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おっさんAの異世界冒険譚 ~転生者、詰みそうな町を事業計画で立て直す~  作者: タツダノキイチ
第二部

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おっさんA、村祭りに参加する01

西の町へ向かう途中の田舎道。

突然、道端で一頭の羊が草を食んでいるのに出会う。

(え? 羊? どういうことだ?)

そう思って驚くがよく見るとベルのついた革の首輪をしているから、おそらく飼われている羊なのだろう。

そう思って近づくと羊は呑気に、

「めぇ~」

と鳴いた。

マイがニコニコしながら近づき、

「あらまぁ。人懐っこい羊さんですねぇ。どこから来たんですかぁ?」

と声を掛け、羊を軽く撫でる。

羊は相変わらず、

「めぇ~」

と鳴き草を食み始めた。

「どっかから逃げてきちゃったのかな?」

「うーん。地図だと近くに村があるらしいから、そこじゃないか?」

「だとしたら、放っておくのもなんだね。とりあえず連れて行ってみる?」

「うーん。大人しくついてくるならいいが、羊はそんなに人に慣れるものなのか?」

「あら。それなら大丈夫ですよ。私、動物に好かれることに関しては自信がありますから」

「マイにそんな特技があったとはな。まぁ、いい。とりあえず連れていけるところまで連れて行ってみよう」

「はーい」

そんな感じでのんびり歩く羊を連れ、細い田舎道を歩いていく。

するとやがて、一台の荷馬車が道端に止まっているのが見えてきた。

荷台に柵がついているからおそらく家畜運搬用のものだろう。

(ああ、ここから逃げてきたのか)

私はそう直感しつつ、その荷馬車に近づいていく。

見れば荷馬車はぬかるみにはまり立ち往生しているようだった。

横には困った様子でしゃがみ込む年配の男性がいる。

「じいさん。困りごとか?」

気軽に声を掛けると、その男性は立ち上がり、

「ああ。これはいいところに。馬車がぬかるみにはまってしまったんです。よければ手伝ってもらえませんか?」

と少し早口にそう言ってきた。

「ああ。かまわんぞ。ちなみに、あの羊も?」

「おお。連れてきてくださいましたか! ありがとうございます。ええ。馬車が止まっている間に逃げてしまって諦めていたところでした。本当にありがとうございます」

「いや。たまたま通りすがっただけだ。そんなに頭を下げんでくれ。で、馬車だったな。おーい、リズ、サーニャ。手伝ってくれ」

「「りょうかーい」」

軽く返事をしてくれるリズとサーニャにも手伝ってもらって、私たちは少し手こずったが、なんとかその馬車をぬかるみから引き上げることに成功した。

「ふぅ……。これで一安心だな。しかし、車軸が不安定になっている。これじゃあ速度は出せないだろうな。今度こそ馬車が壊れかねん」

「ええ。しかし、目的地はこの先の村なので、そこまでなら持ってくれるでしょう。なに、人の歩くくらいの速度でゆっくり行っても今日中に着くでしょうから、大丈夫です」

「へえ。そうか。それならちょうどいい。その村まで一緒に行かないか? 時間的にこの先の町へは夕方までにたどり着けないだろうから、俺たちもその村で一泊させてもらうよ」

「それは、それは。村長として歓迎いたしますよ。ちょうど明日から村祭りですから、お時間があれば、ぜひ楽しんでいってください」

「なっ。村長さんだったのか」

驚きつつ見るが、言われてみれば確かに、ただの村人にしては口調が丁寧だし、こぎれいな恰好をしている。

「ええ。申し遅れました。私、この先のカナイ村で村長をしております、ヘイゼルと申します」

ヘイゼルと名乗ったその老人に対して私は少し気まずそうに苦笑いを浮かべながら、

「そうか。俺はアレン。しがない冒険者だ。で、こっちの獣人の子がサーニャでエルフがマイ。その三人でそっちのドワーフの行商人リズの護衛をしながら旅をしているってわけさ」

とこちらも自己紹介をした。

「さようでございましたか。それならばなおのこと村祭りを堪能していってください。祭りでは村の特産品であるチーズの市が開かれます。いつもよりお得に買えるんですよ」

「ほう。そいつはいいな。リズどうだ?」

「うん。チーズならどこにでも需要があるし、きっと西の町でも高値で取引されると思うよ」

「ええ。西の町でも我が村のチーズは評判ですから、きっとそれなりの値段で売れることでしょう。同時にチーズ料理の屋台も出ますから、食べ歩きも楽しめますよ」

「そうなんですね。じゃあ、決まりでいいかな?」

「ええ。他の村のお祭りなんて初めてだから楽しみだわ」

「美味しいチーズ、たらふく食べようね!」

「まぁ、サーニャったら」

そんな話でカナイ村に行くことが決まる。

私たちはのんびり進む馬車について歩いていった。


やがて簡素な柵の間をくぐり、カナイ村に入る。

「本来なら我が家にお招きしたいところですが、祭りに合わせて娘たちが家族を連れて帰省してきておりますものですから、家の中が少しばたついております。大変申し訳ございませんが、宿へご案内いたしましょう」

