おっさんA、海に行く01
朝からグランツ商会に無事絹織物を納め、港に行く。
海へ向かう便は昼過ぎの出航という事だったので、船の中で食べる食糧を買い込みに市場へ向かった。
「今日と明日はお弁当になるけど、それもまた旅の醍醐味ってやつだよね」
「そうだね。船の中でも売ってるらしいけど高くて不味いって言ってたからいろんなのを買っていって楽しもうよ」
「こういうとき魔法鞄があると便利ですよねぇ」
ウキウキしながらそう言って弁当を売る露店を見て回る三人を微笑ましく見る。
「アレンはどれにする?」
「ん? ああ、その焼肉弁当が美味そうだな。それから、そっちの釜めし弁当とサンドイッチにしよう」
「了解。ていうかそれだけで足りるの?」
「あー、そうだな。もう一つくらい買っとくか」
「うん。それならあっちの鱒の塩焼き弁当がいいと思うよ?」
「そうだな。それも買っていこう」
結局四人で二十個近い弁当を買い、私たちはさっそく船に乗り込んだ。
「私、船初めてです!」
嬉しそうに言うマイにリズが、
「沈没したら岸まで泳がなきゃいけないんだよ?」
と冗談めかして言うが、マイは少し顔を青ざめさせて、
「どうしましょう!? 私、泳げません!」
と真剣な顔で私にそう言ってきた。
「はっはっは! 大丈夫だ。そういう時はちゃんと浮き輪も用意されているし、救命用のボートもある。ていうか滅多なことじゃ沈まんから安心しろ」
「そうなんですね。よかったぁ」
「あはは。脅かしてごめん」
「もう、リズったら……」
そんな会話も楽しい。
そう思っているうちに船が動き出す。
「あ! 動いてますよ! 意外とゆっくりなんですね」
「ああ。徐々に川の流れにのって早くなるんだ。まぁ、それでものんびりしたもんだがな」
「うふふ。なんだかすごいですね。こんな大きなものが水に浮いてるんですもの」
「ああ。冷静に考えればそうだな」
マイはまるで子供のように目をキラキラさせながら、これから向かう遠くの景色を見つめていた。
やがて夕方になり、二等客室の狭い個室で飯にする。
「なんか、こういうのってワクワクするよね。いかにもみんなで旅行してるって感じで」
サーニャが嬉しそうにそう言って弁当を頬張っている。
他の二人もそれに同意し、女子同士きゃっきゃとやりながら楽しいお弁当の時間が過ぎていった。
翌日の夕方前。
無事目的地に着く。
「広いですねぇ。これが海ですか?」
と言うマイに、
「ここは河口だな。もう少し南に行くと漁港とか浜とかがあるぞ」
と教えてあげた。
「ということは、海はこれよりもっと広いってことですか?」
「ああ。そうだぞ。もっと広くて雄大だ」
「それは早く見てみたいですね。お魚も楽しみですし」
「そうだな。今日からしばらくは海鮮三昧だ」
「やった!」
最後は子供のような喜び方をしたマイを微笑ましく思っているところにサーニャが、
「早く行こう! お魚なくなっちゃうよ!」
とこちらもやや興奮気味で若干変なことを言ってくる。
私はなんとも言えず苦笑いしながら、
「そだな。そりゃ大変だ」
と冗談で返し、宿を探しに町へと向かっていった。
港町ということで、宿はすぐに見つかり、荷物を置いたところで町に出る。
さすが港町だけあって、海鮮料理の店が軒を連ねており、私たちは適当に賑わっている店を見つけると、迷わずそこに入っていった。
「ビール四つね! あ、マイもビールでよかった?」
「ええ。かまいませんよ」
さっそくサーニャが酒を注文し、壁に書かれている品書きを眺める。
「うわぁ。いっぱいあるね。どれがどれだかわかんないよ」
「そうだな。適当にオススメを聞いてそれを頼もう」
「だね!」
そう決めて酒を持ってきてくれた店員にオススメを聞く。
「この時期ならタイは外せないですね。刺身がオススメですよ。あとは適当に見繕って盛り合わせにしてきます。あと、海鮮焼きもオススメのやつを三つくらい焼いてきましょうか? 今日は牡蠣のいいのが入ってますよ」
「じゃあ、それで頼む」
そんな感じで適当に注文を決めると私たちはさっそく乾杯した。
いつもの調子でじゃんじゃん飲み始めるサーニャに、
「今日は小金貨三枚までな」
と軽くツッコミを入れつつも楽しく酒を飲む。
やがてやってきた刺身は、オススメだというタイにヒラメやブリ、マグロに赤貝らしきものがこれでもかと盛られたけっこうな豪華さだった。
「すごっ! いただきます!」
サーニャが喜んで箸を伸ばし、さっそくひと口頬張る。
「うん! 美味いよ!」
そう言ってサーニャはマイに目を向けた。
