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7話 赤い飲み薬・エリクシル

◇◇◇

 お金も入ったので取り合えず食事にしようと大衆食堂に入る。


 昼間っから酒の臭いと喧騒に天戸はマフラーで鼻と口を押える。

「……こんな所で食べるの?」

「逆に今までどんな所で食べてたんだよ。情報収集の基本でしょうが。ちょっと席取っといて」

「えっ!こんな所に一人で置いていくの!?」

 俺は天戸を白い目で見て小声で忠告をする。

「……あのさ、人が飯食ってる側でこんな所って連呼しない方がいいぞ。感じ悪いから」


「ぐぬ……」

 天戸は一瞬何か言い返そうかと考えたぽいが、一応納得してくれた。俺は注文がてら隣のさびれた町の事を聞いてみた。

「あぁ、あの町ね。領主の娘が病気なんだよ。だから金が必要みたいだな。まぁ、金があっても治るかどうか分からんが」


 店主は流石に事情通だ。さほど離れていないのにあの町の人等は知らんのな。まぁ、娘が病気だからって重税を課していいわけではないし。

「さて、どうする?殺す?」

「それじゃ解決しない……」


 やっと当たり前のことを言ってくれた。

「何か良い道具持ってない?若しくは魔法が使えるようになる書とかそう言うの」

 テーブルに料理を運び、食べながら相談する。肉が一品と芋類の付け合わせ。野菜はない。

「あなたそれ……ビールじゃないの?」

 俺のグラスを見て目ざとく指摘する天戸。


「いいじゃん。日本じゃないんだから」

「いい訳ないでしょ」

 そう言ってグラスを取り上げ、わざわざ別の飲み物を貰ってきた。


「例えばドイツだと16歳からビールとワイン飲めるんだが、ドイツで飲んだら違法か?逆がだめなのは分かるけどさ。そこのとこどうなの?」

「そう言う面倒臭いこと言ってるから誰からも相手にされないのよ」


 議論をする余地もなく人格の全否定と来た。

「そう言うのを思考停止って言うんだぜ。それに、誰からも相手にされないんじゃなくて、してないだけ」

「それは只の強がりでしょ」

「あぁ、お前だったらそうかもな」


 キッと俺を睨んでくる。ギスギス険悪な朝食だ。楽しくなってきた。俺が楽しそうに食べているのが天戸は気に入らないらしく、テーブルの下で足を蹴ってくる。

「あのさ、お嬢さん。お行儀が悪いんじゃないの」

「うっさい。八つ当たりくらいさせてよ」


 自分で八つ当たりとわかっているなら特に言う事はない。

「万病薬みたいなのとか無いの?取り合えず食事終わったら収納の中チェックさせて」

 俺がそう言うと天戸は顔を赤くして声をあげた。

「はぁっ!?本気!?」

「本気だよ。何があって何が出来るのかは早めに知っておきたい。後から『ああすればよかったこうすればよかった』って思うのは嫌だからな。これから何十回もクリアしなきゃいけないかもしれないんだから」


 天戸はお行事よく肉をナイフとフォークで切り分けている。基本的に黙っていればお嬢様みたいだな、こいつは。黙っていればの話だけど。

「何十回?まさかずっとついてくるつもり?」

「そのつもりだって言っただろ。俺は世界を救うつもりはさらさらないからな。そっちは任せた」

「……勝手な事言って」


 食事を終え、腹も膨れた所で買い物を続ける。

「もっと魔法みたいなのはどっかに売ってないっすかね?あぁ、ない?あはは、あざーっす」

 ニコニコヘラヘラと情報収集がてら買い物をする俺を腕を組んだままジッと訝し気に見る天戸の視線に気が付く。

「何だよ。買い物したいならお小遣いやるよ」

「普通に話せるじゃない。何でぼっちなの」


 あまりのバカげた質問に少しムッとしてしまうが、天戸としては本気で聞いてそうなのでちゃんと答える事にする。天戸が俺をどう思っているかはさておき、俺は決して天戸が嫌いでは無い。むしろその努力に敬意を持ってすらいる。


「んー、別に。正直家族とお前ら以外はNPCと思ってるからさ、話そうが話さなかろうが別に。何度も言うけど、俺は選択的孤独だからな?誰とも仲良くしたくないの。そろそろわかってくれる?」

