おっさんA、ドワーフと一緒にモノづくりをする07
それぞれがそれぞれの持ち場をこなし、時間が過ぎていく。
エドバンさんは作業場に入り浸りだったが、マイは時々表に出てきて休憩を入れているようだった。
きっとエドバンさんが気を遣ってくれたのだろう。
そんなエドバンさんの優しさを快く思いながら、強壮剤入りのなんちゃってスポーツドリンクを差し入れる。
「ぷはぁっ! なんだこれ? やけに美味ぇな。からっからの体に染み渡っていくみてぇだぜ」
エドバンさんはそう言いながら特製ドリンクをガブガブ飲み、また休まず作業を続けていた。
夜。
ずいぶんと更けてから。
マイとエドバンさんが汗びっしょりで作業場から出てくる。
汗と煤でボロボロになってややふらついている二人に、
「どうだった?」
とややせっかちに尋ねると、エドバンさんがニカッと笑い、
「あとは明日、微調整して研ぎを入れれば完成だ。午前中には終わるだろうから是非完成品を見にきてくれ」
と純粋な少年のような瞳でそう言ってきた。
安心して笑顔で握手を交わす。
(さて。明日が楽しみだ)
そう思いながら私たちは一仕事終えた満足感を胸に宿へと帰っていった。
翌日。
市場で少し時間をつぶしてからエドバンさんの工房に向かう。
「おう。来たか。出来上がったぜ。さっそくだが見てやってくれ」
そうドヤ顔で言ってくるエドバンさんが白木の鞘から剣を抜く。
それは色こそ真っ黒だが、どこからどう見ても日本刀そのものだった。
手に取らせてもらってまじまじ見つめる。
黒光りする刀身はこちらの姿を映すほどきれいに磨き込まれている。
刃は銀色だが、波紋の部分に光が当たるとわずかに虹色の光を放つから、おそらくそれはミスリルの効果だろう。
その刃は恐ろしいほど美しく、思わず魅入られてしまうのではないかというほどの怪しさを放っており、私は思わず息を止めて見入った。
「どうでぇ。色っぺぇだろ?」
「ああ。こんなに美しい刀は見たことがない」
「カタナ?」
エドバンさんに疑問を呈され、
(あ。いかん。つい……)
と思いドキッとする。
私は咄嗟に、
「ん? ああ、物語の中でこういう剣のことをたしかカタナって呼んでたんだ」
と下手な誤魔化しをしたが、エドバンさんはそれをすんなり受け入れ、
「へぇ。そうなのか。じゃあ、こいつの銘は『五つ星のカタナ』で決まりだな」
と自信満々にそう言った。
「五つ星?」
「ああ。このカタナはここにいる五人誰一人欠けても作り出せなかったものだろ? だから五つ星ってつけたんだ。どうだ? かっこいいだろ?」
(いや、やや単純というか、どこか中二っぽいというか……)
と内心思いつつも、思いのこもったいい名前だとは思ったので、素直に、
「いい名前だ」
と答える。
するとエドバンさんは嬉しそうに、
「てへへっ。だろ?」
と言って照れたような笑顔を見せてきた。
さっそくエドバンさんと一緒に大会の事務局を兼ねている職人ギルドに刀を持ち込む。
係のおっちゃんは、
「なんだか変わった形の剣ですね」
と言いつつも、
「では、発表会は明日の午後ですから、遅れないようにきてくださいね」
と言い刀を持って奥に下がっていった。
「ほう。発表会なんてものがあるのか」
「おう。審査員の前で作品の説明をするんだ。町の広場でやるから、けっこう人が見に来るんだぜ」
「へぇ。じゃあ、それも大事な作業ってことだな?」
「おう。ってところでものは相談なんだけどよ。その発表、手伝ってもらえねぇか?」
「私たちがか?」
「ああ。何しろ俺ってば職人一筋できてるからよ。そういうのはけっこう苦手なんだ。なんかいい案を出してくれるだけでもいい。頼む手伝ってくれ」
そう言ってこちらを拝むように見てくるエドバンさんに苦笑いを返し、
「じゃあ、昼飯がてら作戦会議といくか」
と告げる。
「よっしゃ! ありがてぇ。じゃあ、とっておきの定食屋があるからよ。そこで作戦会議といこうや!」
そう言って嬉しそうに歩いていくエドバンさんを見て私たちは苦笑いを浮かべつつ、その後をついていった。
飯を食い終わり、客の少なくなった店内で、さっそく作戦会議を始める。
「あのカタナの特徴をわかりやすく言うとどうなる?」
私がそう聞くと、エドバンさんは自信たっぷりに、
「切れ味だな。おそらく魔獣の硬い骨でもスパッといきやがると思うぜ。あとは頑丈さだな。滅多なことじゃ刃こぼれ一つしねぇように丹精込めて術式を練り込んだから、その辺も折り紙付きだ」
と言ってきた。
「なるほど。じゃあ、それが一番よく伝わるようにすればいいんだな?」
「おう。だが、俺の説明じゃ一分も経たずに終わっちまう。まぁ、それでもいいんだけどよ。おそらくグルワッツ商会の連中はあーだこーだ言って延々と聞こえのいいことを言うだろうから、なんだか負けたような気になっちまうんだ」
「そうか。私が代わりにしゃべるのもおかしな話だ。やっぱり説明はエドバンさん自身がした方がいいだろう。となると、私たちにできるのは……」
そう言って私は自分の考えをみんなに説明し始める。
要するに実演で性能を見せつけてしまおうといういう私の案を説明すると最後にはみんな口々に、
「なんか楽しそうだね」
「うん。すっごくいいと思う」
「うふふ。それならきっと伝わりますよ」
「だな。やっぱ商人さんに頼んで正解だったぜ」
と言ってくれた。
(いや。俺は商人じゃなくて冒険者だぞ?)
