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1-8 特別な荷物 2

 カイルはしばらく互いに顔を見合わせた後、バールを使って、箱をしっかり打ち付けてあった釘を力いっぱいこじ開け始めた。

 ソフィーは素早く木箱の蓋を開ける。

 二人は息がぴったり合った動きで作業を進め、これはこれまで一緒に訓練を積んできた成果だった。

 木箱の中には、四角い立方体の形をした金属の檻が入っていた。


「うっ……重い……」


 カイルは両手でその檻を箱から持ち上げようとして、歯を食いしばった。

 見た目よりもずっと重かったからだ。

 しかしアーニャはそれを軽々と持ち上げて歩いてきて、まるで重さなどないかのように床に置いた。

 ソフィーは不思議そうな目でアーニャをちらりと見たが、当の本人はそれに気づいていない様子だった。

 やがてカイルが檻を床に下ろした後、ソフィーは視線をその奇妙な檻に戻した。


「これ……何なの?」


 ソフィーは思わず高い声を出してしまった。

 眉を寄せてしわを寄せながら、檻の中にあるものを見つめる。

 それは、つやつやと光る紫色の球体だった。

 まるで少しでも動かないように、しっかりと固定されていた。

 その表面は光に当たると虹色に輝いた。

 しかし、それは美しい虹色などではなかった。

 腐った水溜まりに浮かぶ油膜のような、どす黒く不気味な虹色だった。

 アーニャは檻の中にしっかりと固定されたそれから、目を離さずにじっと見つめていた。

 かつてランタナの街の冒険者だった頃の記憶が、ふと脳裏によみがえってきた。

 冒険者たちがどうしようもない戦いに遭遇した日、パーティーの魔法使いは天秤にかけなければならなかった。

『これにやられて廃人になる』か、『パーティー全滅して死ぬ』か……その二択を。


「君たち、あれを知ってる?」


 ソフィーの声が、アーニャを過去の記憶から引き戻した。

 女騎士の視線が彼女とカイルの間を往復する。


「俺は見たことねえな?」


 カイルが素早く首を横に振ったが、アーニャの方は冷たい声で口を開いた。


「私はよく知っている。これはマナナイトと呼ばれるものだ」


「マナナイト? なんだよそれ? 聞いたことねえぞ」


 アーニャが言い終わるや否や、カイルが無礼な声を上げて遮った。

 しかしアーニャは怒った様子も苛立った様子も見せず、代わりに重い視線で二人を見つめ、再び言葉を続けた。


「マナナイトは、魔術師たちの間でよく知られた違法な麻薬だ。その効果は、短時間だけ使用者の魔力を大幅に高めることにある。ただし、その代償として数週間にわたる衰弱状態を強いられる。そしてもっと恐ろしいのは、この薬は非常に中毒性が高いということ。一度使っただけで治療が必要になるほど依存し、もし無理に使い続けると、使用者には攻撃的な症状が現れ、最終的に魔法を忘れ始めるんだ」


