おっさんA、商売をする04
三日後。
再び商業ギルドを訪れ、エメローダさんを呼んでもらう。
エメローダさんはすぐに出てきて、
「ギースさんの件はありがとうございました。おかげで手間が省けましたわ」
とさらっと言ってきた。
(たいした肝の座り方だな……)
と思いつつ、リズが交渉するのを見守る。
リズはまず、
「こちらこそ少々出過ぎた真似をいたしました。ご容赦くださいね」
と挨拶して微笑むと、
「さっそくエメローダさんがおつけになった筋道というのを教えていただけますか?」
と切り出した。
「私がつけた筋道は大商会への根回しだけです。いくつかの大商会が集まって作っている組合に話を通しておきました。あとはそちらの交渉次第ですわね。大商会が仲卸にどの程度の鉈を振り下ろすのかはあちらのさじ加減しだいです」
「なるほど。この町全体を巻き込んだということですね?」
「もしかして、怖気づかれましたか?」
「まさか。逆に喜んでおりますよ。その方が話しが早いようですから。今回はお手を回していただきありがとうございました」
「いいえ。こちらも重大な関心をもって事態を見守っておりますよ」
「うふふ。お互い良い結果になればいいですね」
「ええ。それがこの町の発展につながることになりましょうから」
そう言ってリズとエメローダさんは笑顔で握手をすると、エメローダさんから紹介状を受け取った。
「午後になったら、組合の代表をしているグランツ商会のフェルドさんを訪ねてください。話は通してありますから、おそらく代表者が集まっておられますわ」
「ありがとうございます。さっそく伺いますね」
「ええ。念のために先ぶれを出しておきましょう」
「ご丁寧にありがとうございます」
「いいえ。ご健闘を祈っておりますわ」
「うふふ。良い結果をお待ちになっていてください」
そんな一見穏やかな中にも商人同士らしい厳しさを滲ませた会話を聞き、
(すごい世界だな)
と思いつつ、商業ギルドを出る。
出た瞬間リズが、
「……思った以上の大事になってしまったわね」
とやや青ざめた顔でそう言った。
「ははは。なるようにしかならんさ」
「危なくなったらちゃんと助け船出してね?」
「私にできる範囲でならな」
「よくわかんないけど、ケンカになったら任せてね!」
「サーニャ。ケンカしちゃだめなのよ?」
「そうなの?」
「ああ。ケンカはだめだな」
「ちぇっ。つまんないの」
「うふふ。とりあえず、どこかで時間を潰してからお昼にしましょう?」
「そうだね。せっかくだから市場を覗いてみようよ。何か掘り出し物があるかもしれない」
「だな。その後どこかで飯をくってから行けばちょうどいいだろう」
そんな話をして市場の方に向かっていく。
さすが大きな町の市場だけあって、そこにはけっこうな数の露店が並んでいた。
「香辛料が豊富なのはいいな。いくつか買っていこう」
「それが美味しい料理になるなら大賛成!」
「ああ。香辛料が豊富になるとカレーの味がぐんと上がるからな」
「そうなの!? じゃあ、たくさん買おうよ。アタシまたカツカレーが食べたいな」
「そうだな。イノシシ肉もまだあるし、この仕事が終わったら宿の厨房を借りて作ってみよう」
「よっしゃ! それ決定ね!」
楽しそうに言うサーニャを先頭に市場を進み、目にとまったものを買っていく。
珍しい香辛料をいくつか買い、この町の名物だという砂糖菓子をけっこうな量買い付けたところで、適当な喫茶店に入った。
そこで、手早く昼食を取り、お茶を飲んで少しだけ作戦会議をする。
いろいろと話し合ったが、結局は正論で攻めるしかないだろうという話になり、私とリズは覚悟を決めてグランツ商会へ乗り込んでいった。
予想以上の大店に少し気圧され気味のリズの肩に手を置き、
「大丈夫さ」
と笑顔で伝えて店に入る。
そこリズが手近にいた店員に、
「商業ギルドのエメローダさんの紹介でまいりました、行商人のリズと申します。すでにお話は通っていると伺っておりますが、フェルドさんのご都合がよいかうかがってきてくださいませんか?」
と伝えると、さすが大店の店員だけあって、しっかりとした対応で、
「少々お待ちください。今聞いてまいります」
