おっさんA、西へ行く01
ドワーフの里を出て、ひたすら西に延びる街道を進んでいく。
旅は楽しく順調そのものだったが、あまりにも平和な旅にサーニャが少し退屈そうなのを見て、
「この先に小さな町があるみたいだ。よかったらそこで軽い依頼を受けないか? たまには運動もいいだろ?」
と提案してみた。
「やったね! そうこなくっちゃ!」
意外と大きく喜ぶサーニャを見て、
(これからこの四人で活動するなら、サーニャの冒険のこともちゃんと考えてやらねばな。なんだかんだいってサーニャは根っからの冒険者っぽいからな)
と思いつつ、他の二人に視線を送る。
「私もそれがいいと思います。ここ最近ちょっと平和過ぎましたしね」
「うん。無茶な依頼じゃなきゃ私もかまわないよ」
二人がそう言ってくれたのに少し安心して、
「じゃあ、次の町で冒険だな」
と軽い気持ちで宣言した。
「ねぇねぇ。次の町ってどんな依頼があるかな? 大物? それとも小物の集団?」
「さぁ、どうだろうか? しかし、西に行くほど森は深くなって強い魔獣も増える傾向にある。流通も滞り気味になるのは確かだ。ひょっとしたら大物の依頼があるかもしれんぞ。ああ、そうだ。リズ。仕入れた武器の一部を冒険者ギルドに卸すか、商業ギルドに言って露店でも開かせてもらうか?」
「ん? ああ、そうか。それいいね! 一般の冒険者がどのくらいの価格帯を望んでいるのかとか、ドワーフの武器をどう評価しているのか知りたいし、ほんの一部で実験的に販売してみるのもいいかも。あ、それにどうせ冒険に行くんだったら仕入れた武器をちょっと使って性能評価もしてみようよ。きっと売る時の参考になるからさ」
「よし。じゃあ、決まりな。冒険の次は商売。で、少しのんびりしたらまた旅だ」
「「「おう!」」」
そんなみんなの明るい声に私も気持ちを明るくしながら、歩いていく。
次の町へはその日の午後には到着した。
「さっそく宿を取ってしまうか。荷物を置いたらみんなでギルドに行こう」
そう話して宿を探す。
さすが冒険者の多い西部の町ということもあって、宿は充実しており、私たちはちょうどいい価格帯の宿を見つけると、そこに当面の拠点を確保した。
さっそく冒険者ギルドに向かう。
「どんな依頼があるのかなー♪」
ワクワクしながら掲示板を見るサーニャを微笑ましく思いながら私も掲示板を見たが、そこにはけっこうな種類の依頼票が貼り出されていた。
(グレートリザ―ドなんて大物の依頼もあるのか。なになに? 素材は皮ねぇ。あれけっこう硬いから防具にも使えるんだっけ? 他には……)
そう思いながら依頼票を眺める。
するとサーニャが、
「ねぇねぇ。これなんてどう?」
と私の肩を叩きながら言い一枚の依頼票を指さしてきた。
「なになに……。え? バグベア!? いやいや。これけっこう厳しいぞ? 見た目はただの大きなゴブリンだが、群れるし知能も多少あるからけっこう統率の取れた動きをしてきやがるんだ。俺がひとりなら絶対に受けない依頼だな」
「えー。この四人ならいけるって! それにこの依頼放置されてるっぽいよ?」
「ん? ああ、そういえばそうだな。もう一か月以上放置されてる。……なんか事情があるのか?」
「あのー。とりあえず、その事情っていうのを聞いてみません? もしかしたら町の役に立つかもですよ?」
「ああ、まぁ、マイがそう言うなら、聞くだけ聞いてみるか」
「やったね! 集団相手に大暴れ!」
「いやいや。まだ受けると決まったわけじゃないからな?」
そんな話をしつつ、とりあえず受付に向かう。
さっそくバグベアの依頼についての情報を尋ねると、
「受けてくださるんですか!?」
と受付嬢が前のめりにそう言ってきた。
「いやいや。受けると決めたわけじゃないんだが、放置されているようだから、なにか事情があるのかと思って聞きにきたんだ」
「そうですか……。実はその依頼、二度失敗してるんです。大けがをした人も何人かいますし……。なんでもやたら賢いのが一匹混ざってるみたいで、待ち伏せしたり投石したりしてくるらしいんですよ。で、また悪いことにそのバグベアが巣くってるのがちょうど裏街道を見渡せる位置にありまして……」
「というと、近隣の村の人たちは困ってるだろうな?」
「ええ。何回か野菜を乗せた荷馬車が襲撃されてますし、こちらからも肉や生活必需品を届けられなくて困っているんです」
「そうか。それは早急に対処せねばならんな」
「受けてくださいますか!?」
そうまた前のめりに言われて一瞬怖気づく。
(いくらサーニャがいるからと言ってマイとリズにはちょっと危険な相手だぞ。私も下手をしたらケガをしかねん。そのリスクをどう解消する?)