 そう言い終えると、彼女は自分の細く美しい人差し指でカイルの胸の真ん中を突きながら、鋭い声で言葉を続けた。


「君は部隊長じゃないのか? もっと知識を蓄えておくべきだよ」


 カイルはアーニャにそう言われて顔色を変えた。

 反論したくてもできなかった。

 アーニャの言う通りだったからだ。

 彼はこの手のことを何も知らなかった。

 ソフィーはそれを見ながら、乾いた笑いをしばらく浮かべた後、ふと思い出したように口を開いた。


「でもアーニャ、もしこれが本当に君の言うような違法なものなら、私たち大問題よ……」


 アーニャはカイルの胸から手を下ろし、ソフィーの方へ向き直って聞き返した。


「どんな問題?」


「この荷物、受取人の名前が騎士養成機関の購買部になってるのよ。つまり、公務で使うために注文されたものだってこと!!」


「えっ!?」


 カイルは自分が今まで持っていた、ただ所持しているだけで首が飛ぶ危険な代物が、公務用に注文されたものだと知って、思わず声を上げた。


「それじゃあ誰が注文したんだよ!!」


 カイルは体を縮めて座り込み、両手を上げてこめかみを押さえながら、慌てふためいた表情を浮かべた。

 朝にアーニャが見た傲慢な騎士の姿は、もう完全に吹き飛んでいた。

 ソフィーも同じような格好をしていた。

 アーニャはそんな若い男女の騎士たちが滑稽な姿になっているのを見て、ただため息をつくしかなかった。

 しかしアーニャにも二人の気持ちは理解できた。

 荷物の受取人が騎士養成機関の購買部と指定されているということは、この件はもう二人が手を出す範囲を超えているということだ。

 そしてもし本当に問題が起きたら、責任を負うのはカイルとソフィーだけになる。

(待てよ、もし事が大きくなったら、俺も巻き込まれるんじゃないのか?)

 アーニャは体を低く縮めて、両手で頭を抱えるような格好になった。

 カイルとソフィーと同じポーズだ。

 彼女はランドールに帰ってきたばかりなのに、もう命に関わる危険なことに巻き込まれてしまった。

『騎士養成機関のような場所に届けるということは、この荷物は心配するようなものではないということですよね?』

 ウェイランド社にいた老マーカスの言葉が、再び頭の中で響いた。

 それはアーニャの胸をもう一度突き刺し、自分がどれほどしくじったのかを痛感させた。

(ったく、あの爺さん……私を騙しやがったじゃないの)

 しかしその時、ひとりの少年の顔がアーニャの頭に浮かんだ。

 かつてパーティーを共にしていた少年だ。

 彼は現実離れしたほど世界を美しく見すぎる男だったが、その過度な楽観主義が彼女の命を救い、ランドールまでたどり着く力を与えてくれた。

(もしリースなら、きっとウェイランド社を純粋な目で見るだろう)

 それはまるで女神からの指針のように、アーニャの心を照らした。

 先ほどまでの暗い視点を、純粋無垢な少女の視点へと変えた。

 そして彼女は答えを出した。

 アーニャは立ち上がり、自分の衣服と姿勢を整え、顔つきを再び『冒険者アーニャ』に戻した。

 そしてこう言った。


「もしかしたら……問題の張本人は、私たちに助けを求めている仲介者かもしれないよ」


 ソフィーとカイルは再び立ち上がり、二人は顔を見合わせた。


「私、よくわからないわ……」


 ソフィーはアーニャの方を向いてそう尋ねた。

 アーニャは手を上げて自分の頰に触れ、少し考え込むようにしてからソフィーに答えた。


「ウェイランド社の人が、この荷物は心配するようなものじゃないと言っていたし、わざわざここに届けるように私に頼んできた。開けられることを知りながらね。つまり、彼は無理やりこんなものを送らされているから、助けを求めているのかもしれない」


 アーニャは、あのへつらい上手な男の姿を思い浮かべた。

 彼は自分が触れることのできない違法な品について、何とかしようと考えているのだろう。

 もし彼が自分で秘密を暴露しようとしたら、ただでは済まないだろう。

 しかし、王立騎士なら話は別だ。

(彼はウェイランド社をとても愛しているのかもしれない……)

 アーニャはマーゴスの思いつきの理屈を、適当に信じていた。

 もちろん、現実はまったく逆だったのだが……。


「私、よくわからないわ……」


 ソフィーはアーニャの方を向いてそう尋ねた。

 アーニャは手を上げて自分の頰に触れ、少し考え込むようにしてからソフィーに答えた。


「ウェイランド社の人が、この荷物は心配するようなものじゃないと言っていたし、わざわざここに届けるように私に頼んできた。開けられることを知りながらね。つまり、彼は無理やりこんなものを送らされているから、助けを求めているのかもしれない」


 アーニャは、あのへつらい上手な男の姿を思い浮かべた。

 彼は自分が触れることのできない違法な品について、何とかしようと考えているのだろう。

 もし彼が自分で秘密を暴露しようとしたら、ただでは済まないだろう。しかし、王立騎士なら話は別だ。

(彼はウェイランド社をとても愛しているのかもしれない……)

