おっさんA、西へ行く03
ギルドよりも先に村に無事討伐が終わったことを伝えにいく。
村長はそれはもう大喜びで私たちを迎えてくれ、その日は村長宅に泊めてもらうことになった。
温かい風呂と心尽くしの料理に舌鼓を打つ。
食事をしながら話を聞くと、ここ一か月以上町との流通が途絶えてしまった影響でかなり物資が不足しているとか。
それに村で作っている野菜も悪くなり、処分せざるを得ないものがたくさん出てしまったということだった。
(生鮮品が悪くなってしまうのは仕方ないが、なにか代わりになるような売り物がないだろうか? このままでは村だけが一方的に損をして終わってしまう)
そんなことを思い、なにげなく、
「この村では何を作っているんだ?」
と聞く。
村長はナスやトマトなどいかにも近郊農業で作っていそうなものを挙げ、最後に、
「あとは秋になったら森に生っているポロックの実を卸すくらいですかね。あれは、食べても美味しくありませんが、風呂に浮かべるといい香りがするんでごく少量ですが、売れるんですよ」
と少し寂しそうな苦笑いでそう言った。
「ほう。ポロックの実が採れるのに、栽培はしてないのか? あれの栽培は簡単だし、生成して油を取ればいい香りの香油が作れる。石鹸や洗髪剤に混ぜると肌や髪がつやつやになる効果もあるから、南の町あたりじゃけっこう需要があるぞ。まぁ、最終的にどうするかの判断は村長の決断によるが、香油なら腐らないしかさばらないから輸出商品としてけっこう優秀なものになる。おそらく薬師ギルドに詳しい方法を教えてくれと頼めば製造工程も丁寧に教えてもらえるはずだから参考にしてみてくれ」
と軽く情報を伝えると村長が驚いたような顔をする。
その顔を見て私は、
(ああ、これで少しは村に希望が見えただろうか?)
と思うと、少しだけ安心して村長夫人ご自慢の「のっぺい汁」なる汁物をすすった。
村を後にし、町に戻る。
さっそくギルドに依頼達成の報告をすると、
「これで村に物資を運べます! ありがとうございます!」
と受付嬢が大袈裟なくらい喜んでくれた。
(この受付嬢、かなり人がいいんだな)
と思いつつ金貨二枚という多くも少なくもない報酬を得て、その日は宿に戻った。
翌日。
宿の食堂でのんびり朝食後のお茶を飲みながら、
「ねぇ。あの盾、使ってみた感想は?」
と聞いてくるリズに、
「なかなか良かったぞ。バグベアの投石はかなり正確で鋭かったが、びくともしなかった」
と正直な感想を伝える。
その話を聞いたリズは、少し考えるような素振りを見せながらも、
「じゃあさ、それギルドに持ち込んでみようか? ギルマスの意見次第だけど、いくつかなら卸してもいいしさ」
と言ってきた。
「そうだ。じゃあ、さっそく行ってみるか」
という話になりさっそく実際にバグベア戦で使った盾や他の仕入れた武器を持ってギルドに向かう。
ギルドを訪ねるとさっそく昨日の受付嬢を探し、
「やぁ。ちょっと話があるんだが、ギルマスさんは空いてるか?」
と声を掛けた。
「え? ギルマスですか? えっと、なにか問題でも……」
「いやいや。誤解させてすまんかった。いや、うちはこのリズが行商人をやってるんだ。で、この間ドワーフの里でたんまり武器を仕入れてきたから、この町でもほんのちょっと卸してみたいと思ったのさ。それについてギルマスの意見を聞いてみたくてな。ちなみに、ギルマスは元冒険者がやってる感じか?」
「そうでしたか。ええ、うちのギルマスは元A級冒険者だった人ですよ。確か前衛だったとか言ってましたね」
「そうか。じゃあ、時間があるかどうか聞いてきてくれないか?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
そして本当の少々しか待っていないうちに受付嬢が戻ってくる。
「興味があるから見せて欲しいとのことです。ご案内しますので、こちらにどうぞ」
そう言われてカウンターの中に入ると、事務室のようなところを抜け、ギルドマスターの執務室と思しきところに入っていった。
「おう。武器を卸したいそうだな」
「ああ。俺が冒険者のアレンだ。で、こっちが冒険者仲間のマイとサーニャだ。三人でこの行商人のリズの護衛をしてもらっていると思ってくれていい」
「そうか。俺はギルマスのエリックってんだ。よろしくな。で、その武器ってのは?」
「それは私から説明しますね。武器はかなりの種類があります。どれもドワーフの里で職人から直接仕入れてきた逸品ばかりですよ。ただ、この町で卸せるのはせいぜい数個です。本命は西の町での商売ですから。ただ、ここで冒険者でもあったギルマスの意見をお聞きして、冒険者の本音を探りたいと思って伺いました。」
「なるほど。それは正直なこった。でも、その方がこっちも助かる。この町じゃ武器はそれほど高くないが、良質のものとなるとけっこう数が限られてくるのが現状だな。さっそく見せてくれるか?」
「ええ。どうぞ。この盾は実際に先日のバグベア戦で使ったものです。けっこうな数の投石を受けてますが、へこみがないのがわかってもらえますか?」
「おう。俺も盾にはうるさいほうだからよくわかるぜ。なるほど。わりといい盾だ。中級から上級に一歩足をかけたくらいの冒険者にはうってつけだろう。で、値段は?」
「卸値で金貨一枚と小金貨五枚ですね」
「なるほどな。ってことはギルドが正直商売で冒険者に安く売るとしても金貨二枚ってところか」
「そのくらいになるかと」
「他には?」
「黒鋼を使った剣もありますが、それは卸値でも金貨五枚はしますからおそらく上級者向けですね。こちらに卸すとなると、普通の鋼鉄製の剣になります。卸値で金貨一枚ですから、けっこうお得ですよ?」
「だな。この町で活動してる若手に黒鋼は高いしもったいない。そのくらいの剣が欲しいってくらいの実力者になりゃ自分でドワーフの里に買いに行くだろうから、その鋼鉄の剣で十分だろう」
「こちらは三本までなら卸せます」
「なるほどな。それならこの町の武器商の邪魔にもなんねぇからいい数だろう。で盾は?」
「はい。盾も三つなら。それに弓矢とナイフもありますよ」
「弓矢とナイフはこの町の武器商が得意にしてるから、あまりギルドがちょっかいを出したくねぇ。今回の取引は盾と剣だけだな」
「かしこまりました。性能を見ますか?」
「おう。訓練場があるから、試させてくれ。ああ、アレンっていったか? 見た感じそれなりに使えそうだから、軽く相手をしてくれや」
「ははは。お手柔らかにお願いしますよ?」
「おう」
商談はわりと簡単にまとまり、さっそく訓練場に赴く。
そこで私は売り物の剣を構え、盾を持つエリックさんと対峙した。
さすが元A級というエリックさんの圧に少しだけ怖気づきながら剣を振る。
私がそれなりの力で振った剣は、当然、あっさりとエリックさんに受け止められてしまった。
そのままエリックさんが盾を押してくる。
(うぉっと……)
私は少し体勢を崩し、後ろによろけてしまった。
「もう少し本気でいいぞ」
と余裕の表情で言ってくるエリックさんに苦笑いしつつ少し本気でいく。
ガツン!