「生のお魚なんて初めてで、ドキドキします」
マイはそう言って恐る恐る刺身をつまみ、ちょっとだけワサビと醤油をつけてから口の前に運ぶ。
そして少し思い切ったように目を閉じながら、いかにも「えい!」とう具合に刺身を口に入れ、しばらくもぐもぐしていた。
やがて、マイがぱっと目を見開き、
「美味しいです!」
と叫ぶようにして言う。
みんなはそれににこやかな視線を送り、
「ははは。よかったな。他のもあるから味を比べてみるといい」
「うん。こっちの赤いのがオススメだよ」
「そうだね。赤貝はコリコリして美味しいけど、もしかしたら好き嫌いが出ちゃうかもしれないから、ちょっと注意してね」
と言葉を掛けた。
その後も楽しく食事が進んでいく。
マイも初めての海鮮を喜んで食べ、みんな満足でその店を出た。
「美味かったし、安かったな」
「うん。商売人としては採算が気になったけど、良心的ないいお店だったよ」
「そうなの? じゃあもっと頼めばよかったなぁ」
「うふふ。そうね。私ももっと食べたかったですわ」
「ははは。時間があったらまた行こう」
楽しく話しながら宿へと戻っていく。
そして、私は楽しい気持ちのまま床に就いた。
その日の夜。
「ブーン」と耳元でなる音に目を覚ます。
「パチン」と叩いてみるがおそらくこの攻撃は届いていないだろう。
私はしょうがなくまた目を閉じたが、「ブーン」という音は一晩中私の耳を苦しめた。
翌朝。
「かゆい……」
腕や腹などのかゆい所をみると見事に赤い発疹が出来ている。
「まさかこんなに蚊がいるとはなぁ」
辟易とした感じで宿の食堂に下りて行くと、そこには同じように体を掻きつつげんなりとした顔をでいかにも寝不足といった感じの三人がいた。
「おはよう。そっちにも出たのか?」
「ええ。それはもう一晩中」
「かーゆーいー!」
「さっき宿の人に聞いたら、この町の名物の一つなんだって。特にこの時期は多いらしいよ」
「それは困ったな。しかし、そういうことなら薬屋にかゆみ止めがたくさん売られてるだろう。浜辺に出かける前にさっそく買いにこう」
「さんせー!」
そんな話をしつつ、さっさと朝食を済ませる。
宿で聞くと、どこの薬屋でもかゆみ止めを売っているという事だったので一番大きな薬屋の場所を教えてもらった。
さっそく薬屋に行き、かゆみ止めを買う。
そこで、ふと思いつき、
「虫よけは売ってないのか?」
と聞くと、
「そんな便利なものがあれば、すぐにでも仕入れたいですね」
という返事が返ってきた。
(これは!)
と瞬時に閃く。
私はついでとばかりに、
「この町では風邪薬とか熱さましなんかがよく売れるんじゃないか?」
と聞くと、店員は少し驚いたような顔で、
「ええ。お客さん、よくご存じですね」
と言った。
店を出てすぐ、リズにやや興奮気味に話しかける。
「おい。あの防虫効果のある糸が売れるぞ!」
「ん? あ、そっか! アレン天才じゃん!」
「ああ。だが、問題は販路だ。いくらなんでも私たちが海辺の町とリネア村を往復していたんじゃ経費が掛かりすぎる。もう少し大規模な流通網がないと商売としてはきついだろうな」
「……そうだね。あ、なら商売の種を売ってしまえばいいんじゃない?」
「種?」
「うん。この情報を売るのさ。そうすれば私たちも儲かるし、リネア村の人も儲かるでしょ? で、ついでにその種を信用できるところに売ればその商人も儲かって、海辺の人たちの暮らしが楽になるって寸法だよ」
「なるほど。事業そのものを売り物にするんだな?」
「そういうこと!」
「なるほど。じゃあさっそく……」
と言ったところで、
「なに二人で盛り上がってるの? 食べ物の話?」
とサーニャが興味津々と言った感じでこちらの話に口を挟んできた。
「いや。商売の話だ。例の防虫効果のある布が売れるかもしれんという話でな」
「なーんだ。そっか。てっきりおいしいものの話でもしてるんだと思ったよ」
「ははは。すまんな。という訳で急いでリネア村に向かおう」
「え!? 浜辺で炭火焼きは?」
「え? ああ、そうだったな。すまん、忘れるところだった」
「そうだよ。リネア村は逃げないんだからさ。ゆっくり行けばいいよ。それより今はお魚でしょ?」
「ああ、そうだな。ついでだ。これでもかってほど買い込んでいこう。そうすればいつでも魚が食えるようになるぞ」
「それなっ! よし、さっそく市場に向かおう!」
サーニャの元気な声にみんなで「おう!」と返事をしてさっそく市場に向かっていく。
私は新しい未来が動き出す予感にワクワクしながら、みんなの後をついていった。




