おっさんA、ドワーフと一緒にモノづくりをする01
エルダートレント討伐という突発的な事態はあったもののその後は順調に旅を進めていく。
サーニャの様子もいつも通りになり、私たちはまた明るい足取りのままドワーフの里に入った。
「うわぁ。なんだか可愛らしい町ですね」
「そう? ああ、もしかしたら建物がひと回り小さいからそう感じるのかも」
「そうですね。たしかに、その辺がいかにもドワーフ仕様って感じで可愛らしくもあるんですけど、建物の見た目がそもそもレンガ造りが多くてどこか異国情緒に溢れている感じがしますから、そういう意味で可愛らしいって感じですね」
「そっか。私は見慣れたものだけど、他所から来た人にはそう映るのかもね」
「ええ。とっても素敵な町です」
「ありがとう」
マイがそう言うように、ドワーフの町の景色は無骨なレンガ造りでありながらもどこか洗練された伝統的な美しさを感じ、そのひと回り小さな作りと相まってどことなく可愛らしいという印象を受ける。
私たちがその物珍しい光景に目をキョロキョロさせていると、リズが、
「とりあえず宿に向かおうよ。ちゃんと他種族向けの大きさで作ってある宿が何軒かあるからさ」
と言ってきたので、私たちはリズについて、その宿へと向かっていった。
無事宿に着き、それぞれの部屋が決まったところで、宿の一階にある食堂に集合し、軽くお茶を飲む。
「とりあえず、職人ギルドっていうのがあるから、そこにトレントの炭を卸しにいこうよ。で、その後は市場で軽く見物でもしてから夕食って感じでどう?」
というリズの提案を軽く了承し、私たちはその職人ギルドに向かうことにした。
午後の買い物で少し賑わう通りを抜け大通りにある職人ギルドに入る。
わりと広いホールのようになっている一階には長いカウンターがあり、その中から「買い取り」という札がかかった場所を見つけると、さっそくそこに向かった。
「いらっしゃいませ。買い取りのご相談ですか?」
「ええ。トレントの炭を大量に手に入れたの。ちなみにエルダートレントもあるわ」
「まぁ! それは大変良い品をお持ちいただきました。お荷物はどちらに?」
「それは心配無いわ。魔法鞄持ちなの」
「さようでございましたか。では、こちらの受付表を持って倉庫の方にお向かいください。そこで数量の確認と査定をいたしますので」
そう言って渡された紙を持って、倉庫に向かう。
するとそこには簡素なカウンターらしきものがあり、「受付」と書かれていた。
「ごめんください。素材の買い取りをお願いします」
リズがそういうと、
「おう。ちょっと待ってな」
という声がして、奥から人が出てくる。
作業着を着ているからきっと、この倉庫の管理人なんだろう。
「受付票を見せてくれ」
と言われたので、リズが先ほどもらった紙を見せると、その男性は、
「なっ!? エルダートレントの炭だと!?」
とけっこう派手な叫び声を上げ、驚きの表情でこちらを見てきた。
「ええ。いくらになります。普通のトレントの炭も大量にありますが」
「あ、ああ。普通のトレントの炭はだいたい一袋小金貨一枚だ。エルダートレントの炭になると一袋金貨一枚で買い取ってるぜ」
「そうですか。じゃあ、まずトレントの炭から出したいんですけど、どこに出せばいいですか?」
「ああ。そっちの空いてるところに出してくれ。どのくらいある?」
「普通のトレントがおそらく十五から二十袋くらい。エルダートレントの炭は数えるのも面倒くさいほどありますよ」
「ってことは一匹まるまるか?」
「ええ」
「そいつぁ、豪儀なこった。よっしゃ。奥にもっと広い場所があるから、そっちで出してくれ」
「わかりました」
そう言って倉庫の奥に行こうとしたところで、
「ちょっと待ってくんな!」
と後ろから声がかけられる。
その声に受付の男性が、振り向くと、そこにはいかにも職人風の格好をした男性が真剣な表情で立っていた。
「おう。エドバンさんじゃねぇか。今日は何を探しにきたんだ?」
「ああ、鉄のいいのはねぇかと思ってきたんだが、そのお嬢ちゃん、エルダートレントの炭が腐るほどあるって言ってなかったか?」