とにこやかに言いその店員は店の奥の方に下がっていった。
「ふぅ……」
と軽く深呼吸するリズに、また、
「大丈夫さ」
と伝えて微笑みかける。
リズは少し緊張がほぐれたようで、硬いながらも笑顔を返してくれた。
やがて、一人のメイドがやってくる。
「お待たせいたしました。お話は伺っております。みなさまお揃いですので、こちらへどうぞ」
そう言われてメイドの後について行くと、いかにも重厚な扉の前に辿り着いた。
「失礼いたします。リズ様ご一行が参られました」
「お通ししろ」
そんなやり取りがあってメイドが扉を開ける。
そこはなんとも立派な作りの会議室のような場所で、そこには三人の男性が座っていた。
「はじめまして。行商人をしております、リズと申します。こちらの連れは護衛の冒険者でアレン、サーニャ、マイと申しますの。ともに行動する仲間ですので、同席させますが、かまいませんか?」
「ええ。それはかまいませんよ。ああ、申し遅れました。私がフェルドです。この組合のまとめ役をさせてもらっております。こちらが、リッツ商会の会長のヒースさん、そちらが、サミエル商会の会長でヨークさんです。本日はどうぞお手柔らかに」
そんな挨拶を交わし席に着く。
フェルドと名乗った男性は恰幅も良くニコニコしていて、いかにも大商会の会長といった雰囲気の人物だった。
「さっそくですが、お話をどこまで?」
「私どもが聞いているのは、ギースという商人が品物の量をたばかっていたことと、不当に安く買い叩いていたことですね」
「そうですか。ではさっそく本題に入らせていただきますね。私どもはリネア村で絹織物を二反大銀貨五枚で仕入れました。おそらくこの店の店頭価格の三分の一ほどかと思いますがいかがですか?」
「ええ。概ねそうですね」
「ということは、私どもが仕入れたものを一反大銀貨五枚、つまり小金貨一枚で買っていただきたいのです。私たちの望みはただそれだけですわ」
「それでは仲卸の示す価格と差がありませんね。だとしたら、私どもは長い付き合いのある仲卸から買いますよ」
「ええ。そうおっしゃると思っておりました。正直申し上げて、私どもは継続的な取引を望んでおりません。なので、まずは私どもの手元にある二百反の絹織物を小金貨二百枚で買っていただきたいのですがそれはご了解いただけますか?」
「それはまた大胆なご発言ですが、まぁ、その程度のことなら今回に限りお受けしてもかまいませんよ」
「ありがとうございます。ではそのうえでここからは協議とまいりましょう」
「ほう。協議というと?」
「ええ。この町の仲卸に暴利をむさぼるのは止めろと言っていただきたいのです」
「これまた大胆なご発言ですな。我々にはそんなことを言う権利はありませんよ?」
「そうでしょうか? この町を取り仕切る大商会の責任として不正をただす義務があると思うのですが?」
「不正と言いますが、商売において値段設定は自由です。私どもが仕入れる値段が下がるならともかく、そうでないなら他人様の商売に口を出すことはできませんよ」
「はたしてそれでよろしいのでしょうか?」
「と言いますと?」
「はい。リネア村では商品が買い叩かれ、村の生活はギリギリというありさまでした。一部の者がその利益をかすめ取るのは、倫理にもとります。それをこの町を代表する商会の長としてお見逃しになってよろしいのでしょうか?」
「たしかにおっしゃることはごもっともだ。しかし、我々も商売人ですからね。目に見えた利益のないところで動きたくはないのですよ。それはわかっていただけますかな?」
「ええ。商人は利益が一番です。今回仲卸を叩いて、仕入れ値が下がるようでしたら、おそらくお動きになるのでしょ? しかし、それでは意味がありません。リネア村の人たちが相変わらず買い叩かれたままになってしまいますからね。私たちが申し上げているのはあくまでも社会正義の問題です。どうかそれをわかっていただけませんでしょうか?」
「なるほど。リズさんはご立派な方ですな。しかし、義憤だけでは動けないのが大商会というものなのですよ」
フェルドさんがそう言ったところで、リズが少し詰まり、息を呑んだ。
それを見て私は、
「少しよろしいか?」
と口を挟んだ。




