おっさんA、ドワーフと一緒にモノづくりをする08
審査の時間となり、しばらく舞台袖で控える時間になる。
私たちが満足げに笑い合っていると、そこにグルワッツ商会の代表者がやってきた。
「してやられましたね。まさかうちの剣を真っ二つにするとは思いませんでしたよ」
「ふっ。すまなかったな。だが、嫌味じゃねぇぞ。ひと言文句が言いたかったのは事実だが、あのカタナなら大抵の剣はスパッと斬れる。要するに俺は戦場で命を預けられるのが本当の宝物だって言いたかっただけなんだ」
「そのようですね。少し考えさせられましたよ」
「ほう。三代目にそう言ってもらえりゃこっちもやった甲斐があるってもんだ」
「悔しいですが、ドワーフの魂というものを再確認させられました。おそらくうちは大きくなる過程で大切なものを見失っていたんでしょうね」
「そう感じてもらえたんなら十分だ。俺は口下手だから仕事でしか見せられねぇ。すまんが、職人ってのはそういう人種だと思ってこれからはじっくり育ててやってくれ」
「ええ。今回のことは大いなる反省点として経営計画に盛り込ませていただきますよ」
「けっ。難しいことはよくわかんねぇが、お互い自分の信じた道でこれからも頑張っていこうぜ」
「ええ」
そう言ってエドバンさんがグルワッツ商会の代表者と握手を交わす。
その光景を見て、私は、ほっと一安心しながらも、
(ああ、商売ってのは奥が深いものなんだなぁ)
と素直に感じた。
やがて去っていくグルワッツ商会の代表者の背中を見ながら、リズが、
「商売に正解はないのかもしれませんね。ただ、私は自分の信じた正義に従った商売がしたいです」
とつぶやく。
私はそれにうなずきながら、
「ああ。みんなを喜ばせる立派な商人になってくれ」
と言った。
やがて審査結果の発表になる。
私はドキドキしながら見守っていたが、エドバンさんはどこか清々とした表情をしていた。
きっとやりきった充実感の方が強いのだろう。
私は改めて、そこに職人の魂を感じ、心の中でそっと拍手を贈った。
「実用品部門。優勝はグルワッツ商会」
という声に、会場が軽くざわめく。
私は、その結果を特段不思議には思わなかった。
(やはり、軍が使用するなどの前提を考えると、品質を改善し、企業努力で価格低下を実現させたのはかなりの評価になるだろうからな)
と考え、賞状を受け取るグルワッツ商会の代表者に拍手を贈る。
そしていよいよ、宝剣部門の優勝者が発表された。
「宝剣部門。エドバン」
その言葉に会場が湧く。
「すげぇもん見せてもらったぜ」
「ああ。あれこそドワーフの魂だ!」
「おっさん。よく頑張ったな!」
そんな声に照れながらエドバンさんが賞状を受け取る。
エドバンさんは会場に軽く手をあげて応えると、こちらを振り向き、いつものニカッとした笑顔をさらに輝かせながら、
「お前ら。やったぜ!」
と言い、右手を高く突きあげてみせた。
もう一度盛大な拍手を贈り、硬い握手を交わす。
そして、無事大会は終わり、私たちはエドバンさんおススメだという居酒屋に向かった。
「乾杯!」
威勢のいい声でジョッキを合わせる。
「ぷっはぁ!」
と豪快に息を漏らし、
「やっぱ俺はこのために生きてるんだな!」
と満足げに笑うエドバンさんを見ていると、こちらまで嬉しくなった。
「ねぇねぇ、今日は小金貨何枚まで?」
と聞いてくるサーニャに、
「はっはっは! よし、今日は贅沢に金貨一枚だ! ほどほどにジャンジャン飲んでくれ」
と言うとサーニャは耳をぴこぴこ動かし、尻尾を嬉しそうに振りながら、
「やった! お姉さんお代わり!」
とさっそく給仕係の女性にビールのお代わりを注文した。
いい感じに酔ったサーニャがまた踊り、どんちゃん騒ぎで夜更けを迎える。
最後に私たちはまたエドバンさんと硬い握手を交わし、それぞれの寝床へと戻っていった。
翌日。
さっそく目星を付けた武器を仕入れにいく。
昨日の宴会中、リズはちゃっかり各種の武器職人の名前をエドバンさんから聞いていた。
どれも職人の技が詰まった逸品をそれなりの価格で仕入れていく。
中にはまとめて買ってくれたら一割引くと言ってくれた弓職人もいたので、リズは喜んで大量の弓矢を仕入れていた。
その日一日を仕入れに使い、あくる日。
再びエドバンさんの工房を訪ねる。
目的は別れを告げるためだ。
エドバンさんは柄にもなく寂しそうな顔を見せたが、
「おかげで、いい仕事ができた。ありがとうよ」
と言って握手を交わしてくれた。
笑顔で工房を出ようとする私に、
「ああ、そうだ。ちょっと待ってくれ!」
とエドバンさんが少し慌てて声を掛けてくる。
(はて、なんだろうか?)
