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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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96話 杜居流神気道二級 天戸うずめ

◇◇◇



「ねぇ、早く説明してよ。黙っててもわからないじゃない」


 空飛ぶ絨毯はもうすぐ邪猿の潜む森に到着しそうだが、俺は絨毯の上で正座をさせられている。



「いや……、マジで本当に深い意味は無いっす。ただ知ってる豆知識を披露しただけなんで、マジで」



 絨毯の上でマフラー椅子に座り、腕を組み俺を見下ろす天戸うずめさんは大きくため息を吐く。


「あ、そう。そんな言い訳が通ると思うんだ?何で私の血液型を聞いた後でゴリラの血液型の話をしたの?」


「いや、たまたまだろ。被害妄想だよ、それ」


「私がA型でもその話した?ねぇ杜居くん、一つ覚えておくといいわ」


「……なんでしょうか?」


 何かに潰されるように魔法の絨毯の高度が下がり、俺も息苦しさを覚える。


 冷たい目で俺を睨みながら天戸は言い放つ。



「B型を馬鹿にしていいのはB型だけよ」



 何なんだよ、この血液型への熱いこだわりは。


 女は占いが好きと言うが、そんな域を遥かに凌駕してるよ。



「わかったわかった。圧を抑えろ。こういうところだよ」


「ん?こういうところがなんなの?」


 おっと、失言。


「ほら、もうすぐ着くんじゃないのか?猿。猿退治」


 天戸は諦めたように視線を俺から外し、山々を眺める。


「……大雑把って。具体的にはどうすればいいの?」


「んー、手出して」


「ん」


 天戸は言われるままに右手を差し出すので、掌を俺に向けさせる。


「例えば……」


 差し出された右手のひらを俺の右手のひらでパンと叩く。


「そのままね。次」


 今度は人差し指を立てて、出来る限り同じくらいの力で天戸の手のひらを突く。


「たぶんこの違い。わかる?」


 天戸は何も言わずじっと俺をみる。


 俺は怯まずに説明を続ける。


「障壁もさ、お前の張ってるのは全周囲均等なきれいな球体だろ?守る場所だけ守る方が硬くなるんじゃないか?さらに言うと視界も」


「視界も?」


「全方位見るより一定範囲を集中した方がきっといいと思うんだ。と言うか状況に応じた切り替えっていうのかな」


 ――要するに天戸の戦闘設定は全て面倒くさがりで大雑把なのだ。


 全方位を一度に見て、全周囲を一辺に守って、全方向を最大範囲で一気に攻撃する、みたいな。ゲームで言うところのオートモード。


 無双ゲームの名無し敵相手なら気持ちよく無双できそうだが、難易度が上げるときつくなると言う訳か。


 そもそもこいつは何故こうも大雑把なのだろう?別に部屋が汚いわけでも無いのにどういうことなのだろうか?


 まじまじと眺めていると天戸も俺を見てニコリと微笑んだ。


「わかったわ」


「まじかよ」


 そう言うと天戸はヒラリと絨毯を飛び降りる。


「えっ、おい!運転できねーよ」


 一人絨毯に取り残された俺の声を聞いて、マフラーの一端は俺を掴み、もう一端は絨毯を畳む。


 

 10メートル程の高さから音も無く着地すると、目の前には巨大な岩盤がある。


 次の瞬間、何も言わずに天戸は岩盤にマフラーパンチをお見舞いする。


 ズズンと激しい地鳴りの様な音と振動が響き岩盤は砕け、崩れ落ちる。


 大小無数の落石が起こるが、天戸は障壁を張っている様子もない。


 石が一つ額に当たったかと思うと赤い筋が額から目を通り、口まで伸びる。


 それでも天戸は表情一つ変えない。


 目を閉じるとフーッと一度息を吐く。


 

 そして目を開いた瞬間、もう一発マフラーパンチを放つ。


 放たれた拳は音も無く岩盤を穿つ。


「どう?先生」


 額の血を拭わずに振り返り天戸は微笑む。


 俺は苦笑いしかできない。


「……うん、まぁまぁだね。うん」


 天戸はまるで豆腐を穿つかのように右手とマフラーを何度も岩盤に打ち付ける。


 五回に一度程度面破壊が混ざってしまうが、概ね拳の大きさの穴が開く。天戸は感触を確かめるように時折頷きながら岩盤に拳やマフラーを放つ。


 暫くすると岩盤は穴あきチーズの様になってしまった。


 これも環境破壊の一種だろう。新たな世界の脅威の誕生である。



「ごめん、杜居くん。怪我してた。治癒頼める?」


 我に返った天戸は額の血を拭いながら近づいてくる。


「おぉ、今頃か。座れ」


 手頃な岩に座り目を閉じる天戸。


「ん」


 傷口を確認して、手を当て治癒魔法を施す。


「ちゃんと出来てた?」


 目を閉じたまま子供の様に足をプラプラさせて天戸は俺に聞く。


「出来てたぞ、想像以上だ」


「ふふ、そう。コツは掴んだわ、障壁と視界も多分大丈夫よ」


 元々天戸は努力型の人間のはずだ。


 380回に及ぶ異世界転移……、特にハルに打ち明けるまでの5回の転移では様々なトライ&エラーが行われたことだろう。


 そのせいかおかげか、努力の方向性が的確だと言う事なのか?


 要するに、天戸が今まで頑張って来た結果の今と言う訳だ。そのどれもきっと無駄じゃない。


 治癒しながら、目を閉じた天戸を眺めているとなぜか少し誇らしい気持ちになった。


「よし、お前に二級を進呈しよう」


「何の二級よ」


「当然杜居(もりい)神気道(しんきどう)だよ」


 パチリと不意に目を開けた天戸と目が合う。


「ん、杜居くん。お客様よ、少し離れて」



 俺には全く分からないが、天戸が言うならそうなのだろう。


「先生、指示は?」


 何だよ、ムズかゆいぞ。


「ワンパン禁止。全力で力を抑えて、最大出力で最小の力を絞り出せ」


 天戸は両手を組んで前に伸ばしながら答える。


「了解。難しい事言うね」


 猿がどこから来るのか俺にはさっぱりわからないので、離れろと言われてもどっちに離れればいいのかわからない。本当にそう言う気づかいが足りないと思うよ、俺は。


 取り合えず岩盤を背に隠れればバックアタックは避けられるだろうとの素人考えで岩盤に背を向ける。


「なんだかんだで実戦が一番の修業だろ。同じくらい強い相手がいないなら自分の強さを制限してみようぜ。何度も言うが出力は多分足りてる。後はきっと使い方だ。倒すなよ?一緒に踊りを作るような感覚で一週間行こうか」


『踊り』と言う表現が気に入ったようで、天戸は振り返り俺に微笑む。


「踊り、ね。ふふ、ちゃんと見ててよね先生」


「……怪我するなよ」


 先生呼びは止めろ。



 俺の頭上の岩盤の上から邪猿と思しき咆哮と何かを激しく叩く音が聞こえた。


 ズズンと激しい衝撃と土埃を立てて俺と天戸の間に降り立ったのは黒光りする硬そうな毛に包まれた、巨大な猿……。ゴリラに似てるか。さっきの音はドラミングかもしれない。


 姿を確認してクスリと笑うと、天戸は邪猿に向かい右手を伸ばす。


「それじゃ、お猿さん。お手柔らかにね」


 天戸を標的にした邪猿の咆哮が岩間に木霊(こだま)する。

 

 



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