「本当、ああいえばこういうのね。……みんなと仲良くしてないと不安なの」


 主語は『俺が』なのか『天戸が』なのかわからなかったけど、どっちにしろ今はいいやと思ったので、聞こえなかった事にしよう。

「とりあえず、地図と本買っといた。年表とかあると他の時代との対比もしやすいだろうと思って」

「ねぇ、一つ聞いていい?」


「……無駄に俺を馬鹿にした質問で無ければね」

「NPCってなに?」

 天戸は眉を寄せて言った。あぁ、通じないかゲームやらないと。

「ノン・プレイヤー・キャラクターだよ。ドリクエとかの町の人と一緒って事。あぁ、わかる?ドリクエ」

 国民的RPGドリフトクエスト。

「……存在は知ってる。昔ハルとやったことあるかも」

「へー、意外。つーか、あのゲーム一人用なんだけど」

「知ってるわ。私はずっと町の外で魔物と戦い続けるの。しばらく戦ってからハルと交代するのよ」

 天戸はどや顔で俺に言う。え、それって……ただのレベル上げじゃね?兄が弟によくやる奴じゃん。

「あぁ……そう。もしかしてあれ?『たたかう』とか、『まほう』とか選ぶやつだろ?スライムが出てくる……」

「そう!ふふ、知ってるの?あなたもやってた?」

「それがドリクエだ。……面白かったか?その間ハルは何をやってたんだ?」


「ハルは漫画を読みながら後ろから『頑張れー』って応援してくれてたけど。あっ、思い出した。あとはおっきいモンスターから逃げながらハチミツを集めるゲームね。どう?色々やってるでしょ」

 少し誇らしげにまたどや顔をする天戸。それ『モンステラハンター』だな。悪いな、そのハチミツ俺よく貰ってたわ。どうりでハルあんなにハチミツ持ってたわけだよ。

 モンステラハンター。これもまた国民的狩猟ゲーム。素材を集めて、強い武器を作って、より強い魔物に挑む。

「ま、まぁまぁだね。帰ったら貸してやるからうちこいよ」

 途端に白い目で俺を見る。こいつには俺はどう見えているのだろう?

「嫌よ。何かいやらしい事考えてるんでしょ?あなたが持ってきて」


 俺は大きくため息を吐いた。

「はいはい、持っていけばいいんでしょ」

「……随分素直ね」

「言ってもキリないからね。でも、昔みたいでなんかいいな。ゲームの貸し借り」


『マンガも貸してよね、ハルに貸すって言ってたやつ』と天戸は言った。いつお前に言ったっけ?と思ったけど墓で言ってたやつか。何故借りるのに偉そうなんだ?


 色々情報を集めた結果この世界は魔法が無いらしい。となると、不思議アイテムの類も無さそうなので長居は不要だな。


◇◇◇

 町を出て少ししたところで天戸の倉庫チェックを行う。


 金銀財宝は思いの外沢山あった。まぁ、今はこれは関係ない。倉庫の中はカーテンなどで綺麗に区分けがされていてきちんと整理整頓されている。絵に描いたような宝箱も沢山ある。


「魔法薬とか、万能薬。そんな感じの物が欲しいんだけど心当たり無い?」

「有るとしたらその箱の中だと思う。一応全部但し書きが付いているから、あれば分かると思う」


 2人で箱の中をあれこれ漁る。確かにいろいろな薬が入っているが、真偽の確認が出来ないのは恐いな。『回復薬』『痛み止め』『栄養剤』『転移薬』『加速薬』

「……加速薬ってなに?」

「メモついてるでしょ?暫くの間高速で動けるようになるの。その分体力消費も跳ね上がるけど」


「回復薬で病気は治らないかな?」

「うん、体力が戻るだけだから」

「うん、じゃなくて覚えてないのかよ。何が入ってるのか」

「あなたは345回旅行に行ってその土産物を全部覚えていられる?時間にすると多分50年は超えるわよ」


 ――50年。比喩でなく、天戸が現実以外で過ごした時間なのだろう。

「わかったよ、ごめんな。おばあちゃん」

「だまれ」


 暫くして、豪華な瓶に入った赤く透き通る液体を見つけた。それっぽい。天戸はそれを見て思い出したようだった。

「あっ!それ。エリクシル!万病に効く霊薬だって」

「マジか。じゃあとっととクリアしちまおう」


 俺の言葉が気に障ったようで天戸は眉を寄せる。

「そのクリアって言うのやめてよ。……何かムカつく」

「悪い悪い。心の中でだけにするよ」


◇◇◇

 領主は天戸の力を見せると、異界の勇者とすぐに認めた。娘の略取は娘の話し相手、遊び相手としてだったようだ。だからといって良いわけではないが。


 税率を並に戻すこと、民に優しくすることを条件にエリクシルを渡す。

「……盟約を違えれば我らまた異界より現れる。その時は親娘諸共に異界の塵へと変わるだろう」


 何の力もない俺がそれっぽい言葉で一応脅しを掛ける。


 領主はお礼にまた財宝といくらかの書物をくれた。エリクシルを飲むと、数秒で娘の顔色がよくなり、呼吸も穏やかになる。

「……一応お医者さんに見て貰ったらいいわ」


 そういい残して俺達は屋敷を出た。領主が民に謝罪と感謝を告げると、俺達の身体は光の粒子に包まれた。――クリアだ。


「お疲れ様、……ありがと」

「おっつー。居眠りするなよ、優等生」

「うっさい。あなたもでしょ」


 目が覚めると教室だった。


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