と思っていると、エドバンさんが、黒い鞘に収まった一振りの刀を私に押し付けてきた。
「礼だ。試作品として作ったやつだから黒鋼だけで希少金属は使ってねぇが、ちゃんと手入れをすれば一生使えるものになってるぜ。是非とも使ってやってくれ」
そんな言葉に胸を熱くさせる。
私は思わず込み上げてくるものをなんとか抑えると、少し落ち着いて微笑みながら、
「ありがとう。心意気は受け取ったよ。でも金は払わせてくれ。それが職人の仕事に対する礼儀だからな」
と言った。
「けっ。言うじゃねぇか。じゃあ金貨一枚だ」
「おいおい。べらぼうに安いな」
「ふっ。それが職人の心意気ってもんよ!」
そう言うエドバンさんにきっちり金を払い、また硬い握手を交わして今度こそ工房を後にする。
「よかったね。アレン」
嬉しそうにそう言ってくるリズに私も微笑みながら、
「今回もいい取引ができたな」
と告げ、石畳の道を軽い足取りで進んでいく。
「ねぇねぇ。最後にドワーフ麺食べようよ! リズ、どっか美味しいとこ知らない?」
「いいですね。じゃあ、とっておきを紹介しますよ」
「それは楽しみ。どっち系? こってり? あっさり?」
「こってりです。ああ、マイさんも喜んでください。辛味調味料入れ放題ですから」
「あら。それは嬉しいわね。山盛りでお願いしちゃおうかしら」
「ははは。ほどほどにしとけよ? でないと元の味がわからなくなる」
「じゃあさ。最初の一杯は普通に食べて、お代わりを辛くしたら? 替え玉って言ってあとから麺だけ注文できるんだよ」
「それはいいですね! そうしましょう!」
そんな話で盛り上がる女子三人を見て、私はなんとなく微笑みつつも、
(こってり系で替え玉か……。大丈夫か? 俺の胃)
と思い、自分の胃の具合を確かめるように腹をさすった。
「ねぇ、リズ。どっちがいっぱいお代わりできるか競争しようよ!」
「そんなの勝てないに決まってるじゃないですか」
「うふふ。サーニャちゃん。ほどほどしとかないと、体の中から豚骨の匂いがしみ出してきちゃいますよ?」
「むぅ。それは悩ましいかも。ああ、でもお腹いっぱい食べたい!」
「あはは! いいんじゃないの? 今日くらい。ドワーフの里の思い出に思いっきり食べていってよ」
「そうだね。そうする!」
そんなみんなの楽しげな会話が町の雑踏に溶けていく。
私はなんとなく青く澄み切った空を見上げ、ふと目を細めた。
本当に体の中から豚骨があふれてくるんじゃないかという量のドワーフ麺を食べきったサーニャが、
「ねぇ、アレン。次、どこ行く?」
と尋ねてくる。
私は少し考える素振りを見せつつ、
「西の町に行くのはどうだ? あっちは鉱物の産出が少ないから武器の需要はかなりあるはずだし、深い森もあるから、冒険の依頼もたくさん出てるだろう。きっと退屈しないぜ?」
と答えた。
「いいね! アタシまたミノタウロスのステーキ食べたい!」
「あはは! ってことは次はミノタウロス狩りで決定だね!」
「あらまぁ。なんだか本格的な冒険になりそうな予感がしますね」
「あんまり無茶しないでくれよ?」
「大丈夫だよ。ミノタウロスの五匹や十匹」
「いや。それは欲張りすぎだ」
「うん。いくらなんでも冒険しすぎだね」
「そう? 冒険者なんだから冒険しなきゃ!」
「うふふ。私も冒険、大賛成ですよ?」
「やった! マイ大好き!」
「……はぁ。仕方ない。でも、せいぜい二、三匹な?」
「はーい」
そう話して店を出る。
私たちは晴れ渡った空の下、その空に負けないくらい清々しい気持ちで西に延びる街道を見つめ、そしてまた旅の空に戻っていった。