 アーニャはマーゴスの思いつきの理屈を、適当に信じていた。もちろん、現実はまったく逆だったのだが……。


「でも、そんなことを知ったからって、私たちに何ができるの?」


 ソフィーが哀れっぽい声を上げた。

 確かにその通りだ。

 いくら知ったところで、騎士見習いにそんなことに口を挟む権限などない。

 しかしカイルはそうは思っていないようだった。


「俺は選択肢があると思うが……俺は……」


 カイルの声が途中で止まった。

 その選択肢とは、この品を司令官に突き出して、調査許可を求めることだった。

 彼は貴族の命令権に頼りたくなかった。

 正しいことを求めるためであってもだ。


「今やらないと、俺たち全員首が飛ぶぞ」


 アーニャが冷たい声で言葉を遮った。

 それはカイルに急いで決断を迫るものだった。

 この急かしが、カイルに他の道が見えなくさせた。

 しかしアーニャは知らなかった。

 カイルが貴族を嫌っていることを。

 彼女の急かしは、結果としてカイルの好感度を直接的に下げてしまったようなものだった。


「くそ……わかったよ。このものを司令官に突き出す」


 八方塞がりになったカイルは、低い声で答えた。

 彼は手を伸ばしてその檻を掴もうとしたが、アーニャが先にそれを奪い取った。彼女はそれを肩に担ぎ上げた。

 ソフィーは、アーニャの華奢な体がその重そうなものをまるで重さがないかのように持ち上げるのを見て、びくりと飛び上がった。そして震える声で言った。


「あ……アーニャ、君……」


 アーニャは声のする方へ振り向いてソフィーの表情を見ると、うんざりした顔をして、言った。


「ただ魔法で持ち上げているだけよ。別に珍しいことじゃないでしょ」


 それから彼女はカイルの方へ向き直り、言葉を続けた。


「さあ、道案内をして」


「……ああ」


 カイルはまったく友好的とは言えない声で、短く答えた。



『フィオナ・レムベルク』は、ランドール学院の門の横で、辛抱強く立って待っていた。

 心臓は、そのものを手に入れられると思うだけで激しく鼓動を打っていた。

 フィオナは『ドーガ伯爵』という魔術で名高い人物の娘だったが、彼女自身には才能がなかった。

 魔術の成績が落ち込んでいたため、学院の最上級寮に滞在する許可をもらえなかったのだ。

 少女は何度もため息をつき、午後の風に淡い金色の髪をなびかせた。

 同時に、彼女は門の外と、すぐ近くにある大きな白い石造りの寮の間を、視線を何度も往復させていた。

 フィオナは王族の寮に入りたくなどなかった。

 ただ、誰かにそこから見られることを恐れていたのだ。

 彼女は子供の頃から心の底から祈り続けていた。

 ただ一つの魔法でもいいから使いたいと。

 しかし女神は彼女に対して信じられないほど冷酷だった。

 結局、他に選択肢はなく、してはいけないことをするしかなかった。


 豪華な馬車が一台、門の前に滑るようにやって来て停まった。

 降りてきたのは黒いスーツを着た男性で、その立ち振る舞いは高級執事のようだった。

 これがウェイランド社の特徴だ。

 貴族に品物を届ける際、彼らは豪華な馬車を使い、執事のような服装の従業員を派遣する。


「こんにちは、お嬢様。このような門の前までお出迎えいただき、光栄に存じます」


 配達員は恭しく深くお辞儀をした。

 フィオナお嬢様の方も軽く腰を折り、丁寧に答えた。


「荷物を届けてくださってありがとうございます。今回、本当に楽しみにしていましたわ」


 丁寧な挨拶を終えると、従業員は馬車に戻り、荷物を降ろして渡した。

 それは手のひらより少し大きい程度の、粗末な木箱だった。

 フィオナは署名をして荷物を受け取った。

 彼女の顔に幸せそうな笑みが浮かび、それを見た配達員も思わず大きく微笑んだ。


「本当にありがとうございます」


 彼女はもう一度腰を折った。

 その間、配達員は馬車に戻り、御者は馬車を進めていった。



「これで……私の願いがようやく叶うわ」


 彼女は小さな木箱を胸に抱きしめながら、道を歩いていった。