やや申し訳なさそうにいうヘイゼルさんに、

「いや。久しぶりの家族水入らずを邪魔するほど野暮じゃない。宿を紹介してもらえるだけで十分さ」

と答え、私たちは宿に入った。

いかにも田舎風のロッジのような造りの宿で一泊し、朝を迎える。

窓の外に広がる柔らかい日差しを浴びて輝く牧草地帯を見、その草の匂いを嗅いでいると、妙な懐かしさを感じた。

(うーん。前世でも酪農地帯に住んでいた記憶はないが、なぜだろうか? 妙な安心感がある)

そんなことを考えつつのんびり着替え部屋を出る。

食堂に向かうとそこにはやはりのんびりした様子のみんながいたので、ゆっくり朝食をとった。

宿の女将さん曰く、チーズ市は朝から村の中央広場でやっているらしい。

チーズの販売の他、屋台ではチーズ料理が目白押しで、特にこの時期にしか食べられない肉や野菜、腸詰にたっぷりの溶けたチーズを豪快に流しかけて食べる「クルッツ」という料理が振舞われるのは、村人全員が楽しみにしているのだとか。

「普段はちょっとずつ切って食べるんですけどね、今日は塊のまま炭を入れたコテで炙って豪快に溶かしたのをたっぷりかけて食べるんですよ」

という女将の話を聞き、おそらくラクレット的な料理だろうと想像する。

「美味しそう。早くいこうよ! なくなっちゃう!」

と前のめりなサーニャに、女将が笑いながら、

「あらあら。大丈夫ですよ。みんなが食べられるようにたっぷり用意してありますからね」

と告げるとみんなつられて笑顔になった。

朝食の後、さっそく村祭りの会場に向かう。

村は伝統衣装らしい服で着飾った男女や家族連れでけっこうにぎわっていた。

「行商人っぽいのもちらほらいるな」

「そうだね。ってことはこの村のチーズはけっこういいってことかな?」

「だろうな。わざわざ買い付けに来るくらいだからそれなりに期待できると思うぞ」

「ふふふっ。商売人の血が騒ぐわね」

わざと不敵な笑みを作って見せるリズに苦笑いしつつ、屋台を見る。

屋台にはチーズ以外にも服や小物類、雑貨を扱う店がいくつか出ていた。

(ほう。変わった柄だな。この辺りの伝統なんだろうか? なんとなくドイツとかスイスとかその辺の田舎っぽい感じがするな)

と前世の記憶から曖昧なイメージを思い出す。

私がそんなのんびりした気分で、

「マイ。美味しそうなリンゴがあるよ!」

「あら。本当。でも、今食べたらチーズが入らなくなっちゃうわよ?」

「……うー。しかたない。我慢する」

「うふふ。サーニャは偉いわね」

とまるで親子のような会話をし、楽しそうにしているマイとサーニャの姿に目を細めていると、私の目にまるで漫画やアニメに出てくるような「これぞチーズ」といった見た目のチーズが飛び込んできた。

一瞬にして、世界一有名な、仲良くケンカする猫とネズミを思い出す。

(おいおい。あれってあのチーズだよな)

と驚いていると、横からリズが、

「へぇ。珍しいチーズだね。なんだか表面にぽこぽこ穴が開いてるけど、大丈夫なのかな?」

と聞いてきた。

「さて、どうだろうか? とりあえず食ってみないか? おそらく美味いと思うぞ」

「そうだね。ものは試しに食べてみようか」

そう言って、私は少しドキドキしながら、リズは興味津々といった感じでそのチーズを売っている屋台に近づく。

「ねぇ。このチーズ初めて見るんだけど、ちょっと試食させてもらっていいかな?」

「ええ。どうぞ。この村特産の美味しいカナイチーズですよ」

そんな風に笑顔で紹介されたチーズをひとかけらもらい、さっそく口に運ぶ。

「うん。美味しいじゃん! なんていうかほのかに甘いかな? そんなに癖もないし、ちょっとナッツみたいな香りもするね」

と言って嬉しそうな顔をするリズに、

「ああ。これは美味いな」

と笑顔で返しつつも、私は、

(間違いない。これエメンタルチーズってやつだ。おいおい。まさかこの世界にもあるとは……)

と内心かなり驚いていた。


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