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エンドレス・ニューゲーム~俺の幼馴染が『つよくてニューゲーム』を343回繰り返しているようだ~  作者: 竜山三郎丸


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82話 その名

◇◇◇


「それじゃ。今日は思ったより楽しかったわ」


 夕方から用事があるという我が主天戸うずめさんは、従者たる俺如きには勿体ないお言葉をかけてくれた。


「思ったより、な。そんじゃな」


 俺も夕方から用事がある。


 さすがにこの格好で買い物に行きたくないので一端帰って着替えることにする。


 花を買って、飲み物を買って、本屋に寄る。


 夏の花と言えば向日葵を置いて他に無いだろう。


 日が少し落ちて、風が出てきたので日中よりは大分過ごしやすい。勿論快適と言うほどではないが。


 Tシャツ、ハーフパンツで麦わら帽子を被り、足元はサンダル。

 

 買い物を済ませて目的地へ向かう。


◇◇◇


 杜居伊織が目的地に着くと、先に天戸うずめがいた。


 二人の目的地はハルの眠る墓地。


 今日は高天原ハルの月命日(つきめいにち)だ。


 天戸うずめはチラッと伊織を見て微笑む。


「お花、今月は向日葵なのね」


「風物詩だからな」


「そうね」


 お墓を少し綺麗にして、お花と線香を供える。


 線香の煙は、少し揺れながらも真っ直ぐと空に上っていく。


「なぁ」

 

「なに?」


「ハルは……、ここにいると思うか?」


 珍しく自信なさげに言う伊織に戸惑いながらも、天戸は少し考えた後で、申し訳無さそうに力無く答える。


「ごめん。……どっちも答えられないわ」



『ここにいる』


『ここにはいない』

 

 そのどっちを答えても、その言葉は伊織を縛ると思った。


 天戸の答えで、自身の質問の愚かさに気付いたのか気恥ずかしそうに伊織は笑う。


「悪い、変な事聞いたな」


 天戸うずめは、杜居伊織の服を少しだけ掴むと首を横に振った。


「ううん」


 高校の友人、淡島瑞奈は言った。『このままだと伊織君はおじいちゃんになってもハル、ハル言い続けるよ』、と。


 二人が不老不死にした少女、イズーニャは言った。『300年間異界の勇者……杜居伊織を想い続け、これから70年――恐らく死ぬまで伊織を想い続ける、と。

 

 その行為が正解なのか、真実なのか伊織にも天戸にもわかるはずはない。

  

「……ハルに会えたら」


『聞いてみよう』だろうか?


 余りに幼稚な責任転嫁にも思えて、杜居伊織はそれ以上口にするのをやめた。




◇◇◇


「おはよ」


「おはよ」


 いつも通り俺の側でポケットに手を入れて立つ天戸はチラッと俺を見る。


「バカにしてる?」


「まさか」


 周囲を見るといつもと違い薄暗い石畳の部屋で、沢山の男たちが俺達を囲む。


 床には見たことのない魔法陣のような物が描いてあった。


 ふと思ったのだが……、


 室内で俺が目覚めると、いつも天戸の後ろ姿が眼に入るのだ。


 思い返してみると、いつも。


 そして、屋外では特にそんな事はない。マフラー椅子に座っている天戸と目が合うことが多い気がする。


 ――もしかして、守ってくれているのか?


『まさか?自意識過剰ね』と、言われるのが目に浮かんだので口に出すことはなかったが。

 

 ざわざわと俺達を見る目は救世主と言うよりも、侵略者を見る目に見えたが気のせいだといいな、と思う。


「我らを召喚したのは汝等か?」


 天戸の前に一歩出て、俺は一同に問う。


 言葉が通じることにか、言葉の内容か、またざわざわとする男達。


『まさか本当に!?』

『言い伝えは本当だったのか!』

『いや、まだわからんぞ』


 口々に俺の言葉を解釈し近くの人と議論をする。

 

「問いに答えよ。言い伝えとは?」


 高圧的な俺の言葉に合わせて天戸はズンと地面を力強く踏みつけて地鳴りを起こして演出して下さる。


「早くして」


 演出かと思ったら素でイライラしていた可能性が高い。


 天戸様の圧に耐えかねて、一番年長と思しき黒フードの男が口を開く。


「……失礼致しました。まさか、言い伝え通りに異界の方が召喚されるとは、この目で見ても信じられず……」


 これはあまり無い反応だ。


 伝承としては残っているが、……生贄の力を持った修道女が中々いなかったと言うことか?


 生贄と言う言葉に抵抗があったので今後は『鍵』と呼ぶことにしようか。呼び方を変えただけで本質が変わるわけではないけれど。


 自らの命をすり減らし、異界の勇者を召喚する『鍵』


「証拠が見たければお見せしようか?異文化、書物、全てを破壊する力。大概の希望にはお応えできる用意はある」


 一瞬のうちに天戸の戦乙女の襟巻き(ヴァルキリーマフラー)が部屋の全員のフードだけを切り裂く。


 すると、一人の少年の歓喜の声が部屋に響きわたる。


「……ははは!ほら、見た?爺様方!僕の言ったとおりでしょ?」


 俺は目を疑った。


 横目で見た天戸も少し表情が固くなったように思えた。


 ――天戸のマフラーは、部屋の全員のフードだけを切り裂く。……その少年を除いて。


 彼のフードだけを残す理由は無い。


 避けた!?


 防いだ!?


 殺意がないとは言え、天戸の戦乙女の襟巻き(ヴァルキリーマフラー)の一閃を!?


「……し、失礼ですが、君は?」


 自分で分かる程声が震えていた。


 少年はあっ、と声を上げてフードを取り俺に笑いかける。


「失礼しました、異界の方!僕は……」


 彼が自己紹介を始めたその刹那、俺を含めて部屋の全員が重力に潰されるように地面にひれ伏す。


 気を抜くと胃の内容物が口から出てきそうになる。


 ――訂正。『彼』以外の全員。


 圧倒的な殺意の主は俺の後ろから超高速で滑るように移動する。


 当然俺の目には追えない。


『天戸!』と声を出そうとしたが、当然出ないし間に合わない。


 ギン、と言う激しい金属音と共に衝撃が部屋に広がった。


 天戸のマフラーを、少年は両腕で受け止めている。


 マフラーは肉に食い込み、血が滲む。


「……いっててて。何なんですか、あなた!?」


 少年は痛みに顔を歪めながらも笑みを絶やさない。


 天戸は目に明らかな殺意を灯して、少年に追撃を試みる。


「天戸っ!!!」


 何とか動き出した身体で必死に天戸に飛びかかる。


「天戸!待て!落ち着け!」


 どうした!?とは聞けなかった。


 いやな予感しかしない。


 多分合っている。



「離して!今ここで殺さなきゃ!……こいつよ!」


 少年は腕に治癒魔法をかけながら苦笑いで天戸を見る。


「えっ……と、誰かと間違えてますよね?僕は……」


 俺に天戸が抑えられる筈はない。


 天戸は抑えてくれているのだ。


 突然命を狙われたにも関わらず、無邪気な笑顔で少年は自己紹介した。

 

「僕はジラーク・グランクラン。……僕も他の世界に喚ばれた事があるんです!」


 ジラーク。


 その名前は、一度だけ天戸の口から聞いただけだっただろうか?


 天戸うずめの8回目の世界で、……ハルの命を奪った者の名だ。





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