 しかし数歩進んで振り返ったところで、物陰に隠れていた少女が姿を現し、不快な言葉を投げかけてきた。


「まあ、ついにその時が来たのね、フィオナ。あなたが禁忌を犯し、どん底まで落ちぶれる時が」


 女性秘書のレナ・ローゼンは、紺色のブレザーのポケットに両手を突っ込んだまま、フィオナに近づいてきた。

 獲物を狙う狼のような視線を送りながら。

 これだけで、牙も爪もないフィオナは恐怖に震えてしまった。


「秘書レナ、何かご用ですか?」


 フィオナは小さな箱を背後に隠しながら尋ねた。

 彼女は目の前の炎色の髪の少女に懇願するような視線を送ったが、何の助けにもならなかった。

 レナ・ローゼンは人をいじめることで有名だった。

 数ヶ月前に力が目覚めて以来、彼女はますます調子に乗っているようだった。


「後ろにあるものは何? そんなに隠すなんて、学院に禁止されたものじゃないの? それとも違法なものかしら??」


 レナの声はねじくれていて恐ろしかった。

 それを聞いたフィオナはびくりと震え、息が詰まった。

 レナの手が上がり、その手に激しい炎が燃え上がった。

 彼女の炎の魔力は恐ろしいほどで、魔術の杖がなくても完璧に操ることができた。


「違うわ……これは……」


 フィオナは震える声で叫んだ。

 彼女は何歩か後ずさり、つまずいて転んでしまった。

 背後に隠していた木箱が飛び出し、地面に落ちて割れてしまった。

 しかし中に入っていたものは、彼女が非難されたような違法なものではなかった。

 細かく丁寧に彫刻された銀色の魔術ランプが、地面に散らばっていた。


「何よ!! ありえない!! どうしてマナナイトじゃないの!?」


 レナ自身も、散らばった魔術ランプの破片を見て、慌てた声が思わず漏れてしまった。

 彼女は地面に座り込んだフィオナに足を踏み出し、手を伸ばして近づいていった。


「やめてえええ!!!」


 フィオナは恐怖に駆られて大声で叫んだ。

 その叫び声に、周囲にいた人々が駆けつけてきた。

 その中の一人は、小さな金髪の少女で、『王子様の人形』と呼ばれている子だった。

 セリアはフィオナとレナの間に飛び込み、遮るように立ち、大声で叫んだ。


「もうやめて、レナ! でないとセリア、本当に王子様に言いつけるよ!!」


 輝く金色の髪が光を反射し、セリアは足が震えているのがはっきりわかるほどに両腕を広げた。

 レナはセリアに遮られると、鼻を鳴らして後ずさりした。

 セリアはルシアン皇太子の人形であり、彼が最も大切にしている存在だった。

 もしセリアに何か問題が起これば、彼女自身で終わらず、彼女の実家であるローゼンポートまで巻き込まれる可能性があった。

 レナはそれ以上何も言わず、振り返りもせずにその場を去っていった。


 レナが去った後、周囲を取り囲んでいた人々も散り散りになり、残ったのはフィオナとセリアだけだった。


「大丈夫だよ、フィ。セリアがここにいるからね」


 セリアはフィオナをぎゅっと抱きしめた。


「うぅ……セリア……」


 フィオナは堰を切ったように泣き声を上げ、セリアの胸に顔を埋めて、止まることなく泣き続けた。

 フィオナを抱きしめたままのセリアは、地面に散らばった銀色のランプの破片に視線を移した。


「大丈夫だよ……セリア、皇太子様にランプのことを話してみるから……」


「ごめんね……セリア……」


 そう泣きじゃくっていても、実際のところフィオナは心の底から安堵していた。

 地面に散らばっているものが、自分が注文したものではなかったからだ。


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『あとがき』

一週間もお待たせしてしまい、申し訳ございません。

現在、世界規模で起きている様々な問題が、日常生活にまで影響を及ぼしてしまっています。

特に仕事面において、最近執筆が大幅に遅れていることをお詫び申し上げます。

すべてが一日も早く解決することを願っています。

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