と思いつつ、具体案を練っていく。
結局その話し合いは夕方まで続き、店の人に少し煙たがられたが、私たちは笑顔でその定食屋を後にした。
翌日。
グルワッツ商会に寄って小金貨三枚の量産品の剣を購入してからエドバンさんの工房に向かう。
そこでみんなで昼飯を食いながら最終的な確認をした。
いよいよ発表会の会場に向かう。
私は、やや緊張しつつも、
(プレゼンなら前世で死ぬほどやったじゃないか。大丈夫だ。みんながいれば上手くいく)
と考えながら、会場の舞台に立った。
ちょっとしたお祭りくらいの人が集まってきている。
やはりモノづくりの町らしくみんな興味津々のようだ。
私の隣でエドバンさんがカチコチになっているのを見て苦笑いしながら、
「大丈夫だ。思いの丈をぶちまけてくれればそれでいい」
と声を掛けてあげた。
いよいよ発表会が始まる。
まずはグルワッツ商会の代表者がえらく豪華な剣とかなり質素な剣を持って登場した。
「まずはこちらの実用品部門の剣からご紹介いたしましょう」
そう言って説明を始める代表者の話をまとめると、どうやら今までの量産型の剣の質をほんの少し向上させつつ、さらに値段を安くしたということらしい。
(ほう。安値競争の方に舵を切ったのか。それは軍には喜ばれると思うが、長い目でみれば利益を圧迫したり、冒険者からそっぽを向かれることにつながりかねんぞ?)
と思いつつその話を聞く。
そして、話はいよいよ宝剣部門の方に移った。
「この宝剣は貴重なアダマンタイトをふんだんに使用し、精緻な金工細工を施してございます。また、柄や鞘には螺鈿を施し、各種宝石で彩りを加えておりますので、どの場面でも身に着けた方の品格を示してくれることでしょう」
そう言った枕詞に始まり、各所のこだわりを丁寧に説明し始める。
私は、
(ほう。さすがだ。財力のある貴族にはそうとうウケるだろうな)
と思いつつその説明を聞いた。
次に中規模の商会を挟み、いよいよ私たちの番になる。
まずは実用品部門でエドバンさんが特殊な加工で切れ味の落ちにくい剣を発表する。
「これは特殊な加工で切れ味が落ちにくくした剣だ。値段は金貨一枚だから、べらぼうな高さじゃねぇ。むしろ命を預ける武器としちゃぁ安いほうだろう」
と言うと、続いて私がその剣を持ち、リズと一緒に登壇した。
「ごちゃごちゃ説明するのもいいが、とにかく見てくれ」
とエドバンさんが言い私は先に用意した紙を剣でスーッと切って見せた。
「なかなかの切れ味だろ? じゃあ初めてくれ」
そう言われてリズが盾を構える。
私は一呼吸置くと、
「ふんっ!」
と気合を入れてリズの盾を滅多打ちに剣で打ち始めた。
二十回は打ち込んだだろうかという所で、打ち込みを止める。
そして私はまた紙を取り出すと、スーッと切って見せた。
「おぉ……」
と軽いどよめきが湧く。
私はそのどよめきに軽い手応えを感じつつ、いったん舞台袖に下がった。
「次は宝剣部門だ」
そう言われて私とサーニャが舞台中央に行く。
「ドワーフの宝剣っつったら、見てくれじゃねぇ。要は中身だ。俺は渾身の魔力を込めてこの『五つ星のカタナ』と銘打った剣を作った。恐ろしいほどの切れ味を持っている。切ることに特化した剣だが、靭性が強いからちょっとやそっとじゃ折れねぇし、たっぷり術式を練り込んだから滅多なことじゃ刃こぼれ一つしねぇぜ。とりあえず見てやってくれ」
そう言われてまずサーニャが私と同じように紙をスーッと切って見せる。
そしてサーニャは私の方を向くと、私が持つグルワッツ商会製の量産品の剣に向かって刀を振り下ろしてきた。
スパッと剣が切れる。
それを見た観衆は一瞬静まり返ったが、次の瞬間、
「おぉ……!」
「すげぇ。なんだあれ!?」
「おいおい。まじか……。あれならどんな魔獣も一発だぜ」
というような声を上げ、グルワッツ商会の代表者も目を見張っているのが見えた。
「どうよ? これが職人の魂がこもった剣ってもんだ。最近は安けりゃいいとか見た目が豪華な方がいいとかって風潮があるが、本当にそれでいいのか? ドワーフの魂がそれを許しているのか? いいか。武器ってのは命を預けるもんだ。使う方も命がけなら作る方も命がけじゃねぇといけねぇ。そりゃ安けりゃそれにこしたこたぁねぇさ。だが、命を預けられる本物を求めてる人間に職人が本気で応えなくてどうするよ? 俺はそれが言いたくて仲間と一緒にこの剣を作った。これをみたお前らの職人魂に火がつくことを願ってるぜ」
そう堂々と言い切ってエドバンさんが舞台を下りていく。
その後ろ姿に万雷の拍手が送られ、私たちは一様に胸を熱くしながらハイタッチを交わした。




