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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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92話 もっとひどい未来だって

◇◇◇


「うずめちゃん、牛乳いる?」


「……お願いします」


 当たり前のように我が城に朝食を食べにきた天戸うずめさんだが、心ここにあらずと言った様子で珍しく仏頂面で食されている。


 いつも笑顔でニコニコと食べているのでマイマザーも少し心配そうにしているが、俺のコップには水道水しか入っていない。


 俺も牛乳が飲みたい。


 母はひそひそと俺に小声で天戸の状態を伺う。


「ねぇ、伊織。うずめちゃんどうしたの?具合でも悪いの?」


 ジラークとルカの事を引きずっているのだろうが、何故その状態でうちに朝ご飯を頂戴しに来たのか甚だ疑問である。


「さぁ?好きなおかずが無いからふて腐れてるんじゃねぇ?俺も牛乳飲みたい」


「はぁー?それはあんたでしょ。うずめちゃんがそんな事するはず無いじゃない」


 何という盤石の信頼感よ。


 そんな会話の間も天戸さんはむしゃむしゃと無言でぼーっとご飯を食べている。


 そしてなんと、最近我が家には遂に天戸専用の食器達が導入された。


 俺の茶碗もそろそろ新しくして欲しいものだ。


「うずめちゃん……、元気無いけど大丈夫?」


 俺が具合悪い時もこのくらい心配して欲しいものだ。


 母の呼びかけにハッと我に返る天戸は慌てて返事をする。


「えっ……うん!平気よ、ママ!……あっ!」


「ママ!?」


 わぁっと両手で口を隠して喜ぶ我が母。


 顔を赤くしながら母に慌てて弁解をする天戸。


「えええっと、違うんです!あはは、間違えちゃった……」


「もー、いいのに!ずっとママで!ほら、うずめちゃん!おかわりいる!?」


 天戸も照れながら両手で茶碗を差し出す。


「いっ……いただきます!」


 ――母はそれからずっと上機嫌だった。



◇◇◇


 何と、『うずめちゃんと遊んできなさい』と小遣いまでくれた。


 二人で駅まで歩いてきた所で、俺は天戸を振り返りニコリと微笑む。


「よし、解散な。それじゃ」


 天戸は腕を組んでため息を吐いて侮蔑の瞳を俺に向ける。


「嫌よ。おばさんに言うわ」


「ママだろ?」


「うっさい!」


 顔を赤くして怒る天戸。


 まぁ、あるよな。先生をママって言うの。小学生くらいまでなら。


「……とにかく、そのお小遣いは私と遊ぶ事を条件におばさんから貰ったのよね?約束を破るのはよくないわ」


「そんなの言わなきゃわかんねーよ。真面目か」


「だから言うって言ってるでしょ?今言うわ」


 そう言って天戸はスマホを取り出し、チラッと横目で俺を見る。


 ゾクリとした。


 わかる、こいつはマジだ。

 

「わかった、天戸。じゃあ千円やる。美味いものでも食べて気持ち良く帰ってくれ」


 断腸の思いで財布から千円を取り出して差し出すが、天戸はプイっとそっぽを向く。


「嫌よ。何度も言わせないで、『私と遊ぶ事』が条件の筈よ」


 貰った小遣いは5000円。


「……わかったよ。金の掛からないとこにしろよ?」


 天戸はニコリと微笑む。


「わかったわ。予算は5000円ね」


「使い切る気かよ」


「ふふ、冗談よ。気分転換に付き合ってくれるだけでいいわ」


 気分転換。


 確かに、色々ありすぎた。


 今後の方針も考えなきゃいけないよなぁ。


「了解。お付き合いしますぜ、我が主。どこに行きたい?」


 天戸は少し考えると、駅の路線図を眺めて指さす。


「海。海行こ」


「……お前正気か?自殺願望でもあるのかよ」


「はぁ?どういう意味よ」

 

 一応忠告はしたぞ?


 

◇◇◇



 電車に乗って、海に向かう。


 乗り換え一回、一時間くらいか。意外とあるな。


 電車に揺られながら、天戸はいつもに増して写真を撮った。


「……ルカにさ、写真見せてあげればよかったな、って」


 スマホの写真を眺めながら天戸は言った。


「いや?話だけの方がいい場合もあるだろ。色々想像かきたてられてさ。見たらそれ以上は無いんだから」


 スマホから目をあげて宙をに目をやりながら、しばし考えた後で満足気にほほ笑む。


「そっか。……ふふ、それならいいな」


「中々面白く伝えられてたと思うぞ」


 毎日治療中にルカに話した異世界の話。


 目を輝かせてルカが聞いていたのを思い出す。


 思い出すと言っても、遠い昔の話ではない。だが、二日前程度の話が随分遠い話に思えてしまう。


 もう二度と戻れないからなのだろうか?と、考えたが元々戻れる過去なんて1秒たりとも存在しないと気付く。


「いつも通りの想像でいいんだけどさ」


 背もたれに体を預けて目を瞑ったまま天戸は口を開く。


 目を閉じていようがきっと全方位見えているんだろうな、と思う。


 俺の返事を待たずに天戸は続ける。


「私達が喚ばれなかったら、あの世界は全部丸く収まってたのかな?」


 元々脅威が無い世界。


 それがジラークの住む世界だった。


 そして圧倒的な強さで恐らく魔法も万能なジラークが生きているうちには異界の勇者が必要な場面はまずあり得なかったはずだろう。


 でも、俺達は喚ばれた。


「もっと酷くもなり得たと思うぞ?俺達が喚ばれたのは、最上とは言わないまでも悪くない方だとは思うんだけど」


 天戸は意外そうな顔で俺を見る。


「そう……なの?」


「だと思わん?例えばさ、……命を使って喚んだ召喚者が、悪逆の限りを尽くし、ルカにも乱暴を働く。ジラークはルカの目の前でそいつ等を殺さざるを得なくなり、その後ルカも命を落とす……とか」


 天戸は俺との距離を座席一人分遠ざかり、白い目を向ける。


「……よく瞬時にそんな想像できるわね。いつもそんなことばっかり考えてるの?」


「しろって言ったのお前だろ!?」


「確かに、それと比べたらいい結果なのかな」


「もっと悪い可能性聞く?」


「ぶっ飛ばすよ?」


 それからの天戸は少しだけ楽しそうに、電車の窓から見える景色を楽しんだ。


 全方位視界の車窓っていいな、俺も経験してみたい。


 乗り換えを一度して、目的の駅に着いた。


◇◇◇


 電車を降りた瞬間に潮の匂いがした。


 夏休みで、いい天気。


 当然人が一杯いる。


 まさかこんなに遠出をするとは思わなかったので、普通にTシャツハーフパンツだ。と言っても、大体俺の服はそんなもんか。


 昼前だというのにとても暑い。


 天戸を見るとやはり汗一つかいていない。


 日傘も差さずに涼しい顔をして人混みを歩く。


「俺にも教えろよ、ずるいぞ」


「ん?障壁の応用よ」


 どうやら詳しく教えるつもりは無さそうだ。


 海岸に着いたが、当然の人混みだ。


「ほら、天戸。海。満足?」


 天戸は腕を組んで溜息を吐く。


「とは言い難いわね。もっと静かに海が見たかったのに」


「はは、夏休みだからな。そりゃ無理な相談だよ」


「そうでもないわ」


 ニコリと微笑んだ天戸を見て、イヤな予感がした。






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