「おいおい。盗み聞きか?」
「そんなこと今はどうでもいい。それって本当なのか?」
「ええ。本当ですよ」
「なっ!? じゃあ、俺にも売ってくれ! 五、いや、三袋でかまわねぇ。少し上乗せもするからよ」
「おいおい。エドバンさん。そいつはルール違反だぜ。ギルドが買い取ったものは市場に流してそこで価格が決められるってのが相場だ。それを曲げちゃいけねぇぜ」
「いや。それはわかってるんだ。しかし、考えてみろ。エルダートレントの炭だぜ? おそらくグルワッツ商会のやつらが高値でごっそり買い占めちまうはずだ。そうなるとうちみたいな零細鍛冶師には回ってこなくなる。頼む。三袋でいいんだ。ここはひとつ目をつぶってくれ。お前もグルワッツ商会のやり口は頭にくるっていってたじゃないか」
「しかし、よう、あそこに睨まれちゃぁ、こっちとしても……」
「頼む。この通りだ!」
「お、おい、よしてくれ。わかった、わかったから頭を上げてくれ。天下のエドバンさんに土下座までされちゃぁこっちも聞かねぇわけにはいかねぇや。ちょっとの間、目をつぶってるから好きに交渉してくれ」
そういう話でなんだかそのエドバンと名乗った男性にエルダートレントの炭を売るというような流れになってしまう。
私はリズに視線を送ったが、リズは困ったような顔で軽く肩をすくめてみせた。
「ということだ。嬢ちゃん。すまんが、本当に三袋でいい。俺にも売ってくれないか? 一袋金貨一枚に小金貨一枚上乗せするからよぉ」
「ギルドが構わないというのであれば構いませんよ。その代わり普通のトレントの炭もついでに三袋買ってください。そっちは小金貨二枚になります」
「なっ……。お嬢ちゃんしっかりしてんなぁ。わかった。金はギリギリだが、それで手を打とう」
「わかりました。じゃあ、残りの分をここで卸してからお店に伺います。お店はどちらですか?」
「ああ。藪小路ってわかるか? そこで鍛冶屋をやってるエドバンって聞いてくれればすぐわかる」
「ああ。あの職人街の小さな路地ですね。わかりました。あとで伺います」
「助かる! 俺はすぐに金の算段をつけてくるからよ。待ってるぜ!」
そう言って急ぎ足に倉庫を出ていくエドバンさんをなんとなく苦笑いで見送ると、私たちはさっそく倉庫の中へと入っていった。
サーニャの魔法鞄からそれこそ山のような炭が吐き出される。
「こりゃ本当にすげぇな。集計に一日くれ。ああ、エドバンさんの分は今取っちまってくれて構わねぇからな」
そういう男性の言葉にしたがって、リズがトレントの炭三袋とエルダートレントの炭三袋を取り分けた。
そこで、私はなんとなく気になり、
「なぁ、リズ。念のためにエルダートレントの炭を少し残しておこう。一袋程度でいい。よくわからんが、なにか引っかかるんだ」
とリズに申し出た。
リズは「はてな?」という顔をしていたが、
「そうですね。売るのはいつでも売れますし、アレンさんがそういうなら念のため取っておきましょう」
と言い軽く了承してくれた。
後のことをギルドに任せて、さっそくエドバンさんとやらの工房に向かう。
のんびり向かいながらリズになんとなく話を聞くと、グルワッツ商会というのはこの町の大手で、武器の製造から鍋、釜、包丁から糸切ハサミまでありとあらゆる製品を作っているということだった。
「独占状態ってことか?」
「そこまではいってないかな? でもかなりの割合で市場を牛耳ってる」
「なるほど。それならエルダートレントの炭を独占するくらいわけもなくできそうだな」
「うん。それでなんとなくエドバンさんにも売ることにしちゃったんだ」
「なにか事情があるのかもしれないが、いいものがみんなの手に届くようにするのも商人の大事な仕事だと思うぞ」
そんなこの町の経済事情を話していると、少しだけ町の風景が変わってきた。
それまでのどこか洗練された街並みとは違い無骨一辺倒の建物が目立つようになる。
「この辺からがいわゆる職人街だよ」
そう言われてみると、剣や鍋、釜、ハサミの絵が描かれた看板があちこちにかかっているのが見え、どこからともなく油の匂いや金属を叩く音が聞こえてきた。