私がそう考えていると、横からサーニャが、
「ねぇ。受けようよ。村の人困ってるんでしょ? アレンはほっとくの?」
と言われてしまった。
その言葉に一瞬詰まる。
そして、サーニャと受付嬢の圧に挟まれた私に今度はリズが、
「投石なら私が防げるし、伏兵ならアレンが読めるでしょ? 村の流通が滞ってるってのは商人として見逃せないよ。それにもし解決したら、一気に荷運びの仕事が舞い込んできそうじゃん? 私たちも儲かって町と村両方の人に笑顔が戻るんだから、こんなやりがいのある仕事ないよ」
と言ってきた。
最後にマイを見る。
するとマイはにっこり微笑んで、
「魔法、じゃんじゃん打ちますね」
と言ってきた。
苦笑いで軽くため息を吐くふりをしつつ、
「わかった。受けよう。俺も目の前で困っている人を放っておけないからな」
と言って折れる。
「ありがとうございます!」
受付嬢はやや大袈裟に喜び、みんなも、
「いぇーい!」
といいながらハイタッチを交わしていた。
さっそく受付嬢から聞けるだけの情報を聞き出す。
ギルドの酒場の机を借り、貰った地図に目撃地点や巣の位置を落とし込んで行くと、まるで要塞を守るかのような配置で各所に見張りや伏兵が潜んでいる可能性が浮上してきた。
「思った以上に厄介だな……」
「強行突破しちゃおう!」
「いや。それはいくらなんでも危険だ。いくらサーニャでも伏兵に囲まれたらケガをしかねない」
「え? そんなのへっちゃらだよ?」
「いや。目の前でケガをされるのは俺が嫌なんだ」
「アレンってやっぱ優しいね」
「ふっ。それはともかく、この小高い丘の頂上がおそらく敵の中心地だ。俺が指揮官なら絶対そこに陣取る。で、その丘に登っていく道は二通り、なだらかだが、伏兵の多い道か、伏兵が少ない分急な斜面になっている道か、だな」
「急な道を行って裏から急襲するほうが確率があがりますか?」
「ああ。普通はそう考えるだろうな。しかし、二度失敗してるってことは、どっちもそれなりに苦労したってことだろう。おそらく最初は崖から行って思わぬ攻撃にあった。二回目は正面から堂々と行って伏兵に苦労させられたってところじゃないか? だとしたら、俺たちの取るべき道はなだらかな道を行って正面から攻めるほうだ。盾使いのリズと遠距離のマイにとって急な崖の道はつらいから、こちらの強みを十分に生かしきれない。今回は相手の弱みを突くより、自分たちの強みを生かした戦い方にもっていこう」
「「「了解」」」
「で。作戦の成否を決めるのはこの丘の中腹にある天然の堀と土塁っぽくなっている場所を突破できるかどうかだ。リズ、仕入れた武器の中に盾があったよな? それを一つ俺に貸してくれ。おそらくここは投石攻撃がくるだろうから、俺がマイを守って後衛から魔法を放ってもらう。その間にリズとサーニャが一気に攻め寄せて相手の陣地を崩してくれれば勝負はこっちのもんだ」
そんな作戦を立て、具体的に伏兵のいそうな場所に目印をつけていく。
「もちろんこれ以外にもいるだろうから、油断はできないぞ。目標は討伐だけじゃない。ケガをせずに帰ってくることだ」
「「「おう!」」」
最後はみんなして拳を突きあげ明るい表情で会議を閉めくくると、私たちはさっそく明日からの冒険に備えて、市場に買い出しに行った。