剣と盾がぶつかる音がして、お互いがにらみ合うような形になる。
私はそこでさっと退き、横合いから軽く隙を突くように剣を振った。
それに合わせてエリックさんが盾を突き出してくる。
また剣と盾が音を立ててぶつかったところで、エリックさんが力を抜いた。
「なるほど。取り回しの良さもよく計算されているな。それにその剣もなかなかだ。おそらく軸がしっかりしてるんだろう。けっこうな打撃だったぜ。中堅どころまでのやつらにならぴったりだ」
そう言ってエリックさんがリズの方に向かい、右手を差し出す。
リズはちょっとよそ行きの笑顔でその握手に応じると、そこでめでたく商談成立となった。
事務的なやり取りをしに再びギルドマスターの執務室に向かう。
そこで、エリックさんから耳寄りなことを聞いた。
「西の町を統治してる伯爵様が兵士を募集してた。どうやらお国の指示で魔獣討伐隊を増強するらしい。俺ら冒険者にとっちゃ商売敵みたいな存在になっちまうが、冒険者が敬遠しそうな魔獣を中心に討伐していこうってことであっちのギルドと話がついているらしいぜ」
「なるほど。そこに武器の需要がある、というわけですね?」
「ああ。もちろんあっちにもお抱えの武器商がいるだろうから簡単じゃねぇが、それなりの品質なら勝ち目があるかもしれんぞ?」
「ありがとうございます。せいぜい食い込めるように努力いたしますわ」
「ふっ。まぁ、頑張ってくれ」
そんなことを話しながら書類とお金のやり取りが終わり、リズとエリックさんが再び握手を交わす。
私たちは無事、ギルドを後にすると、ギルドを出た瞬間、リズが、
「お貴族様相手の商売かぁ……」
とつぶやいた。
「乗り気じゃないのか?」
「ううん。ただ、本当にこの武器を必要としてくれている所に卸したいと思っているからさ。もし、飾りだったり、人のためにならない使い方をされるんだったら売りたくないと思ってね」
「うふふ。いかにもリズらしい考え方ね」
「ああ。正義を重んじる商人の考え方だ」
「やだなぁ。褒めてもなにもでないよ?」
「アタシ、商売のことはよくわかんないけどさ。せっかくドワーフのおっちゃたちが苦労して作った武器なんだから、ちゃんと使ってくれる人に売りたいよね」
「そうだな。ドワーフの職人魂を真に必要としている場所に届けるのも商人の務めだ」
「そうだよね。まぁ、とりあえず自分の目で見てみないことにはよくわかんないことも多いし、さっそく西の町にいって商機を伺っちゃおう!」
「ああ。今度もいい商売になるといいな」
「うん! みんなこれからもよろしくね!」
最後はリズの明るい笑顔がはじけ、みんながハイタッチを交わす。
私もその輪に加わるべく、明るい空に向かって右手を軽く掲げた。
軽く叩き合う手に伝わるわずかな温もりを少しこそばゆく思い、
(これぞ、遅れてきた青春、ってか?)
と苦笑いする。
そんな私の心を他所に、三人の少女たちは無邪気に笑い、私の前を歩き出していった。
三人の背中を微笑ましく見つめる。
私はその背中になんとも言えない頼もしさのようなものを感じると、
(さて、次は西の町か。どんなことが待っているのやら。まぁ、おっさんも負けずに頑張りますかね)
と心の中でつぶやき、少し胸が高鳴るのを感じつつ、私はみんなの後を追いかけていった。
私たちの行く先にはまだ見ぬ冒険や商機が待っていることだろう。
これまでの旅で味わったような小さな満足感がこの先もずっと続いていくはずだ。
私はそう思うと一つ深呼吸をし、
「よし。行こうか」
と明るく声を掛け、リズ、マイ、サーニャの前に出る。
「ははは! アレン、やる気じゃん!」
「次の町でもいい商売ができるように期待してますよ」
「うふふ。次はどんな冒険が待ってるのかしら?」
そんなみんなと並んで歩く道の先は、明るい日差しに照らされキラキラと輝いているように見えた。




