しいものは人に童心を思い出させるもんだからな」

「うふふ。そうかもしれませんね」

そんな楽しい会話が晴れ渡った空に溶けていく。

私たちはただ楽しみだけを胸に西へと続く街道を進んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